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君は未来を、見たことが有りますか?

 雨が降ってくる。

 それは土砂降りではなかった。

 かと言って気にならない程でもない。

 上を向いたまま動けない俺の顔に当たるには、気持ち悪いくらいの雨量だった。


 何故こんなところに寝ているのか。

 頭がズキズキと痛くて仕方ない。

 どうやら頭を(したた)かに打ち付けたらしく、焼けるような痛みはさらに酷くなってゆく。

 背中に感じている不快感は、降っている雨のせいなのか。

 はたまた、流れ出す血のせいなのか……

 そんな事を、ぼーっとした頭で考えている俺の顔を、女の子がくしゃくしゃの泣き顔で覗き込んで来た

 しかしぼやけた視界に写った顔に見覚えはない。

 家族でもないし、恋人でもないし。

 そっか、この子、俺が助け……た……


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺の名前は蘇我(そが)来未(くるみ)

 ()()高校生だ。


 そろそろ夏服も終わろうかなという季節。

 終了のチャイムと共に教室はざわめき、そして次第に静かになってゆく。

 物憂げに三階の窓から外を眺めていた俺も、ようやく鞄を肩にかけて立ち上がる。

 誰かが開け放した教室の後ろの引戸をくぐった。

「くるみー、一緒帰ろぉお」

 そんな俺に向かって走って来て、飛び蹴りをしてくる者が居る。

 俺は慣れた感じでそれを避けた。

 この女生徒は幼馴染みの橘萌(たちばなもえ)

 名前と顔は可愛いのだが、男子高校生顔負けのヤンチャ坊主だ。

「くそっ、今日も避けられたか!」

「でかい声で突っ込んでくれば分かるだろ」

「ほう、そっか。次からは黙ってやるか」

「やるんじゃない! あと、下の名前で呼ぶなよ」

「なんでぇ? くるみぃ~可愛いじゃん」

 八重歯を光らせながらニヤニヤと笑う萌に対し、眉間にシワを寄せながら反論。

「名前だけ、な!」


 俺はといえば、その可愛い名前にそぐわない風貌をしている。

 180センチのスポーツ刈り、体格もガッチリしていて可愛いとは言えない。

 しかも、自分で言うのもなんだが人付き合いが苦手ですぐ怖がられる。

 この父親譲りの、忌まわしき三白眼(さんぱくがん)が怖いのだろうか。


「そんなことないよぉ、くるみちゃん可愛いよ」

「茶化すな」

 そんな俺でも親しく話せる萌とは、幼稚園からの仲だ。

 お調子者でいい加減だが頼まれ事は断らないし、女子にも男子にも好かれている。

 ただ関係が長すぎるのが原因なのか、俺もこいつに恋愛感情はないし、こいつも俺に恋愛感情なんてない。

 家族ぐるみの付き合いで、兄妹のような存在だといえる。

「さて、帰るか。萌は部活はないのか?」

「サボる」

「毎日サボってて、部員と言えるのか?」

「練習しなくても、試合に出れば結果だすし」

「いやお前、今グラウンド走ってるサッカー部員に蹴られてこい」

 グラウンドからは萌の所属するサッカー部の、ランニングの掛け声が聞こえてきている。それを聞きながらサボれるこいつの根性は、ある意味尊敬に値する。

 こんな性格の違う俺たちだが、わりと頻繁に萌は俺に絡んでくる。

 彼女曰く、一番話しやすいと言うことなんだが……

 俺ときたら、萌とはすらすらと会話できるのだが、他のクラスメイトとは殆ど話すことが出来ていない。もちろん俺も社交性を高く保っていない引け目はあるが単純に距離を置かれているのだった。


 仕方ないとは思っている。

 なにせ俺は「殺人犯の息子」だから。

 しかし、それは真実ではない。

 俺の父親は俺と同様に三白眼で目付きが悪い。

 若い頃に車道に飛び込んだ子供を助けるために、代わりに車に跳ねられたことで、顔に大きな傷跡があることも怖がられる原因だろう。

 そんなわけで人に勘違いされることの多い人生を送っている。

 そして俺が高校2年の頃。

 ある殺人事件に親父が関わってしまったことで、同級生達も本格的に俺を見る目が変わっていったのだった。


 他人からの奇異の目や、悪意にさらされたときに、こんな怖い見た目にも関わらず、俺は黙ってしまった。

 それが肯定ととられたのか、否定と取られたのかは知らないが、その後俺に話しかけてくるものはいなくなっていた。

 萌を除いてだが。


「秋だねぇ」

 そんな俺の苦悩を知ってか知らずか、どうでもいい会話を続ける萌。

「まだ実感は湧かないけどな」

 実際残暑は厳しく、半袖で通う学生も多い。

「ふふふ、秋はご飯が美味しい季節なのだ」

「それ夏にも言ってなかったか?」

「いやいや、秋はまた特別なんだよ!」

「それも夏に言ってたって」

 反論されて頬を膨らす萌を尻目に俺は先を歩く。


「それじゃ、また明日ねくるみちゃん」

「名前で呼ぶなよ……また、明日」

 橘家と俺の家はお隣さんで、それぞれが玄関を開けるまでお互いの姿が見える。

 そこで手を振って家に入るのが二人の暗黙のルールみたいになっている。


 ガチャっと鍵を閉めれば、会話をする相手はもういない。

 自分の部屋へ向かえば、そのまま服を着替えて、すぐに布団に入る。

 一人で起きていても楽しいことはないし。テレビを見ても、その話題で盛り上がる友人も居ないわけだ。

 やることなどない。


 ただ寝るのが好きだっていうのもある。

 惰眠を貪っている時には夢を良く見る。

 その夢を見るのが俺は好きだった。

 自分が主人公になって冒険をしたり、空を飛んだり出来るのは夢の中だけだ。

 現実ってのは、そううまく行かない。

 楽しいことが夢の中にあるなら、そこで暮らしていても良いじゃないか。


 他人には理解されないような趣味かもしれない。

 それでも、この生活を続けていることが原因なのか、俺の生活にちょっとした不思議な出来事が起こり始めるのだった。

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