真実へと
真の洞窟は、王都アルセウスから馬車で数時間の距離だ。
険しい山岳部に位置しているようなので、途中から少し歩く必要はあるが――
僕たちはこれまで何度も修羅場を経験してきた身。いくら険しい参道を登ることになったとしても、さしたる脅威になりえない。
それに。
「せやぁぁぁぁぁぁぁああああっ!」
「グァァァアアアアア‼」
僕の剣に切り刻まれ、なすすべもなく倒れるブラックグリズリー。
昔だったら決して敵わない敵だったが、いまの僕には淵源流や《チートコード操作》、それに《原理破壊》もある。
以前と同じように、闇色のオーラをまとっているのが気がかりではあったものの――
道中の魔物にもさしたる苦戦をすることもなく、山道を進むことができていた。
「すごい、綺麗ですね……!」
山道の下に広がる景色を見て、エムが感嘆の声をあげる。
「ラスタール村も自然豊かな場所でしたけど、ここはそれとは違うっていうか……」
「はは。たしかにそうだな」
僕はあまり山には詳しくないが、王国内でもそこそこ大きな山じゃなかろうか。
ここから見下ろせば、広大な自然と、そのなかにぽつんと存在する街や村を望むことができる。その壮大な景色がなんとも美しく、僕たちに感動を与えてくれる。
「すごいわよね……。こういうの見てると、普段の私たちの悩みがちっぽけに思えてくるっていうか……」
「レイ……」
まあ……たしかにそうかもな。
マクバ家から勘当されたときは、それこそ「この世の終わり」だと思ったけれど。
《剣聖》スキルを授かれなかったときは、それこそ僕に生きる価値なんてないと思っていたけれど。
でもいまなら、その考えが間違っていたことがわかる。
「そうだな。異世界人はどうしようもなく強い連中だけど……きっと僕たちならどうにかできると思う。レイもエムも、これからも一緒に乗り越えていこうな」
「うん……!」
「はいっ……!」
レイとエムの返事が重なった。
真の洞窟までもう少し。
異世界人たちの思惑や、リオンたちの狙いを知る機会が、きっと間もなく訪れるはずだ……
そう思うと、僕は俄然身が引き締まる思いだった。
★
――一方その頃。
真っ暗な空間のなかで、二人の人物が小声で会話を交わし合っていた。
「どうでしたか、リオン殿。アリオスの強さは」
「ふふ……。なかなかに素晴らしかったですぞ。あのミルア・クレセントと互角にやり合っていましたからな」
「なるほど。ミルアとやり合える実力があるのならば、もはや思い残すこともないでしょう」
そう言うのは――かつてアリオスと剣を交えたフェミア・ルトラール。
同志Aという名で、以前アルセウス救済党のなかを偵察していた人物だ。
そのフェミアに、今度はリオンから話しかける。
「フェミア閣下も……もう、思い残すことはないのですな」
「ええ、大丈夫です。レイミラも信じられないほど頼もしくなりました。もはや私の助けの手は不要でしょう」
「……承知しました」
そう言いつつ、リオンは腰にかけた剣に触れた。
「では、参りましょう。《全人類奴隷化計画》が始動してしまったいま――もはや連中どもを斬り伏せられるのは我らしかいない」
「ええ。アリオスやレイミラのように、私たちも決意を固める必要がありましょう」
そう言いつつ、二人は真っ暗闇をひたすら進んでいく。
「……さらばだ。我が息子――アリオスよ」
リオンが呟いたその声だけが、空間に虚しく響いていた。
※新作投稿しました!
外れスキル《0ターンキル》で、俺は戦う前から勝利する ~ゴミスキル扱いされて実家を追放されたけど、これは敵を即死させる最強スキルでした。世界を創った女神に溺愛されていて今更戻れない~
https://ncode.syosetu.com/n2390hu/
かなり力を入れて書いていますので、ぜひお越しください……!




