私と口の悪い冒険者、さっちゃん パート2
短編「私と口の悪い冒険者、さっちゃん」の第2弾です。
前作を読まなくても問題ありません。(時系列は前作より後になります)
煙をもくもくと上げながら走る集団がありました。
どうやら2人の女性を追っているようです。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
動物のようです。500匹はいます。彼女達は大丈夫でしょうか?
私達は冒険者。「Aランクパーティー「私と口の悪いさっちゃん」です。
今、500匹くらいのマッドウルフに追われて、走って逃げています。私は魔法使い、さっちゃんは武闘家兼剣士です」
私は気が強そうな容姿ですが、気が弱くて、人付き合いが苦手です。
さっちゃんは庇護欲そそる様な容姿ですが、気が強く、敵認定されない限りフレンドリーなのです。
容姿も性格も真逆な私達ですが仲良くしています。
でもさっちゃんにはとても困った事があります。
気づいているかと思いますが、さっちゃんは口がとぉーっても悪いのです。
冒険者ランクはSを頂点として、A、B、C、D、E、見習いとしてFがあります。
現在、この国にはSランクの冒険者はいません。だから私達は結構有名なパーティーなのです。
「ねぇ」さっちゃんが聞いてきました。
「何?」
「その「口の悪い」ってのは何なのよ」
マッドウルフの群れはさらにスピードを上げました。
「パーティー名だけど」
「それはわかってるんだけどさー」
さっちゃんはマッドウルフよりも、パーティー名の方が気になってるみたいです。
「そのパーティー名何とかならないの?」
ドドドドドドドドドドドド
かなり近づいてきました。
「別に変更出来ない事は無いと思うけど、どうだろう」
結構近づいて来たんだけどなぁ、さっちゃんは気にならないのだろうか?
「ま、いっか」
良いみたいです。
とにかく私達はマッドウルフの群れから走って逃げています。
「ねぇ」
「何?」
なんだかデジャヴを感じます。
「魔法でなんとかなんないの」さっちゃんから聞かれます。
「迷ってるの、爆裂系だと地面に穴あけて怒られちゃうし、またあの「こうじげんば」っていうのが嫌なのよ」
「あぁあれな、あの黄色い「へるめっと」っていうやつ、あれおもしれーな」
「私は「さぎょうぎ」が嫌だったなぁ地味だし」
以前私が使った爆裂系の魔法で大きな穴を開けてしまい、工事をしようとしていたおじさんたちに怒られ、工事を手伝った(手伝わされた)ことがあるのです。
似合ってたわよアンタと言って、あはは…と笑うさっちゃんです。
笑ってる場合じゃないと思うんだけどなぁ。
ガガガガガガガガガガガ
ほら、ますます近づいて来ています。
とにかく私達は走って逃げています。
「魔法で雨みたいなのねーのか?」さっちゃんが言いました。
「ん、飴?んん…あ、雨ね、あると思うけど」
「だったら早く使いなさいよ」
「う、うん」
私達はその場で止まって、くるっと後ろを向き、マッドウルフと対面しました。
バババババババババババ…
マッドウルフ達が目の前に居ます。
「じゃぁ魔法使います」私は詠唱の準備をしました。
「………」
「………」
「早くやりなさいよ」さっちゃんが怒っています。
「え〜と何だっけ?」
「忘れたのぉあんたバカねぇ」
「雨、雨、レイン、あ!分かった!」
私は杖を掲げます。
「えへ、私、思い出した。凄いでしょ」
私は胸を張ってさっちゃんに言いました。
「自慢してないでさっさと撃ちなさい」
さっちゃんに怒られてしまいました。仕方がないので魔法を撃ちます。
「ホーリーレイン!」
襲い来るマッドウルフの群れの上に、巨大な魔方陣が展開され、無数の光の雨が降り注ぎました。
ものすごい数の光の矢に貫かれたマッドウルフ達は、穴だらけになって倒れました。
「………」
「………」
「何なのこの威力、一発で全滅じゃん。それなら走らんでも良かったのに。つーかアンタいつ聖属性魔法覚えたのよ」
何故かさっちゃんにプリプリ怒られてしまいました。
「いや、あの、アシッドレインは毒だらけになるから。ホーリーレイに「ン」付けるといいかな…と」
「そーじゃなくて、何で聖属性魔法がいきなり使えんの?って聞いてんの!」
「誰でも使えるんじゃないの?」
「はぁぁあ、全属性使える魔法使いなんてほとんど居ないわよ」
「そうなの?」
