おい、多すぎるんだが
「う、嘘でしょ!?」
ギルドを飛び出したレイが素っ頓狂な声をあげる。
「なにあの人数……馬鹿じゃないの!?」
ラスタール村。その入り口。
レイの言う通り、夥しい人数がそこにいた。
気配を探るに、ざっと7000人といったところか。
「し、信じられない……」
カヤも大きく目を見開いている。
「あの人数、師団が丸ごとやってきたんじゃないの? しかもあそこにいるのは……」
カヤが指さす先には、一際目立つ軍服を身につけた青年。
金髪を七三分けに整え、鋭利な碧眼を持つその男は。
第19師団長――フォムス・スダノール。
間違いない。
意図は不明だが、ここラスタール村に、いきなり第19師団が丸ごと訪れた……
「な、なななな何事だ!」
「あ、あれは王国軍……。いったいどうして!」
これには村人たちも慌てふためいている。不穏な気配を察しているのか、みんな心配そうな表情だ。
――威圧、だ。
その気になれば、僕たちを滅ぼすために師団ひとつを動かせると――レイファー第一王子が威圧をかけてきているんだ。
「皆さん、どうかご心配なく」
僕はそんな村人たちへ向け、できる限り穏やかな声音で呼びかける。
「別にテロリストがやってきたわけではないです。僕たちが事情を伺いにいきますから……どうかご安心ください」
「ア、アリオスさんだ……!」
「あの人が元剣聖を倒したっていう……!」
「あなたがいれば大丈夫だと思いますけど……お気をつけて……!」
村人たちの声援を背に受けながら、僕たちは軍団に向かって着実に歩を進めていく。
「あ、あんたたち……いったい何用ですかな!? 武装した軍人が何千人も!!」
すでに村の老人がフォムスに突っかかっていた。
だが、師団長のフォムスは老人を歯牙にもかけない。
「フフ。申し訳ないが軍事機密でね。ギルドマスターを呼んでいただきたいのだが」
「なんじゃと……?」
「民間人に教える道理はない。とっとと話のわかる奴を呼べ」
「貴様、いきなり来ておいてなんと無礼な……っ!!」
「おじいちゃん。ここは私に」
老人が怒りだす寸前で、すっと進み出る人物がいた。
第二王女レイミラ・リィ・アルセウス。
この場で一番の権力を持つ人物だ。
「レ、レイ殿……! 来てくれたか!」
「ええ。この場はお任せください」
老人に微笑みかけるなり、王女レイミラは毅然とフォムスに向き直る。
その風格といい振る舞いといい、普段とはまるで別物。王位継承権を持つ王族が、たしかにそこにいた。
「……おや。あなたは」
「お久しぶりですね。フォムス師団長。……お会いしたのは、たしか二年前の叙任式以来でしたか」
「覚えていただきまして光栄です。レイミラ王女殿下」
フォムスは腹のあたりに片手をあてがうと、ぴたり30度のお辞儀をした。
そして背後を振り向くや、部下たちに指示を放った。
「おまえたち。王女殿下の御前だ。頭を垂れよ」
「いえ、そのままで結構です。いまは休暇中の身。悪戯に権力を行使するつもりはありません」
「……承知しました」
低い声で頷くなり、フォムスは姿勢を元に戻す。
「私ごときが言うのもおこがましいですが、ご立派になられましたな。二年前とは風格が違う。しかもつい先日は、テロ組織の制圧にご協力なされたとか」
「ふふ。閣下こそ、叙任式のときとは目つきが違います。さぞ様々な経験をされてきたのでしょう」
ここまでが形式的な挨拶か。
レイミラは改めて兵士たちを見渡すと、ため息まじりに言った。
「……ですが、さすがにこの事態は関心しませんね。村の住人も困惑しています。閣下ほどのお方であれば言うまでもないでしょう。よっぽどの理由がおありなのですね?」
「ええ。まさしく」
フォムスは瞳を閉じると、さぞ重苦しそうな表情で言った。
「前述の、テロ組織が捕らえられた件に関連しましてね。王都のギルドに問い合わせたところ、こちらの支部に黒い石のような物が保管されていると聞きまして」
「黒い、石……」
「ええ。王国軍の調査によれば、あれは非常に危険なものです。あなたがたに保管を任せるのも非常に心苦しい次第。ですから私たちに保管を一任させていただきたく思いまして」
……なるほど。
そういうことか。
構成員の多くは王都の本部に収容されているが、影石においてはその限りではない。
かつて女神が言っていたように、僕が持っていれば影石は暴走しないようになっている。だから現状では王都ではなく、僕が影石を預かることとなっていた。
連中は、それを回収しにきたんだろう。
影石の強大な効力は言うまでもない。それだけでも取り戻したいんだろうな。
「……なるほど。そうでしたか」
レイミラは真顔で頷く。いつものように感情を表に出してはいない。
「しかし不思議ですね。いままでアルセウス救済党の実態は謎に包まれていたはずですが……どうやってあの石のことを調べたのです?」
「…………」
フォムスは口を一文字に閉じると、数秒置いて静かに言った。
「申し訳ございませんが、軍事機密となっていまして。レイミラ王女には大変不敬ですが、民間の前で口を滑らせるわけにはいきません」
「……そうですか」
あくまで真顔で首肯するレイミラだった。
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