おい、さすがに早すぎないか
どれだけの時間が過ぎただろう。
僕もレイも、ほとんど会話を交わさなかった。
それなのに、まったく不快感がない。
そしてそれはレイも同じようで。
横の席に座った王女は、ただただ無言で僕の手を握りしめていた。
その体温が、どうしようもなく柔らかくて温かかくて。
そんな時間を過ごしながら、僕はふと、レイの過去について思いを馳せる。
――王城にいる間、何度黒いローブをまとった刺客に命を狙われたか……――
さきほど、彼女はたしかにそう言った。
察するに、何度も死線をくぐり抜けてきたんだろう。だから殺される前に、僕と一緒にラスタール村に逃げてきた。
だけど、すこし妙なんだよな。
アルセウス救済党の厄介さは、僕が身を以て知っている。奴らは間違いなく、そこいらの冒険者より格段に強い。
なのに――レイはいままで無事だったんだよな。
彼女の戦闘力はさして高くない。
にも関わらず、幾度となく襲いかかってきた刺客に対し、なんらかの方法で生き残っている――
そこに違和感があった。
「ねぇアリオス」
「ん?」
「もっとこうしていたいけど……もう、行く時間みたいね」
言われて時計を見上げると、たしかに集合時間が目前に迫っていた。これ以上の長居は遅刻を招いてしまう。
気になる点ではあったが、まあ、いつか聞けばいいことだろう。
そう判断し、僕とレイは家を後にするのだった。
★
冒険者ギルド、ラスタール支部。
そこに、多くの顔見知りが集まっていた。
まずはAランク冒険者のカヤ。
Bランク冒険者のユウヤ・アルゼン。
アルド家の元奴隷にして、造られし存在たるエム。
そしてギルドマスター兼、元鍛冶職人のアルトロ。
そこに僕とレイを含め、6人が一堂に会していることになる。
ちなみにウィーンには休んでもらっている。さっきの《バトルモード》とやらはだいぶエネルギーを消費するらしいからな。
「おお、来たか」
僕たちの姿を認めたアルトロが、表情を輝かせながら立ち上がった。
「さあさあ、座るがいい。お主は我が支部において貴重な戦力じゃからのう」
「はは……ありがとうございます」
「今回の《アルド家制圧》も、大変な活躍だったそうじゃないか。皆から聞いたぞい」
「いえ……僕だけの力じゃないですし」
「いやいや、アリオス様、すごく強かったですよ!」
エムがくわっと目を見開き、ひょいひょいと剣を振る仕草をする。
……あれは淵源流の真似だろうか。
知らんけど。
「あの元剣聖をボコボコにしてましたしね!! ほんとすごかったです!」
「くく、あのリオン・マクバをボコボコにか……。まあ、奴の失墜っぷりは残念であるがな」
「ええ……まったくですね」
そしてリオンとダドリーはまったく異なる道を選ぶこととなった。
リオンはテロ組織の構成員に。
ダドリーはひとり放浪の旅に。
二人は今後、どんな道を歩んでいくんだろうな。
そんな思索を巡らせていると、アルトロがふいに表情を改めた。
「さてアリオスよ。本題に入る前に、通達事項がある」
「伝達事項……ですか?」
「うむ。《アルセウス王国ギルド本部》にて、お主の昇格が確定された。今後はCランク冒険者として名乗るがいい」
なんと。
もう昇格か。
つい最近ギルドに入ったばかりであることを踏まえれば、異例の早さである。というか早すぎるのではないだろうか?
「まあ、お主はもうSランクになってもおかしくないとは思うがの。ギルドは古い組織なのじゃ。我慢しておくれ」
いやいや、そんな。
このスピードでも充分早すぎると思うんですがそれは。
「では、これを受け取るといい。Cランク冒険者のギルドカードじゃ」
銅に輝くカードを受け取るや、「おおーっ!」と拍手歓声があがる。ありがたいことに、みんな嬉しそうだな。
「はは……もうCか。私はすぐに追いつかれそうだね」
苦笑しているユウヤにも、嫌味な様子はない。
「まあ、君は最初から私より強かった。早く追い抜いてくれたまえ」
「いえ……恐縮です」
僕は先輩冒険者たちに頭を下げると、ギルドカードを懐に納める。
元剣聖リオン・マクバを倒したことで、そこいらの冒険者よりは強くなったという自覚はある。
だけど、それで自惚れることはない。
そうなった瞬間、瞬く間に失墜する。あのリオン・マクバのように。
そして拍手が収まった頃、ようやくアルトロから本題から切り出された。
捕らえたアルセウス救済党の構成員。その対処法についてだ。
「まず単刀直入に言おう。さっそく王都の本部にて、王国軍から書面が届いたそうだ。内容は、まあ想像通りというべきかな」
アルトロは真面目な表情でメモ紙を取り出すと、やや低めの声で内容を読み上げた。
「――テロ組織の捕獲について、まずは王国として心から感謝を申し上げたい。貴殿らの活躍にも心から賞賛を送りたいと思う。ついては、《アルセウス救済党》の捕虜に関して、我が国に確保を任せていただきたい。同党が結成されたのは我が国の責任であるがゆえに、それを貴殿らに押しつけるのは非常に申し訳ないと思っている……」
そこまで言ってメモ紙を折り畳むと、アルトロは僕たちを見渡して言った。
「――とまあ、要約すればこのような内容じゃの」
やはりそうきたか。
予測はしていたが、ここまであからさまだとは。
しかもアルド家を制圧してから、まだそこまで時間が経っていない。情報の掌握が早すぎる。
想像通り、敵もかなり焦っているんだろうな。
「アルトロさん。それで……ギルドはどんな対応を取っているんですか?」
「うむ。アリオスよ、良い質問じゃの」
アルトロはにかっと笑うや、腕を組んで言った。
「ギルドとしては、ひとまず拒否の形を取ることとなった。国に従う義務はないしの」
「拒否ですか……ずいぶん強気ですね」
アルトロの言う通り、ギルドはそもそも別の中立国に拠点を構える組織。
国籍を問わず多くの者が結集しているため、政治的なしがらみにまったく囚われないのが強みである。
だからギルドの拒否に対して、王国は強行的な手段を取れないはず。書簡にて遠回しな要求をしてきたのはそのためだ。
「ですが……それだけで安心はできません」
王女レイミラがぽつりと呟く。
「あちらにはおそらく、レイファー兄様がついています。どんな手を用いてくるかわかりません」
「レイファー兄様……。あの第一王子か……」
カヤが表情を強ばらせる。
「たしかにまったく読めない方だもんね……。頭のキレる方だとは思うけど……」
「ええ。僕もそう思います」
これは憶測だが、父リオンを失墜に追い込んだのも、レイファーの画策である可能性が高い。
あの決闘後、レイは長い休暇を授かることとなった。それによって、王城ではさぞ動きやすくなったことだろう。
表向きは義妹の休暇を悔しがっておいて、見事、政局を思うがままに操っている。
リオンやダドリーはそのために使われたんだ。あの第一王子に。
「ん……?」
ふいに僕は目を細めた。
――来ている。
実に夥しい数の、闖入者が。
「アリオス……?」
僕の様子に気づいたレイが、ふと首を傾げる。
「出ましょう、皆さん」
僕は急いで立ち上がり、一同を見渡した。
「早速来たようです。王国軍からの招かれざる客が」
本作におきまして、書籍化&コミカライズが決定しました!
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