「がぁー、はぁ、まぁいいわ、アンタは魔法に関しては天才ね」
「天災?」
「ちがーーーう はぁはぁ。ふぅ。で、あれなんなのかな?」
さっちゃんはいっつも怒ってる気がするなぁ、と思う私でした。
確かにマッドウルフは群れますが、せいぜい十数匹で、あれほどの数の群れは見た事も聞いた事もありません。
「スタンピードじゃないとは思うけど…」
「たぶん追われてたんじゃない?、いるのよ、デカブツが、ま、トレイン状態だったんじゃない?」
実際、マッドウルフ達はものすごい脅威が近くにあると感じて、逃げてきただけなんです。
「トレイン状態は私達の方かと…」私が指摘すると。
「細かいことはどーでもいいの、どーするかって事」
「パーティー名?」
「違うわよ!デカブツの方」
「ギルドに報告した方がいいと思うけど…」
「それはするわよもちろん」
「どうするって?」
「そのデカブツをぶっ飛ばす、とか?」
「私達がぶっ飛ばされそうだと思うんだけどなぁ」
「大丈夫よ、たぶんヒュドラとかヒッポグリフとかいるかも」
さっちゃんは何故かワクワクしてるようです。
「竜種だったら怖いな」
「そん時はパパって倒してドラゴンスレイヤーよ!」
「土竜は退治した事あるから既にドラゴンスレイヤーだと思うんだけどなぁ」
「あんなセコいやつじゃなくてさーもっとカッケーやつ」
さっちゃんの基準が分かりません。
「とにかくマッドウルフをアイテムボックスに入れて見に行きましょ」
さっちゃんはノリノリで歩いて行きます。
「ちよ、ちょ、ちょっと待って」
私はマッドウルフをアイテムボックスに入れて、いそいそとさっちゃんについていきました。
「あれだ」
崖の上から下を見てみると、巨大な竜、ホワイトドラゴンが佇んでいたのです。
さっちゃんは野生の勘でもあるのか、すぐ見つけました。もしさっちゃんから逃げる事があった場合、隠蔽魔法で姿を消すだけじゃなく、臭いを辿られないように臭いも遮断して、あと気配も消さなきゃなと、私はどうでもいいことを考えていました。
「あれどーする?」さっちゃんが私に聞きました。
「どうするって」
「とりあえずボコボコにしとくか」
「ギルドに報告したほうがよくない?」
「ちょっくら挨拶してくるわ」
ピュンとさっちゃんは崖の下に降りていきました。
「ああ、やばいよ」と言いながらも、仕方がないので私もすごすごと崖の下を降りていきました。
崖の下に降りてみると、さっちゃんはホワイトドラゴンの前で仁王立ちしていました。
「おい!テメー」
さっちゃんがいきなり叫びました。ホワイトドラゴンはゆっくり顔を向けました。
『何だ貴様』
ホワイトドラゴンって喋るんだ。と私はまたどうでもいいことを考えていました。
「お前のせいで私達はマッドウルフに追い回されたんだぞ」
『フン、犬如きに追い回されるとは愚かだな』
「馬鹿か、あんなもんすぐ退治できるけど色々あるんだこっちも」
『ほほぅ生意気なこと言う小娘だな』
「トカゲ野郎には言われたくないわ」
さっちゃんは強気に言ってますが、大丈夫でしょうか?
『我をトカゲ扱いするとはな。どうなっても良いのか?』
「トカゲ野郎もどうなってもいいのか」
『人間風情にしては偉そうなこと言うな』
「てめーは馬鹿だな」
『何だと!』
「だ、か、ら、てめーはどうなってもいいのか聞いてんの。」
『小娘に何ができる』
「そーだな。一発げんこつでも落とすか」
『がははは、面白い小娘だな、久しぶりに笑ったわい』
「もぅトカゲ野郎はってのは人の話が分からんのか、やっぱり馬鹿だ」
『我を侮辱するとはいい度胸しているなこれでどうだ』
ホワイトドラゴンは強烈な威圧を放ちました。
私は無詠唱で結界を張りましたが、さっちゃんは平気でそこに立っていました
『ほぅ我にの威圧に耐えるとはな』
「だ、か、ら、げんこつを落としてもいいのかって聞いてんの」
(あああまずい)
私は心の中で叫んでいました。
『小娘のげんこつ如きに痛くも痒くもないわ、やってみろ』
(さっちゃんはやると言ったら本当にやる、例外はない)
「アンタ、補助魔法お願い、動かれると面倒だから」
いきなり言われたので、私は少し驚いてしまいましたが、「はい」と言って杖を掲げました。
「グラビティ!」
強烈な重力が、ホワイトドラゴンを襲いました。
『ぐぐ動けん』
さっちゃんはグンと屈んでぴょんと飛び上がりました。
ごっちーーーん!
バタン!
