おい、壮観すぎるんだが
初代国王、オルガント・ディア・アルセウス。
彼の風格はまさしく圧倒的だった。
ただ存在するだけで、その場の雰囲気をすべて掌握してしまうような。あれだけ強気だった師団長のフォムスでさえ、すっかり萎縮してしまっている。
さすがは初代国王……アルセウス王国そのものを創りあげた、伝説上の人物である。
「さて」
オルガントは威風堂々と腕を組み、頭を垂れるフォムスを見下ろす。
「そなたはたしか……フォムス・スダノールといったな。となれば、ドラノスの子孫にあたるわけか」
「……ええ。我がスダノール家のご先祖様は、ドラノスと呼ばれた剣士でした」
「あれは誠に良い忠臣であった。心から信義を重んじ、国のためならば我が身さえ擲っておったな。……そなたの姿は、かつてのドラノスに堂々と見せられるかな」
「…………っ」
「余は悲しい。――断じて、断じて、このような国を創造したかったわけではないッ!! 呼び覚ませ! そなたらの、王国男児たる気概を!!」
「す、すごいな……」
思わず呆気に取られてしまう僕。
場の雰囲気を丸ごと飲み込んでしまっている。
もはや交渉どころではなく、こちらの一方的なお説教タイムだ。
「フォムスよ。レイファーではなく、現代の国王に伝えよ。一週間ほどの猶予を、そこのアリオスに与えよ――とな」
「い、一週間……」
「しかり。その間、兵士の常駐をいっさい禁じることとする」
「し、しかし!!」
さすがにここは引けなかったんだろう。
フォムスは頭を垂れたまま、初代国王に反論する。
「前述の通り、《黒い石》の脅威は決して見過ごせませぬ! 村人の安全のためにも、ここは我々が……!」
「ほう。村人の安全のためにか。――おいファルアスよ、その必要はあるかな」
え、ファルアス……!?
僕が目を見開くのと同時、さきほどと同様の靄が突如として発生し。
そしてそこから、やはり見覚えのある人物――ファルアス・マクバが姿を現した。
「な、なななななな……!!」
今度こそ顔を真っ青にするフォムス。
「あ、あ、あああああなたは、まさか……!」
「おい、まさかあの方は……」
「わ、訳がわからない……!」
兵士たちもいっせいにどよめきをあげている。
「――ご機嫌よう。我が名はファルアス・マクバ。まさか数千年後の現代にまで私の名が残っているとは光栄だ」
おいおい、嘘だろ。
なんちゅう展開だ。
「ど、どどどど、どうしてファルアス様が……!」
大恐慌をきたすフォムスに、ファルアスは僕の肩を叩きながら言う。
「アリオスのおかげさ。まさに自慢の子孫だよ」
「ア、アリオスの……?」
「おう。アリオスに失礼なこと言ってみろ? 叩き斬りに行ってやるよ」
(ちょ、ちょっとご先祖様……)
慌てて耳打ちする僕に、ファルアスは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
(ま、許してくれ。あんなんじゃドラノスも浮かばれねえ。ちょっと喝を入れさせてもらった)
(喝を……)
(ああ)
ファルアスはこくりと頷くや、初代国王の隣まで歩み寄っていく。
「お、おお……」
「なんという壮観な……」
初代国王、そして初代剣聖。
歴史上の二人が並んだことで、兵士たちが感嘆の声を発する。
「それで陛下。なんの話でしたかな」
「なに。村人の安全のために、こやつらの護衛は必要あるかと聞いておる」
「――必要ないですな」
きっぱり言い放つファルアス。
「ここには私とアリオス、そして腕の立ちそうな冒険者が数名いる。いらぬ心配でしょう」
「ぬ……」
たじろぐフォムス。
さすがに初代剣聖に言われては反論できないようだ。
「フォムスとやら」
オルガントはそんな師団長に向けて、厳かに言い放つ。
「とはいえ、そなたの立場もあるだろう。だから一週間だけ待て。――その間に、アルセウス救済党を叩き潰す」
「な……!?」
「どうした。なにか問題でもあるかな?」
「い、いえ。なんでもありません……」
「ふふ」
勝ち誇った笑みを浮かべるオルガント。
「レイファーにも伝えておくがいい。近いうち、アルセウス救済党を潰しにいくとな」
「しょ、承知しました……」
力なく返事をするフォムス。
まさかテロ組織の肩を持っているなんて言えないだろうしな。
大胆にして緻密な宣戦布告。
さすがは一国を作り上げただけはある。
「そうとわかったら失せるがいい。目障りである」
オルガントの命によって、フォムスたちはそそくさと撤退していくのだった。
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