2人の距離
冬の柔らかい日差しが降りそそぐ、小ホールに、蓄音機の音が響きアンジェリーナのスカートが翻る
のんびりとした午後のひととき、ヴォルフ様にダンスレッスンを付き合ってもらえて、アンジェリーナの心の中はもう春のごとく暖かさが満ち溢れ輝いているようだった。
いくら、近くにエマが控えていてくれるとはいえ、パーティー会場と違いほぼ2人っきりなのだ。
心臓はいつも以上に跳び跳ねて、決してダンスの所為だけではないドキドキを静めるのは一苦労だ。
前世での私にはダンスの経験なんてないし、踊っているときも人の踊りを俯瞰で見てるような感じだけど、アンジェリーナの体にはしっかり叩き込まれていて、私が迷ったり、動きが止まるようなことはなかった。
それたけ、アンジェリーナがどれ程真剣にダンスに取り組んでいたかが分かる。
そんな、アンジェリーナの上をいくほどヴォルフ様のダンスは見事なものだった。
「本当にヴォルフ様はリードがお上手ですね。
これ程踊りやすい方は初めてだわ」
「それは、こちらが言うことだよ。母以外でこれ程踊れる女性は初めてかもしれない…」
「もう下手な男性とはダンスをしたくなくなります ふふふ」
私はそんな事をいいながら、ある人を思い出していた。
ライアン殿下にはよく足を踏まれたな…
といきなり思った。
? そうなんだ~
おかしな話だか、自分で思って、自分で相づちを打ってる気分。
そして少しずつ記憶が流れてきた。
ライアンはもともとダンスが嫌いで基本の踊りしか出来ない上に、練習もしないからいつも必ず間違えるのだ。
その度にアンジェリーナが痛い思いをしていた。
それなのに大して悪いと思っていない様子で「ああ、悪い」と一言うだけだった。
そんな事もポツリポツリと休憩の時にヴォルフ様に語った。
この人が私をどう思っているかも分からないし、多分友人の妹ってだけかもしれないけど、少しでも今までのアンジェリーナの苦労を知ってほしかった。
ヴォルフ様は少し考えて、
「君はもっと大切にされるべき人だよ。
決して自分から諦めてはいけない」
そう言ってくれた。
私もアンジェリーナも嬉しかった。
心が暖かい、窓から入る日差しよりももっと私を暖めてくれる言葉だった。
それから、毎日ヴォルフ様とすごしながら、今まで家族にも言えなかった婚約者の事を聞いてもらった。
◇◇◇◇◇◇
━ヴォルフ視点━
毎日アンジェリーナとダンスレッスンをしている。
このひとときは何にも代え難い時間になっていった。
そして、王子の彼女に対してのひどい態度を聞くたびに、はらわたが煮えくり返る。
そんなに嫌なら婚約解消でも、破棄でもしてくれればいい。
そうすれば、すぐにでも彼女をさらっていけるのに…
彼女をもう友人の妹として見ることが出来なくなっている自分を認めざるをえなかった。
この想いは決して表に出せないだろうな…
だとしても、心の中の気持ちを認識してしまったら、なかったことには出来そうになかった。




