おい、平和に暮らしたいんだが
というわけで。
無事ギルドに到着した僕たちは、ひとまず冒険者に登録することにした。
ちなみに登録するのは僕だけだ。
カヤは当然として、レイも秘密裏に登録してるって言ってたからな。僕だけ手続きを済ませれば完了だ。
「あれ、あの方々は……」
「レイミラ様にカヤさん……もうひとりは剣聖の息子か……?」
辺境の村ではあっても、さすがに冒険者の情報網は広いらしい。彼らは僕の出自を一瞬で見抜いたようだ。まあ剣聖リオンは剣士なら誰でも憧れる存在だしな。
「あの、冒険者登録をしたいんですが」
「はい……って、あら」
女性の受付係が目を丸くする。
「カヤにレイちゃんじゃない!? 二人揃ってどうしたの?」
「エリサ! 久々!」
レイはまず挨拶を述べると、自慢げに僕の背中を押す。
「今日はアリオスの冒険者登録をお願いしようと思って! どう、できるでしょ?」
「え? う、うん。できるとは思うけど……さすがに試験は受けてもらうわよ? 大丈夫?」
「うん! 大丈夫!」
「そっか……ならいいんだけど……」
楽観的なレイに対して、エリサと呼ばれた受付嬢は心配そうな表情だ。《外れスキルの所持者》たる僕の身を案じてくれているのだろう。
それにしても試験か。
ちょっと気になるな。
「あの……エリサさん」
「はい?」
「試験って、そんなに難しいんですか?」
「いえ、そこまでではないです。Cランク以上の冒険者と戦って認められる必要があるのですが、人によっては――」
「おい! てめぇまさか《外れスキル》のアリオスじゃねえか!?」
ふいに男が会話に割り込んできた。大剣を背負った、妙に体格の良いおっさんだ。
残念ながら、どう見ても友好的な態度ではないな。
新米冒険者として、とりあえずは下手に出ておくか。
「はい。僕がアリオスですが」
「ぎゃははは! やっぱりな! その間抜け面、やっぱり見たことあると思ったぜ!」
「…………」
ふぅ。
辺境の村とはいえ、外れスキル所持者は普通に暮らすこともできないのか。いきなり暴言を投げかけられるとはな。
「ねえあなた。私のアリオスになにを言うのかしら。人としての礼節に欠いたその態度、もしかして歳の割に頭の悪い、可愛そうなジジイかしら?」
レイミラがキレた。
だがおっさんも動じない。
「あ? なんだテメェ、ぶっ殺されてえのかよ」
レイに気づかないのか。
ってことは、最近この村にやってきた冒険者だろうか。他の冒険者とも親しくはないようだし、たぶん他の街からやってきたんだろう。
「おい、小僧」
ふいにおっさんが僕に嫌らしい笑みを浮かべる。
「いまから試験受けるんだろ? 俺様は実は最強の剣士様でな。つまりはおまえより格上にあたるわけだ」
「はぁ。そうですか」
「命令だ。俺に勝ってみろ」
ずいぶん勝手な話である。
僕は受付嬢に視線を戻した。
「……エリサさん。この方との試験ということで大丈夫ですか?」
「け、形式的には有効なんですが、その、えっと……」
「大丈夫ですよアリオスさん。問題ないです」
困り顔のエリサに、カヤがフォローをいれる。なぜかちょっと悪い表情を浮かべているのは気のせいか。
「その代わり、あの人は本当に最強の剣士様(笑)なので。本気で戦ったほうがいいかと」
「……なるほど。わかりました」
正直、そこまでの使い手には見えないんだが……カヤが言うなら間違いないだろう。
「で、では試験会場にご案内します。ついてきてください」
エリサに先導され、僕は試験に臨むのだった。