おい、そんな目で見つめるな
数十分後。
少女は長いこと泣いていた。
長年にわたる苦しみから、ようやく解放されたような。
人の温もりを、切実に求めていたかのような。
強くしがみついてくる彼女に、僕は抱擁で返した。
僕もすこし前までは似たような立場だったからな。
どこにも居場所がなくて、深い絶望に陥ってて――それを救ってくれたのが、レイを筆頭とするみんなの温もりだった。
だから少なからず、僕にもわかる。彼女の気持ちが。
「すみません……。初めて会った人なのに、私……」
「はは……いいんだよ」
僕は苦笑いを浮かべつつ、胸にうずくまる彼女を見下ろす。
「君は……どこから? 訳ありのようだけど」
「ぐすっ……はい。その、えっと……」
「怖がらなくていい。本当のことを言ってくれ」
「はい。ユーフェアス・アルド様のお屋敷から、その。逃げて、きました……」
「ユーフェアス・アルド……」
レイがぽつりとその名を呟く。
王族に名を連ねる者として、レイもなにかしら情報を掴んでいるだろうな。
それにしても――やはりアルド一家か。
とんだ大物が出てきたもんだな。
僕たちの沈黙をなんと捉えたのだろう。少女は静かに俯くと、震える声音で言った。
「すみません……。やっぱり迷惑ですよね。これ以上、あなたたちのお手を煩わせるわけにはいきません。お礼はなにもできませんが、助けてくださって、ありがとうございました」
そうして立ち上がろうとする彼女を、僕は右手で制した。
「いやいや、大丈夫さ。君をこのまま帰せるわけないだろう」
「え……。で、でも……」
「ふふ、心配はいりませんよ」
いままで黙っていたメアリーが、天使の微笑みとともに告げる。
「このお二方はとても凄い方なんです。特にアリオス様は、先日、ダドリーと決闘で……」
「こら。余計なこと言わんでいい」
呆れながら突っ込みをいれる僕。
「え……アリオスさんにダドリーって……まさか」
だが時すでに遅し。
少女にはその事実が伝わってしまった。
「アルド様のお屋敷でも大騒ぎになっていましたけど……アリオスさんって……本当に……」
「はぁ……」
僕は大きくため息をつくと、後頭部を掻きながら言った。
「たぶんその認識で合ってるよ。先週ダドリーと決闘して……一応、勝ったことになってる」
「すごい!!」
突如、ものすごい勢いで僕の両手を握ってきた。
早い。
めっちゃ早かったぞ。
「私でも知ってます! マクバ家を追放されたのに、《白銀の剣聖》に勝って、しかも観客をみんな救ったんですよね!?」
「あ、ああ……そうなるのかな」
「私、本当にすごいと思ったんです! 苦しい境遇だったのに、それでも頑張ってる方もいるんだなって……」
「買いかぶりすぎだ。僕はそんな大層な人間じゃないよ」
「そ、そんなことないです! 私、ずっとあなたに会いたくて……あ」
バタン、と。
急に激しく動き出したからだろう、彼女はその場にへたれ込んだ。
「まったく……」
言いながら、僕は少女に手を差し伸べる。
「君が思ってる以上に、君の身体は堪えてるんだ。あんまり無茶するなよ。……どうした、早く手を」
「え……い、いいんですか?」
「当たり前じゃないか。それ以外になにがある」
「そ、そそそそ、それでは失礼します」
少女はめちゃくちゃ頬を赤らめ、おそるおそるといった様子で僕の手を取る。
「きゃ……アリオス様の手、触っちゃった……」
「なに言ってんだよ……」
なんだろう。
レイやメアリーとはまた違った個性を感じるな。
「……まあ、なんにしても君を放っておくわけにいかないのは事実だ。しばらくうちにいてくれ。大丈夫か?」
「い、いえ……。むしろお願いしたいのは私です」
「そ……そうか」
なんだか超絶尊敬されてるな。
そこまでの謂われはないんだが。
「ふふ……これからよろしくね♪」
レイが両手を重ねあわせて挨拶する。
「でも、アリオスはあげないからね♪ ふふふふふ」
レイもレイで、なんだかおかしいのであった。
本作におきまして、書籍化&コミカライズが決定しました!
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