アンジェ熱を出す
アラン様は、ヴォルフ様とウォル兄様2人と知り合いだったのね。
最初にアラン様の声を聞いた時、なぜか優しく感じたのは私に危害を加える気などなく、むしろ守ろうとしてくれていたからだったのな。
私達は遅くなってしまった夕食を取りながら詳しい話をした。
もともと私が王妃様から命を受けていたことは、両親も兄も知りません。
そこから話をしないといけません。
食事が一息ついたところで私は学校で今起こっている問題を話します。
そして1番問題を起していて、謹慎処分になったバルバラ様が、私を目の敵にして排除しようとしたのが今回の拐かしの理由だと言う事を説明しました。
「ジュリアス殿下のお妃選びがそんなに加熱しているとは… 城でもいろんな話は飛び交っていたし、自分の娘を推薦しようとする者も少なからず出ていたが陛下から自重を促す触れも出ていたから、まさか学校でそんなドタバタが起こっていたとは思わなかったよ」
とお父様が驚いています。
「殆どの令嬢たちが常識をもってご理解下さったのですが、バルバラ様は全く懲りない方で、その上我慢のきかない質のようで自分の欲望のままに行動を起こします。
侯爵家で育ったとは思えないほど、年齢の割に考え方が幼稚なのです」
今日の様子はまるで小さな女の子が駄々をこねているようだったもの。
「バルバラ様は自分のしてしまった事の大きさも理解していないかもしれませんね。
今まで何でも許されてきたようですから」
「無知は罪とはよく言ったものだな」
とウォル兄様がため息をつきます。
「そうね。
それと子供をしっかり導く教えを授ける事の出来なかった親の罪も大きいわ」とお母様が言います。
確かに侯爵の悪いところばかりを真似てしまったバルバラ様。
子供は親の鏡と言うけれど、オードラン侯爵はまさに悪い見本になってしまったのね。
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次の日、私は熱を出してダウンしてしまった。
無事に解決したとは言え、やはり精神的には相当ダメージを食らっていたのだろう。
緊張と弛緩、恐怖と安心相反する状態と感情に振り回されて、体がギブアップしてしまったようです。
発熱して眠る中で久しぶりにアンジェリーナと前世の私に別れて話をした。
内容は何だかあやふやだけど、2人で抱き合って泣いて笑って無事を喜びあった気がする。
折角断罪フラグを回避して、憧れの男性と婚約出来たのに、もう人生終わりになるのかと無意識に覚悟したのかもしれなかった。
あの誘拐犯がアラン様達じゃなくて、本物の破落戸だったらと思うだけで足元から恐怖が這い上がってくる。
あの後、バルバラ様に殴られていたかもしれないし、首を絞められたかもしれない。
バルバラ様は私をどうしようと考えていたのだろうか?
他の国に連れて行って捨てるとか、奴隷として売るとか?
もっと手っ取り早く殺して埋めちゃうとか?
どちらにせよ、幸せな未来は待っていなかっただろう。
熱が出てもこうして自室のベッドで横になれている事が最高の幸せに思えて来た。
「お嬢様、どうですか? 熱は下がりましたか?」
目を開けるとエマが覗き込んでいた。
「エマ?」
「はい? …うん、朝より下がってますね」
エマは私の額に手をあてて言いました。
「何か召し上がりますか?」
「喉が乾いたわ、 お水と何かフルーツが食べたい」
「すぐご用意しますね」
そう言って一旦部屋を出ていった。
エマとナタリーにも心配かけちゃったな。
昨日部屋へ戻って湯浴みを手伝ってくれた時に2人とも目を真っ赤にしながら随分怒っていたっけ。
エマはバルバラ様に対して私がギタンギタンにしてやりますって泣くし、ナタリーはアンジェ様は無茶するからこんな事に巻き込まれるんですよって説教しながら泣かれた。
その後、お母様にお風呂場が阿鼻叫喚状態だったわねって笑われました。
笑いながらも私達家族のみならず邸の皆が本当にあなたの事を心配していたのよ、と言われました。
アンジェリーナ、この家に生まれて良かったね。
また皆に生きて会えて本当によかった。




