魔王はサラリーマン
「ついに追い詰めたぞ!魔王!」
扉が勢いよく開かれると、聖剣を持った勇者が部屋にユックリと入ってきた。
「よくぞここまでやって来たな……」
椅子に座った魔王は不敵な笑みを浮かべた。今まで冒険者が魔王城にやって来たことはあるが、まさか勇者がやって来るとは思わなかった。
勇者は聖剣を八相に構えると、じりじりと魔王に近づいてくる。
「魔王!覚悟!」
魔王に向かって踏み込んだ瞬間、『キーンコーンカーンコーン』と城内にチャイムが鳴り響いた。
魔王は壁にかかっている時計をチラッと見ると、「時間だ」と言って座っていた椅子から立ち上がり、その場から離れようとしている。
「どこへ行く!」
すると魔王は壁にかかっている時計を指差すと、「もう就業時間終了だ」と答えると、勇者に背を向けて帰ろうとしている。
「就業時間?」
突然のことで勇者はポカンとしていたが、気を取り直して「逃げるな!」と叫んだ。
「逃げる?違う!上司が職場に残っていると、部下が帰りづらいだろうが!」
そう叫ぶと魔王は勇者の頭上に向かって指を動かすと、映像が浮かび上がった。
「それに見てみろ。城門にも書いてあるだろ」
門に『魔王城 営業時間9時~17時 定休日 土・日・祝日』と書いてあった。
「完全週休二日制で、給料の他に夏と冬にボーナスが支給される。福利厚生もバッチリだ。ちなみに明日は土曜日だから、魔王城は休みで閉まっている。また来るなら、月曜日に来てくれ」
お帰りはあちらですと促され、勇者は魔王城を後にした。
月曜日の9時ごろ、聖剣ではなく履歴書を持った勇者が登城してきた。