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fileⅡ ~警察官僚偽装殺人事件~②~

「……香那ちゃん?頭を上げて……貴女のご両親は何も悪くないの……悪いのはむしろあたしと康太の二人……けど…あの時のあたし達二人にはとてもじゃないけど…フェイク…そう…偽装されたあの現場に貴女のご両親だけを行かせる事はとてもじゃないけどできなかったのよ!どうしようもない落第生だったあたしと康太を参事官の明日香さんといといっしょになって今の地位まで押し上げてくれた……そんな大恩ある貴女のご両親…意地にでも死なせたくなかったのよ……けど…結果はこの有り様……謝るべきはあたしと康太の二人……未来ある貴女からご両親を奪ってしまった事…許してください!」


 彼女、一ノ瀬里緖さんはそう言うと、車椅子からずり落ちるように切断処置でしか、手の施しようがなく、跡は義足を付ける以外彼女が立って歩ける保証などないにもかかわらず、彼女はあたしの前に座り込み、康太さんと二人、深く頭を下げてくれた。


「康太さんも里緖さんも…頭を上げてください……父と母は最初から予測してたんだと思います……あたしの祖父の粗暴な振る舞いを諌め…あの人の逆鱗に触れた時から…父と母は自分達二人は警察組織のはみ出し者……ああなる運命を予測していたのだと…今は思います……それに…この一連の事件…一見つながりが無いようにも見えますが…あたし…この事件何処かでつながってると睨んでます!それにこの事件に被害者遺族にあたる麻美さんや丈一郎さんには協力が仰げないんてすお二人にご協力いただけるなら願ったり叶ったりてす!でも…くれぐれもお二人の身の安全最優先で……命の危機を感じたら速やかにこの件からは手を退いてくださいね……あたし…もう嫌なんです……人の今際の際に立ち会うのは……」


 痛いほどに突き刺さる二人の熱意。それにほだされ、あたしもついつい熱くなってしまい、気がつけばあたしは、泣きながら二人を説得していた。


「わるかったな…香那ちゃん……返ってあんたの頭ぁ混乱させちまって……けどよぉ…こいつぁあんたよりかちっとだけ長く生きてる……けどまぁなんだなぁバカの独り言と思って聞き流してくれるかなぁ……人の今際の際に立ち会いたくねぇってなぁそりゃあ誰しも思う事で至極当然だと思うぜぇ……けどよぉ…この場合はあえて言わせてもらう!身の危険を感じたら速やかに手を退くなぁ香那ちゃんの方だ!」

 この、皆上康太という青年。父と母から聞かさていたとおりの青年で、単純で直情径行型なとこは否めないが性格に裏表が無く、物事を舌先三寸で済まそうとする。あたしが今まであって来たどの男より誠実で素直な男だと思うと同時に、この二人、絶対死なせたくない二人でもあった。


 忘れもしない、あれはひどく寒い冬の朝だった。

 大学生になり親元を離れての独り暮らしをはじめたばかりの冬の朝、ベッドサイドに置いていたスマホが電話の着信を報せていた。


 それは、あたしの両親の殉職と、明日香さんが参事官を失脚したという。二つとも、不幸の報せだった。


 その全てに納得のいかない当時のあたしは、素早く身支度を整えると、東京霞ヶ関にそびえ立つ警視庁を訪れたのだが、当時を知る者はほとんど僻地の交番に左遷になったか、あるいは依願退職したかで、警視庁にはおらず唯一あたしが話しのできる相手と言えば、あたしに電話をくれた彼女だけで、彼女自身も今は、警察官の職を退き明日香さん専属の情報屋として生計を立てていた、信楽深雪という女性だけだったと記憶している。

 けれど、今のあたしなら彼女の言う事も、全て理解できたのだろうが、当時のあたしは失礼にも、苦渋の思いであたしに、両親の殉職と、明日香さんの職務失脚を報せてくれたであろう彼女に、詰め寄り泣きわめくことしかできなかった。


