トーマス・セルビ視点
アンジェリーナ嬢から男爵令嬢に絡まれたとの報告があってから、数日後。
なにやら、視線を感じた。
素知らぬフリで辺りを伺うと隠れてこちらを伺っているユーリアを見つけた。
彼女は殿下の様子を伺っていた。
とうとう殿下にちょっかいを掛けに来たか…
今、ライアン殿下はアンヌリーブ王女と庭園を散策中だ。
この場面で、何をすると言うのだろう。
そんな事を考えていると、殿下たちの前まで回り込んで来たユーリアは道の端で頭を下げて待っている。
おや?
礼儀も何も出来ないでマナーの先生に怒られて、少しはマシになったのか?
「恐れながら、ご挨拶申し上げます。
セルビ伯爵令息様に少しお時間を頂きたいのですが」
「ん? 面を上げよ、名を名乗れ」
そう殿下に言われ、ユーリアは上目遣いに媚を売るような眼差しで、瞳をうるうるさせて殿下を見ている。
「私、ユーリア・エノームといいます」
「ふーん で?
トーマスに何用だ?」
彼女の視線での誘い掛けに鈍感な殿下は気付いていない。
その上、今はアンヌリーブ王女が隣にいるから、殿下としては、下手に女性との接触はしたくないと顔に書いてある。
「えっと…」
殿下に声を掛ければ、何とかなるとでも思っていたのか?
ずいぶん自分の容姿に自信を持っているようだが、全然通用しなかったな。
笑いを堪えつつ、声をかけた。
「私に何か用か?」
「はい、あのえっと、この前はありがとうございました」
「この前?」
「はい、私が道に迷っているのを助けて頂きました」
「ああ、しかしあれは道を聞かれたから答えただけの事。
わざわざ待ち伏せされてまでお礼を言われる程の事ではない。
しかも殿下を煩わせるなど、私としては迷惑な話だ。
今後はこう言った事は止めていただきたい」
「え? す、すいません」
流石に不味いと思ったのか、顔を青くして謝罪された。
「トーマス、気にするな 行くぞ。
アンヌリーブ 待たせてすまない。
薔薇の園はこの先だ」
「いいえ 大丈夫ですわ」
そう言って、2人は歩き出した。
ユーリアは唖然として、その後ろ姿を見ていた。
「殿下ったら、私を見て何とも思わないなんて、あの目は節穴なの?
それに婚約者のアンジェリーナ様がなんで一緒じゃないの?」
小さな声で呟いていたが、私の耳にはしっかり届いた。
普通なら、不敬罪を咎めたいとこだが、もう関わるのも面倒だな。
最初の接触で、殿下は何の興味も示さなかった。
出だしは成功だと言えそうだ。
明日、アンジェリーナ嬢に報告に行こう。




