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小説のように……

 毎日毎日、帰宅してから12時間程寝ていると、夢を頻繁に見るようになった。

 俺の体感だと、惰眠の時によく見る気がする。


 荒唐無稽な映画のような夢は、俺の現実の苦しさを忘れさせてくれたし。

 夢の中で恋愛をしたり、行ったことのない街に行ってみたりすることもあった。


 わりと、非日常はこれで楽しいものだが。

 日常の夢も良く見る。



 学校が終わって、教室を出ると

 階段脇に隠れていた萌が、無言で飛び蹴りをしてくるのだ。

 もちろん俺は避ける。


「えっ、なんで避けるの?」

「当たったら痛いからだろ」

「いやいや、なんで避けれるのってこと!」

「毎日のように飛んでくれば、想像つくだろ!」


 とまぁ、今朝もこんな夢を見ながらまどろむ。

 日常の和やかな会話……いや和やかでもないが。俺にとってはとても和やかな会話だ。


 あるある。って感じの日常はまさにリアルで、寝起きに少しほっこりした。



 目が覚めてしまったので、居間へ行く。

 まだ朝の6時だ。

 テーブルの上を見ると、いつもの置き手紙。


『母さん今日は帰れません、晩御飯は作っておくから、お昼はこれで済ませてね』

 と、500円玉が置いてある。


 母はきっと寝室で寝ているのだろう。

 夜中までお酒を飲んで帰ってきているのだ、起こすのは可愛そうだな。


 俺はトーストを焼いて、ゆっくり朝御飯を食べた。

 ここで普通なら家で二度寝でも決め込むところだが、昨日は学校の机に読みかけの小説を置き忘れたのを思い出した。

「早めに学校に行って、続きでも読むか」




 学校につくと、まだ始業まで1時間はあるのに、何人もの生徒が来ていた。

「朝練かな」

 自主的に部活の朝練をする生徒達のようだ。

 あんなに真剣に何かに取り組むのは凄い。俺には無い感覚だ。


 教室には誰も居なかったので、とりあえず自分の椅子に座る。小説を取り出すと、電気の代わりに窓のカーテンをぱっと開く。


 秋口の寒々しい空が、ギリギリ小説が読める程度の光を放っている。


「実際寒くなってきたな」

 そう言いながらグラウンドを見ると、萌の姿を見つけた。

 サッカーボールを蹴りながら、グラウンドの端から端まで全力で走っている。


「あいつ、朝はちゃんと部活やってんだな」


 見栄っ張りというか、努力を見せたくないというか、ああいうところあるよなあいつ。


 俺は小説に目を落として、読み始めた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 放課後、終業の合図と共に俺は帰り支度を済ます。

 今度は小説も鞄にいれたので、抜かりはない。


 教室を出て、曲がり角に来たとき。


 ふと、今朝の夢を思い出して、体を捻った。


「えっ、なんで避けるの?」

「当たったら痛いからだろ」

「いやいや、なんで避けれるのってこと!」

「毎日のように飛んでくれば、想像つくだろ!」


 夢のまんまの台詞で、会話が続いた。


 なんだろう、不思議な感覚で……気持ちいいけど、怖い。


「わり、今日は急いで帰って調べたいことがあるんだわ」

「えー、帰りにジュース奢って貰おうと思ってたのにぃー」

「勝手に買え」

 俺はポケットに入っていた500円玉を、投げて渡した。


「えっ、いいの?こんなに」

「明日釣りを持ってこい」

「なぁんだケチぃ」

「ジュース要らんのか?」


 俺は返せと言わんばかりに、掌を萌に向けてクイクイっと指を曲げた。

 萌も「くるみさんは太っ腹ですなぁ」と言いながら、500円を持っている手を、ほっそりとした腰の後ろに回して隠した。


「名前で呼ぶなって、朝練疲れただろうからご褒美だ」

「あっちゃ、見てたんだ」


 萌はバツが悪そうに苦笑いしながら、500円玉を指でピンと弾いて、パシッとキャッチしながらこっちを見る。


「そろそろ試合でさ、さすがにやんなきゃって思ってね」

「おお、いいじゃねぇか。今日は夕方も部活に出てこいよ」


「あはは、それも良いかもねー、私のキックはまだくるみを捉えるには至らなかったし、もっと精進しなきゃだしね!」


「俺を蹴るために精進してんじゃねぇ!」


 と言うわけで、俺は萌と別れ、一人帰路を急いだ。



 誰かに用事を頼まれている訳ではないのだが、昨日から読んでいる小説の内容が、自分の出来事とリンクしていて、気になることがあったのだ。


 小説の中では、未来を見ることができる少年が、実生活で回りを圧倒し、強大なる敵とも戦っている。

 俺はこういったファンタジー小説を良く読む。

 金はないので全て図書館で借りて来ているわけだが。

 こいつらも夢と同じで俺の現実逃避を手助けしてくれる。


 そんな主人公のように、俺にも少しだけ未来が見えることがある。


 今日は夢に見た会話がそのまま、放課後に実現した。

 他の時には、なにかが起こる瞬間に同じように「あ、前もこんなことあったっけ」と思い出され、その後そのままの事実が起こったりすることがたまにあった。


「この現象をしっかり調べれば、俺にも未来予知できるかもしんねぇな」


 そんな訳で、俺はいつになく、現実なのにテンションが上がっていた。

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