昔のはなし
昼休み、アンヌにジュリアス殿下に話があるからと、先に皆でカフェに行ってて貰うように頼みます。
「分かったわ、ランチ頼んでおくわね。ケーキは何にする?」
とアンヌがカフェで私の分も注文してくれると言います。
「そうね。本日のサンドイッチのランチと本日のタルトをお願い」
メニューを伝えて、足早に教室を出て1年のクラスへ向かいます。
「ジュリアス殿下」
丁度、教室を出てきたジュリアス殿下を捕まえる事ができました。
「アンジェ姉上? どうしたのです? 今日はご一緒にランチをされますか?」
「ごめんなさい、ランチは友達とカフェに行く事になっているの」
「そうですか、ではランチはこの次の機会に。
それで、どうしました?」
「少し折り入って相談があるのです。今日の放課後、予定がなければ時間を頂きたいの」
「姉上が僕に相談ですか。
それはうれしいです。僕に出来る事なら何でも言って下さい。
ただ今日は早めに王宮へ戻らないといけないのですが」
「それでは王宮へ帰る馬車の中で構いませんわ。
その後、王宮へも用事がありますので、ご一緒させてもらえれば都合がいいです」
「姉上がそれでよければ、僕は構いません。
放課後迎えに行きますので教室で待っていて下さい」
「分かりました。では後ほど」
私はジュリアス殿下に約束を取り付ける事が出来て、一安心しながら、カフェに急ぎます。
「おまたせ」
カフェテリアのいつもの席でおしゃべりしている4人に声を掛けました。
「ちょうど今、お料理が届いたところですわ。タイミングがよかったですよ、アンジェ」
クラリッサが空いている隣の席を指して言います。
「急いで戻った甲斐がありました。
いただきま~す」
私は席に座りお茶のカップを取り上げました。
「みんなで今日来た留学生の話をしていたのよ。
フリオール殿下って本当に王族の方なのかな?ってくらいなんだか気さくでしょう」
とエミリーが私におしゃべりの内容を教えてくれます。
「ああ、みんな各々挨拶をしていたものね」
クラスのみんなは休み時間に、次々フリオール殿下に挨拶をしに行っていました。
いくら様子を伺うと言っても遠巻きにしているだけではなく、みんな貴族の子息嬢だからそこはしっかりしています。
かく言う私も昨日の事はおくびにも出さず初対面の様な挨拶をしました。
それは向こうも同じでお互いにしっかり周りを意識したやり取りでした。
「アンジェやアンヌは面識はあったの?」
とキャロルが聞いてきます。
「私は1度キリガスへ行った時に挨拶をされた気がするわ。
でも随分昔なの」
とアンヌはキリガスの第一王子の成人の義に参加するために兄妹で訪問したと言う。
「あの時はお父様達は自国の方にも来賓があって国を離れられなくて、初めてお兄様と一緒に公務で他国へ行ったのよ。
でもね、本当は王弟殿下のお供だったの。
あちらが成人を迎えたばかりの王子の祝いだから、同じ王子や王女を連れていってみようって話でね」
その頃を思い出したのかクスクス笑うアンヌ。
「私とお兄様は1人前に扱われた事も初めてだったから、とても緊張していたわ。
だからご挨拶した第一王子の事くらいしか記憶にないの」
うーん。私の記憶と同じような初対面の思い出ね。
「私もアンヌと一緒よ。
ライアン殿下の元服のお祝いの時だから、私がまだ11歳の頃にこの国に来られたはずなのだけど。
あの時ライアン殿下のお近くで私はあまりにも大勢の人に挨拶をしていたから、フリオール殿下の記憶は私の中に残ってないの」
本当はフリオール様に言われるまでこの事も忘れていたけど、ちゃんと覚えていた事柄のように言ってしまったわ。
まぁ、この場にフリオール様もいないからいいでしょう。
別に嘘では、ないものね。
昔会っているらしいけど、フリオール様の事を覚えていないって話なだけだし。
「向こうは覚えているのかしらね?」
とエミリーが誰ともなく言う。
「どうかしら? きっと覚えていないわよ。挨拶した時も何も言っていなかったもの」
アンヌはあまり興味なさそうに言う。
「アンジェはどう?」
「私もそんな話はしてないから、フリオール様も覚えてないわよ」
本当は髪の色だけ覚えられていたのよね…
でも、それはみんなの知らないこと。




