姉と弟の葛藤
エミリーと新しい教室へ向かっていると。
「姉上!」
何だか懐かしい呼ばれ方と声が聞こえました。
階段をかけ降りてくるジュリアス殿下です。
「おはようございますジュリアス殿下、お早いですね」
「姉上こそ、早いですね」
「ジュリアス殿下、流石にもう姉上と呼ばれるのはどうかと思いますが…
今度はアンヌリーブ様を姉上とお呼びくださいな」
「小さい頃からずっとそう呼んできたから、今さら変えるのは些か骨が折れます。
アンヌリーブ様は勿論姉上様とお呼びしていますが、私にとってはアンジェ姉様も姉上ですよ」
慕ってくれている事はとても嬉しいのだけれど、学校では何かと話題の種になりますし、今のジュリアス殿下の立場でそれをされると、ろくでもない事に巻き込まれそうで嫌な予感しかしないのだけれど…。
「ええ、ジュリアス様のお気持ちは嬉しいですけど、やはり学校ではお止めいただきたいです。
あらぬ噂の元になりますし… ジュリアス様ならこの意味わかりますよね?」
幼い時から心ない貴族の噂話に傷つけられたり、憤慨してきた筈だから、私がこう言えば気がついてくれるでしょう。
兄上と違って聡い方だし。
案の定、ジュリアス殿下はハッとして顔を引き締めた。
「申し訳ありません。 ついつい久しぶりに会ったアンジェリーナ様に甘えてしまいました。
お許し下さい」
「いいえ、これからよろしくお願いいたしますね」
「はい、是非またお話させてください」
そう言ってジュリアス殿下は離れていった。
ごめんなさいね、ジュリアス様。
大好きな弟と人目など気にせず仲良く出来ればいいのだけれど、彼のような立場の人がそれをすれば、隙を突かれて面倒な事になるかもしれない。
私のせいで何かあっては王妃様にも顔向け出来ないわ。
私が彼の後ろ姿を目で追いながらそんな事を考えていると
「アンジェ、ちょっと可愛そうだったわねジュリアス殿下」
エミリーも気の毒そうにジュリアス殿下の後ろ姿を見ていました。
「仕方ないわ。ジュリアス殿下は婚約者もまだ決まっていないのですもの。
下手に近くにいると、あらぬ噂の種にされるもの」
「そう言うの本当に面倒ね」
エミリーの言う通り。
面倒臭くて嫌になります。




