おい、技名そのまんまだぞ
「へへ、降参するならいまのうちだぜ? いいのかよ」
「大丈夫です。本気で戦いましょう」
試験会場にて。
僕とおっさんは向かいあっていた。
僕は剣を携え、おっさんは大剣を掲げて。
そこそこの距離を保ちつつ、僕とおっさんは互いの出方を窺っていた。
「……なあ小僧。いまどういう気持ちだ?」
「はい?」
「剣聖の息子のくせに《外れスキルの所持者》でよ。しかも孤児に役目を取られて……。ぷぷぷぷ、ぎゃーはっはっはっは! 俺だったら恥ずかしくて死を選ぶね!」
「そ、そうですか……」
戦闘前から随分と騒がしい男だ。正直かなり隙だらけなんだが、たぶん真の実力を隠しているんだろうな。カヤも《最強の剣士》って言ってたし。
前口上はこのくらいにして――とっとと始めよう。
僕はすっと腰を落とすと、剣の柄に手を添え。
全神経を研ぎ澄まし。
極限まで集中力を高めた。
いま、僕の肌はすべてを感じ取っていた。
もちろん、攻撃力アップ(小)の発動も忘れない。手を抜けるような相手ではないからだ。
「ひゅう♪」
カヤが口笛を発する。
「な、なんだよおまえ。一丁前に構えやがってよ」
対するおっさんは数歩引いていた。
「あなたが強いことはわかってます。ですが……手は抜かないでください。お願いします」
なにしろ最強の流派を覚えたばかりだからな。
いまの僕がどこまで通用するか……試してみたい。
最強の剣士が相手であれば、存分に剣を振るうことができるはずだ。
「はっ! ザコのくせに生意気言いやがってよ」
口元を歪めるおっさん。
「いいぜ……そんなに死にてぇならよ、遠慮なくぶちのめしてやらぁ!」
唾を吐き出し、おっさんは駆け出す。
――が、遅い。
なんだあれは。
明らかにおかしい。
レッドウルフといい勝負だぞ。
やはり手を抜いているのか。それにしても雑すぎるんだが。
その後おっさんが大剣を振り下ろしてくるが、受け止めるのは余裕だった。
ガキン!
金属音が周囲に舞う。
「ほう。やるじゃねえか。俺様最高の《振り下ろし攻撃》を受け止めるたぁな」
おい、技名そのまんまだぞ。
「……あの、先輩。手加減は不要と言ったでしょう。僕も父上のもとで修行してきたんですし、もっと本気でいいんですよ?」
「な、なんだと……?」
「ふっ!」
僕は無理やり剣を振り払うと、おっさんの剣を無理やり弾いた。ここはお互い距離を取り、仕切り直したい。
……が。
「ぬあああああああっ!!」
いったいどうしたことだろうか。
おっさんはそれだけで大きく吹き飛び、壁面に激突する。
「……なにやってるんですか」
「くはっ、げほっげほっ!」
めっちゃ咽せてるんですがそれは。
「どうしたんですか。本気で戦いましょう。これじゃ試験にならない」
たぶん、僕の実力を測るのが試験の趣旨だろう。
しかしこの有様ではそれも叶わないではないか。
「くくく、けけけ……ははは!!!」
急に笑い出すおっさん。
「馬鹿野郎め! 俺に本気を出させるたぁな! 後悔すんなよ馬鹿野郎!」
なるほど。
やはり手を抜いていたようだな。
ようやくこれでまともな試合になるというものだ。
僕はゆっくり目を開くと、静かに言い放つ。
「……では、いきます!」
淵源流。
一の型。
――冥府の無限閃。
僕は地を蹴ると、無言で駆け出す。自身が空気と一体となり、ほとんど地に足をつけない状態で疾駆する。
ものの数秒もすれば、おっさんの背後に回り込めるだろう。
だが、カヤいわくおっさんは最強の剣士。僕はそうは見えなかったけど、Sランクに相当する可能性もある。
だとしたら油断はできない。
疾駆しつつ、おっさんの動向を把握しないと――
一秒後。
おっさんは動かない。
二秒後。
……まだおっさんは動かない。
二秒も捨ててくるとは予想外である。よほど自信があるのだろうか。
三秒後。
「あれっ」
おっさんは間抜けな声を発した。
――まるで、僕が走り出したことをいま気づいたとでも言うように。
だが、そんなことがあろうはずがない。相手は最強の剣士。僕の全力を叩き込むまでだ。
四秒後。
僕はおっさんの背後に回り込むと、抜きざまの一撃を見舞う。むろんそれだけでは終わらない。
二撃目、三撃目、四撃目……
縦横無尽に乱舞する僕の剣が、おっさんの背中を的確に捉える。
これが淵源流がひとつ、冥府の無限閃。
相手の背後に瞬時まわりこみ、即死級の技をたたき込む、まさに恐るべき技だ。
だが、(何度も言って申し訳ないが)相手は最強の剣士。この程度の剣、どうということはないだろう。
……と思っていた時期が、僕にもありました。
「かはっ……おええええっ」
僕の足下で、おっさんが苦悶に表情を歪めていた。