おい、どんな夢を見てるんだ
――すごい。
両断された大木を遠目に見やりながら、僕は自身の両手を見下ろす。
あれを……僕がやったのか。
剣聖というスキルを得ることができず。
《外れスキル所持者》としてマクバ家を追放された僕が。
淵源流。
それは初代剣聖が生みだし、マクバ流の根元となった流派。
振るう者はまさに鬼のような身のこなしで戦場を駆けめぐり、味方からは賞賛され、敵からは恐れられていた。
それだけに扱いが難しい。
剣の極地に至りし者のみが使える、伝説の流派とされていた。
その力を――手に入れることができた。
やばい。
こればっかりは、さすがに。
さっき、ファルアスは次世代に力を引き継ぐと言っていた。
まだ詳細はわかりかねるが、その跡継ぎに僕が選ばれたということだろうか?
当代最強のマクバ流をも上回る、歴代最強の後継者として。
チートコードの一覧を開くと、さきほどの《&%%%$》という表記は消えていた。
あれがいったいなんだったのか、結局わからずじまいだな。
「はは……ははは……」
駄目だ。
頭が混乱してきた。
寝よう。
こういうときは寝るに限る。
「すー、すー……」
家に戻ると、レイが呑気に寝息を立てていた。わりと際どい格好をしていたので、とりあえず毛布をかけてやる。
「むにゃむにゃ……ああアリオス、大好き……あっ」
「…………」
ずいぶん幸せな顔してやがる。
なんの夢を見てるんだこいつは。
僕は壁にもたれかかると、座った姿勢のまま眠りにつくのだった。
★
一方その頃。
マクバ家の屋敷では。
「おい……おまえも辞めるのか」
アリオスの父――リオン・マクバは絶望の表情を浮かべていた。
「はい……。ダドリー様には、もうついていけませんので」
「そうか。いままでより報酬を上げることはできるが、それなら――」
「結構です」
きっぱり言い放ち、召使いが部屋から出ていく。
「…………はぁ」
ひとり、リオンはため息をつく。
仮にも剣聖と名高き自分が、こんなにも冷たい態度を取られるなんて。
前までは、自分が通るだけで尊敬の眼差しを向けられたのに。
いまではそれすらない……
原因はわかっている。
剣聖の跡継ぎ――ダドリー・クレイスだ。
横暴な彼に対し、思い切った態度を取れないことが不信感に繋がっているのだろう。
それはわかっている。
わかっているんだ。
だが彼はマクバ家にとって希望の星。もし家を出られでもしたら、王族との結びつきが弱くなってしまう。代々続くマクバの伝統が、自分の代で終わってしまう。
それだけは避けねばなるまい。
――いまは耐え時、か。
ダドリーもいつか自身の未熟さに気づくはず。それまで自分が頑張るしかない。
「リオンさん! なぁ、リオンさん!」
ふいに部屋の扉が開けられた。
ダドリーだ。
なんだか様子がおかしい。涙目を浮かべているような……
「ダドリーか。どうした?」
「リオンさんの実の息子……って、名前なんていったっけ?」
「ん? たしか……アリオスだった気がするが」
「やはりそうか……」
妙に納得するダドリー。
「なんだ? アリオスがどうかしたのか?」
「……俺、そいつだけは許さねえ」
「ん?」
意味がわからなかったが、ダドリーが腫れた右頬をさすっているのを見て、なんとなく理由を悟った。
――メアリーだ。
「あのクソ女、《アリオス様のところに行く!》とか言いやがって……。俺のほうが強いってのに、見る目ねぇよな」
「……まあ仕方あるまい。メアリーはアリオスにぞっこんだったからな」
「俺は納得できねえよ。なあリオンさん、いまアリオスはどこにいるんだ?」