暴漢
大声のやり取りの後、前触れもなく馬車が凄い勢いで動きだしました。
「きゃあ!」
私は馬車の中であちこちにぶつかり、何とか必死に座面にしがみついていました。
しばらく走ると馬車が止まり、ドアがいきなり開けられ、引きずり出されました。
恐怖が生の体験として襲ってきます。
やっと断罪ルートを回避したのに、一体何が起こっているの?
「大人しくしろよ、こっちも無駄に手荒な事はしたくないんでね」
乱暴に下ろされたけれど、声は思いの外、情のこもったものだった。
相手の声に少しだけ平静さが戻ってきた。
素直に従いながら、周りを窺う余裕が出てくる。
目の前の暴漢は4人程だけど、他の場所から音がしているから、他にもいるかもしれない。
先程、声をかけて、腕を掴んでいる男以外は近付いてくる気配もない。
遠巻きに見張られている様な状態だ。
この人がリーダーかしら?
ここは王都の東側かな?
木々の向こうにいくつかの小さな家が確認できた。
夕方のせいか煙突から煙が数本上がっている。
後ろを向けば、古い建物の影が見えている。
馬車は建物の裏側に止められたらしい。
ラフォール侯爵家の馬車と、彼らのほろ馬車と馬が2頭。
建物には人が住んでいる様な気配がない。
廃墟なのかしら?
建物の裏口から中に押し込まれた。
中は外側ほど古い感じではなかった。
掃除と修繕をすれば、充分貴族の別邸として使えそうだ。
もしかしたら、貴族の持ち物かもしれない。
大きな応接間の様な部屋に連れていかれた。
「ここで、大人しくしてくれ。
騒いだり、暴れなければ危害を加えない。
扉には見張りを置いておくから、逃げれると思わない事だ」
私は黙って頷いた。
「ふっ、いい子だ」
リーダーの男はこの場にふさわしくないようないい笑顔で言った。