思いがけない強烈なゲンコツに、ホワイトドラゴンは頭に大きなたんこぶを作りドカっと倒れました。
(実はこのゲンコツ、さっちゃんが身体強化と身体硬化(鉄のようになる)を使って、300メートルまで飛び上がって落ちてきたのです。400キロの物が時速約280キロでぶつかる程の威力があります)
「フン、大したことねーな」さっちゃんはちょっとつまらなそうです。
やっぱりこうなったと、私は思っていました。
それでもホワイトドラゴンは何とか顔を上げました。
『なかなかやるではないか』
そうは言っているがホワイトドラゴンはかなりビビっているように感じました。
「このまま倒して持って帰ったら売れるぞ」
さっちゃんはニコニコしながら言いました。
『グググググ』
ホワイトドラゴンはさらに抵抗しようとしました。
「アンタ、もう一回魔法使って」
「わかった」
私は再び杖を掲げ、魔法の詠唱をしました。
さっちゃんとは付き合いが長いので、何が言いたいのかよく分かります。
「グラビティ・ダブル!!」
私の即興魔法ですが、先程の重力の2倍の強さががホワイトドラゴンに襲いかかりました。
『や、やめろ!』
ドラゴンはかなり焦っています。
「もう一度げんこつ落とすか」
さっちゃんは清々しい顔をして言いました。
『やめてくれ』
「はぁあそこはやめてくださいだろう」
『や、やめてください』
「よし」
私は魔法を解除しました。
「さあ、これで私達の実力がわかった訳だけど、どーするかな?討伐して素材にすれば結構儲かるぞ」さっちゃんが言いました。
ホワイトドラゴンは慌てて言いました。
『いやいやちょっと待ってください、仲間にしてください』
「どーすんだ」
『名前をつけてください』
「名前?どうするかなぁ〜白いから「シロ」、今日からてめーは「シロ」だ」
安直な名前だなぁと私が思っていると、ホワイトドラゴンがピカッと輝き出しました。
しばらくすると光は静かに消えていきました。
『これで私はあなたの仲間となりました』
ホワイトドラゴンは名前を気に入った様でした。
さっちゃんは召喚士だったのかな?私はそんなことを考えていました。
「そんなでかい図体してたら街に連れて行けんだろ」
さっちゃんがそう言うと、シロはビューンと小さくなってトカゲのぬいぐるみのようになりました
「なかなかか可愛らしいじゃねーか」
さっちゃんはこう見えて可愛いいものが大好きなのです。
トカゲのぬいぐるみになったシロは、ぴょんと飛んでさっちゃんの頭の上に乗りました。
『この場所はなかなか気持ちがいいなぁ』
なかなか気に入ったみたいです。
「んじゃ帰ろう」
さっちゃんは容姿は可愛らしい女の子です。なのでトカゲのぬいぐるみを頭に乗せた可愛らしい女の子だと、端から見れば微笑ましい光景なのですが、私はさっちゃんの強さも性格も知っているので、なかなかシュールだなと思っていました。
女が3人よれば姦しいと言いますが、私達は2人でも充分姦しい…いや、やかましい(主にさっちゃんが)のです。
ガヤガヤとお話しながら2人と1匹でギルドに向かって歩き始めました。
ギルドに帰った私たちは、換金所に併設されている解体場で500匹のマッドウルフを出して、解体場おじさんに「こんなにいっぱい持って来るヤツがいるか!」と怒られながら伝票もらいました。
そしてギルドの受付嬢のところに行って伝票を提出し、とても驚かれながら報酬金をもらいました。
そして、シロをテイムモンスターとして登録しました。
受付嬢に今回の事態を話しましたが、さっちゃんの上に乗っているぬいぐるみ(シロがそう見えるように演技しています。謎です)を見て、全く信じていない様でした。
そして、たくさんの報酬金をもらって、ホクホクした私とさっちゃんとシロはご機嫌で宿に帰っていきました。
彼女たちはこの後、色々と騒動…こほん。活躍して「トカゲを連れた冒険者」として有名となっていくのですが、それはまた別の話。
おわり
最後までお読み頂きありがとうございました。
前作 短編「私と口の悪い冒険者、さっちゃん」もよろしくお願い致します。
シリーズ第3弾「私と口の悪い冒険者、さっちゃん パート3」私とさっちゃんがAランク冒険者になった経緯が明らかになります。
ちなみに、さっちゃんのゲンコツの威力
※さっちゃんのゲンコツ
さっちゃんは、身体強化で鉄のように硬くなって、300メートル上空に飛んで落ちてきました。
計算すると、ジャンプしてからドラゴンに落ちてくるまでが約16秒かかります。ドラゴンが動くと面倒なので、重力魔法で動きを止めたのです。
その時、さっちゃんの体重が50キロとすると鉄の比重は人の約8倍なので400キロ。300メートルからの自由落下の速度は、時速276.15キロメートル。つまり400キロの重さのものが時速280キロくらいでドラゴンにぶつかったことになります。
誤字報告ありがとうございました!