 しかしこのときの彼女は優しく、涙を流して、あたしの泣きやむまで、あたしをずっと抱きしめてくれていた。

 信楽深雪。彼女もまた、警察官僚の家に引き取られた孤児であったためか、親が警察官の家庭に育ったあたしの気持ちが、痛いほど伝わったのだろう。


「……香那ちゃん…少しは落ち着いた…?貴女がこの意味を理解するころには…おそらくあたしも明日香さんも…警察組織に抹殺されてると思うの……あともう一つ言わせてもらうなら…この件に香蘭は無関係よ……この件にかかわっているとしたらおそらく…警察庁のトップ舞原龍三郎の実子…舞原直子…真奈美の姉妹が組織した被害者救済組織を名目にその実態は法律を隠れみのにした合法的殺人集団秘密結社堕天使……奴らはおそらく…本来中国系の犯罪組織であるはずの香蘭をも凌ぐ犯罪組織に成り下がってるわ……だからこの件にはもうこれ以上かかわるのはやめた方がいいというのがあたしと明日香さんの率直な意見なんだけど……もう一人のあたし達がいて貴女に真実を突き止めてもらいたい……けどこれには絶対条件がある……それはね…貴女の身の安全よ……それ無くして事はなし得ない……」

 時に熱く、時にしんみりと彼女がそう語ったのは、警察庁近くの彼女の行きつけの喫茶店。

 その店の奥にある彼女お気に入りの席だった。


 それから数日後だったと記憶している。

 深雪さんと、明日香さんの訃報を聞いたのは。


 そして、 警視庁近くの合同慰霊碑で、康太さん里緖さんと別れたあたしはいつしか、女頭目、リーリーファンが仕切る犯罪組織。[香蘭]が根城にする西新宿の裏町エリアへと足を向けていた。


 そして、エリア敷地内に立ち入ったあたしは、五人ほどの武装した男達に囲まれていた。


「……その物騒な物…早くしまってくんない?別にあんた達と喧嘩しに来た訳じゃないしね……」

 あたしはそういうと、自分の周りを取り囲む明らかに未成年としか見えない男達を目線だけで牽制した。


 しかしあたしもかつては、警察官家庭に生まれたことを呪っていた時期があり、一時期はこのエリアの住民だった経緯から、ここに住まう少年少女達が目線だけで牽制できるとは思っておらず、武器を手にこちらを威嚇してくる少年達を、一瞬だけ、殺気を全面に押し出した視線で睨むと、続けて言った。


「……そんなにあたしと喧嘩したい訳?病院送りか…はたまた最悪今のあんた達に死ぬ覚悟があんならいくらだって相手になってあげる……もし…そんなんじゃなかったら…さっさとその物騒な物しまってあんた達の大将呼んで来てよ……昔の旧友が訪ねて来たって言えばわかるはずだから……」


 けれど、さすがは女頭目リーリーファンに忠誠を誓った少年達というべきか、その少年達は武器をしまうどころか、五人の中のリーダー格の少年が中国語で合図めいたことを言ったのを皮切りに、口々に何かを叫び、あたしに対して臨戦態勢をとったときだった。


「……双方!退け!……」

 臨戦態勢に入るあたしと彼ら五人の間を貫くように、流暢な日本語ともに、二本のスローイングナイフが、あたしと彼ら五人。それぞれの足元へと飛んできた。


「……香那ぁ…久しぶりあるな……こいつらの無礼な振る舞い許してやってほしい……あんたがここを離れて最近あたしの仲間になったばかりの今年十四になったばかりの少年達あるよ……あんたがここに来た訳…まぁだいたい予想はつくあるよ……あの時の事件…まだ何も終わってないあるな……あんたのご両親殺したは警察組織でも…あんたのじいさんでもない……香那ぁ…気をつけるあるよ…善人の皮をかぶった獣には……例の事件がらみで命を落としたとされてる警察官僚の女二人にはねぇ……」

 彼女、リーリーファンはそういうと、先ほどあたしに襲いかかろうとした少年達に完膚なきままの鉄拳制裁を加え、彼らの血で汚れた右手拳をハンカチで拭くと、あたしの顔を正面から見据えて、寂しく笑った。


「……ちょっと待ってよリーファン!なんで…どうして!?明日香さんと深雪さんはこの事件の被害者よ……」

 彼女の言うことの意味がしばし理解できなくて、二人の側近とともに自分の居住スペースへと踵を返そうとしたリーファンにあたしは少し、感情的に詰めよったのだが、激情の波がとおりすぎ、冷静になったあたしは、驚くほどに彼女の言葉の意味が理解でき、その先の言葉を失った。


「……相変わらず打てば響く子あるねぇ香那は……」


 彼女はそういうと、あたしを見据えて妖艶に笑った。

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― 新着の感想 ―
 香蘭を訪れた香那ちゃん、肝座ってますよねー。  あらくれた少年達を前に一歩も引かないなんて。  そこに登場してきた、リーファンもカッコいいですよね。  スローイングを操って。  リーファンの言葉に依…
様々な不吉なことが起こっておりますね。 どのように転ぶのか目が離せませんね。
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