おい、その悲鳴はなんだよ
★
僕はいま、かつてないほど全力で疾走していた。
ダドリー・クレイス。
聞くところによると、召使いたるメアリーにちょっとした好意を抱いていたという。
それが高じてマクバ家では頻繁に暴力を振るっていたようだが……まさかこんなことになるなんて。
くそ。
ダドリーの奴……絶対に許さないぞ……!
ちらりと背後を振り返ると、遠くでレイが疾走していた。
全力で走ってしまうと、僕がどうしても先を行ってしまう。だが周囲に魔物の気配はないし、レイも「先に行ってて」と言ってくれた。申し訳ないが、ここはスピードを優先させてもらう。
急げ、急げ――
知らず知らずのうちに、鼓動が高鳴るのを感じる。
間に合え、間に合え、間に合え――!!
どれだけ走ったろう。
ラスタール村が見えてきた。
人だかりができている。
その中心に立つのはダドリーと……数名の剣士か。取り巻きも一緒に連れてきているようだな。
Aランク冒険者のカヤも仲裁に入ろうとしているが、ダドリーたちには分が悪そうだ。取り巻きたちに立ちふさがれ、にっちもさっちもいかない様子である。
そして――ダドリーの前でうずくまっているのが。
昔からずっと仕えてくれた忠実なるメイド――メアリー・ローバルト。
殴られたのかもしれない。
腹を抱え、両膝をついている。
「へっ、こんなとこにいたのかよメアリー」
遠くからでも、ダドリーの嫌みったらしい声はよく聞こえた。
「馬鹿だな。前から言ってるだろ? 剣聖を継げなかった《外れスキル》のポンコツよりも――俺のほうが断然いいってよ」
「…………いいえ。そんなことはありません」
白銀の剣聖に殴られてもなお、メアリーは動じない。
「彼は立派な人です。あの日……なにもできなかった私を、彼は慰めてくれました。前と変わらない、優しい声で」
「あ……?」
「外れスキル所持者? ポンコツ? 知ったことではありません」
そしてメアリーは立ち上がり、敢然とダドリーと対峙する。
「いかにあなたが強くとも……私のご主人様は、ずっとアリオス様です!」
「て、てめぇ……」
ダドリーが憎々しげな表情で両の拳を鳴らす。
「いいだろう。そこまで言うなら力づくでわからせてやるよ。俺様の凄さをな……!」
させない。
絶対にさせるものか――!
「ぬおおおおおおおっ!」
気づいたとき、僕は叫んでいた。
淵源流。一の型。
真・神速ノ一閃。
「なんだ……?」
「なにかいるぞ……?」
取り巻きたちが僕の接近に気づいたようだが、もう遅い。
僕は剣を抜き、振り下ろされたダドリーの拳を受け止めた。
「な、なにっ……!」
大きく目を見開くダドリー。
「久しぶりだな、剣聖候補。こんなところで――なにをしている」
「くおおおおおおおっ!」
それでも力づくで拳を押し込んでくるので、僕はスキルを発動する。
選ぶ能力はもちろん《攻撃力の書き換え》。
ダドリーの攻撃力を1/4に書き換えた。
「な、なんだ……? 力、出ねぇぞ……?」
ドォン!
目を見開いている間に、あいた片手でとびきりの一発を見舞ってやる。
もちろん攻撃力(小)を重ねがけしたうえで――だ。
「ウボァー!」
情けない悲鳴をあげて吹き飛ぶ剣聖候補。
「なっ……!?」
「ダドリー様!?」
取り巻きたちが慌ててダドリーを起こしにいく。
「いて、いててててててっ……!」
情けない悲鳴をあげながら、取り巻きたちに起こされるダドリー。
「てめぇ……誰かと思えば、アリオス・マクバかよ。わざわざ自分から来るとはな」
奴の妄言を無視し、僕はメイドの頬をさすった。
「大丈夫か……メアリー」
「は、はい……。ありがとうございます。また助けられちゃいましたか……」
「いいんだよ。気にするな。おまえは遠くへ下がっててくれ」
「はい。愛しています、アリオス様」
メアリーはぺこりと頭を下げると、そそくさと人垣のなかに消えていく。心なしか、うっすら頬を染めていた。
「ちっ」
その様子が気にくわなかったのだろう。
「あああああああああああっ!!」
ダドリーが突如として大声を発した。
「うぜぇうぜぇうぜぇ!! おまえは外れスキル所持者だろうが! 俺のほうが断然強いんだっての!! わかる!?」
「ダドリー、おまえは……」
「リオンさんも言ってたぜ! 俺のほうが、アリオスなんかよりよっぽど剣筋がいいってな! アリオスを捨てて正解だって言ってたぜ!」
「っ…………」
その言葉は――重かった。
あれほど慕っていた父上が。
剣聖である以前に、息子として尊敬していた父上が。
裏で、そんなことを……
僕の様子に満足したのか、ダドリーは鼻を伸ばして胸を張る。
「あのリオンさんがそう言うんだ。俺のほうが断然優れた剣士。そうだろ?」
「――頭の悪いミソッカス剣士さん。寝言はそこまでにしてもらえるかしら? 耳にウジ虫が湧きそうですので」
そんなダドリーに水を差したのは、遅れてやってきたレイ。
いや。
意図的に変装を解除したのだろう。深く被った帽子をはずし、自身の顔がよく見えるようにしている。
「な……な!?」
今度こそ、ダドリーの目が大きく見開かれた。
「レ、レレレレ、レイミラ様!?」
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