おい、爆弾発言をぶっ込むのはやめろ
さて。
剣ができるまで暇になったな。
このまま時間を潰してもいいが、僕は昨夜ラスタール村を訪れたばかり。
昨日もほとんど見回ることなく寝てしまったからな。一時的にでも住むからには、村のことを知っておきたい。
ということで。
僕はレイミラに連れられて、村の散策をすることになった。
ちなみにカヤとはいったんお別れだ。緊急の依頼が入ったらしい。
カヤからは
「そんなー、寂しいです!」
と言われてしまったが、Aランク冒険者たる彼女を、いつまでも付き合わせるわけにはいかないからな。ここまで同行してもらっただけでも感謝だ。
「見てアリオス! あれが噴水! 綺麗でしょ? 村のシンボルマークなの!」
「はは……。そうか」
「そんであれが料亭ラスタール! あそこのおばさん、すっごく怖いんだから!」
楽しそうにはしゃぎまわるレイに反して、僕はちょっと恥ずかしかった。
なにせ、村人はみなレイの正体を知ってるはずだからな。
第二皇女たるレイ。
そんな彼女と連れ添っている謎の男。
注目を集めるのも無理はない。
唯一の救いは、小さな村だから人通りがほとんどないことか。
「どうしたのアリオスー。あんまり楽しそうじゃないよ?」
だからだろう。
ほぼ無言で歩く僕に対し、レイが心配そうに覗き込んできた。
「いや。そんなことはないんだが……」
「私は嬉しいよ! まるでデートみたいじゃない!」
「おい、爆弾発言をぶっ込むのはやめろ!」
王族が婚姻するとなれば、それはもう重大なニュースになる。ただでさえ無駄な注目を集めているのに、さらに爆弾を投下されては適わない。
「はは、レイミラちゃんラブラブだねー。いい人見つけたじゃない!」
「でしょー!?」
そして村人たちも悪ノリするから始末に終えない。
まったく、この村の住人ときたら……
「でね、次が……」
そして待ちきれないとばかりに案内を再開するレイミラ。
それはもう、本当に楽しそうで。
こちらが申し訳なくなるくらい、嬉しそうで。
「たまには……こういうのも悪くないか」
レイはあんなに喜んでくれている。
であれば、そのデートに付き合うのも一興だろう。
「そんでそんで、あそこが名店の……」
引き続きはしゃぎ回るレイに、僕は苦笑しながらついていくのだった。
★
気づけば夕方になっていた。
村の規模はそこまででもないが、途中で料理店の《ハバーリ》に邪魔したりと、各所で道草を食ったからな。一通り見回る頃には、そこそこ良い時間になってしまっていた。
だが、そのおかげで得たものも大きい。
「ようアリオス! 今度はうちの店にも寄ってくれよ!」
「はは……またいつか」
「うふふ、若い人が来てくれて嬉しいわぁ」
いつの間にか、僕はほとんどの村人と顔見知りになってしまっていた。
むろん、みんな僕の過去を知らない。
新人冒険者のアリオスさん。
そんな感じの認知度だな。
あとレイの婚約者候補とも思われているようだが、それは明確に否定しておいた。
王都の人々と違って、ラスタール村の住人はみな暖かい。新参者の僕に対しても、一切の拒否なく受け入れてくれた。
本当に。
本当にありがたい。
王都では《外れスキル所持者》と判明した途端に除け者扱いされてしまったが、初めて人の暖かさに触れた気がする。
「やー! 冷たい!」
噴水広場。
溢れ出る水を手に浴びながら、黄色い声をあげるお姫様。
夕陽を背景にはしゃぎまわるその姿に、僕はなんとなく懐かしさを感じた。
そうだ。
昔、こうやって二人で遊んだ気がするな。
当時は僕が《剣聖》になることを疑ってなくて。いつまでもレイと一緒にいられると思ってて。
そんな日常は、もう二度と戻ってこないと思っていた。
――でも彼女は、昔からなにも変わっていない。
僕が勝手に、自信をなくしてしまっただけで。
「その……ありがとう。レイ」
噴水広場のベンチに座りながら、僕は改めて、皇女にお礼を述べる。
「楽しかったよ。とても」
「ほんと!? よかった!」
夕陽とともに笑顔を輝かせる彼女は、まさしく天使のようで。
「スキルなんて関係ないよ! たとえ剣聖じゃなくても、私はいまのままのアリオスが好き!」
「レイ……ありがとう。本当に」
実家を追放され、なにもかもをなくしてしまった僕だけれど。
それでも、かけがえのない人が、たしかにここに。
深く傷ついた僕の心が、すこしだけ癒された気がした。
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