おい、意外なんだが
あとがきに重要なお知らせがあります!
「おい」
重鎮会議が終わったあと、僕は聞き覚えのある声に呼び止められた。
――ダドリー・クレイス。
僕の弟弟子が、王城通路の壁にもたれかかっていたのである。
「ダドリーじゃない。あんた、いったいどうしたの?」
僕の隣を歩いていたレイが、目を見開きつつそう訊ねる。
「あ……いや……」
さすがのダドリーも、レイにはタメ口で喋れないらしいな。後頭部をかきながら、やりにくそうに答える。
「まあ、会議の内容が気になりましてね……。ずっとここで待ってたわけですよ」
「へぇ……。ずっと待ってたの?」
「はい……そうなりますね」
思わず目を見合わせる僕とレイ。
会議はかなり長引いたので、少なく見積もっても二時間はかかったと思うが。
そんなに長時間……こいつはずっと待っていたというのか。かつての「我がままな剣聖候補」のイメージからは、まるで想像もつかないが……
その理由はきっと、あいつの件だろうけどな。
「……父親のことだな?」
「…………」
その予想は当たっていたらしい。
ダドリーは数秒だけ沈黙すると、
「ああ……。少しでもわかってることがあったら教えてくれ」
と答えた。
もちろん、簡単に教えられることではない。
重鎮会議の内容は機密事項だし、いくらダドリーとはいえ、おいそれと話すわけにはいかないもんな。
だが――彼は変わった。
マヌーザ戦といい、リオン戦といい、彼のおかげで救われた場面があるのも事実。今後の付き合いという意味でも、ここは隠しておく必要はないだろう。
そう判断した僕は、素直に答えることにした。
「いや……すまないが、詳しいことはなにもわかっていなくてね。王国軍の情報網をもってしても、あいつの足取りはまったく掴めていない」
「そうか……。軍でもわからねえなら、しゃあねえか……」
「もちろん、詳しいことがわかったら伝えるよ。だからおまえも……なにか新情報を掴んだら僕に伝えてほしい。僕と話すのが嫌だったら、王国軍にでも伝えれば構わないから」
「…………」
そこでダドリーは、じっと俺を見据えると。
「はっ、しょうがねえ。アテにゃあしねえが……期待してるぜ、準元帥サマよ」
と勝気そうな笑みを浮かべた。
「そりゃどうも、白銀の剣聖サマ」
「ちょ……やめてよ、二人とも」
二人して意地の悪い笑みを浮かべ合う僕たちに、レイが呆れ顔で仲裁した。
張り詰めた空気感が……少しだけ解れた気がした。
「あ……そうだ。レイミラ様」
珍しくダドリーがレイに話しかけた。
「レイファーは……いまどうしてるんすか? 大人しく王都に向かってったのは見ましたが」
「ああ……お兄様ね」
レイは少しだけ複雑そうな表情を浮かべたが、数秒後にはしっかりダドリーの目を見据えて言った。
「お兄様なら、王都近くの牢屋に戻ったわ。ううん……。一時的に開放したアルセウス救済党の構成員や、元は各地に隠れていた構成員でさえ……あの騒動後、自主的に牢屋に入っていった」
「自主的に……?」
少し意外そうに片眉をぴくりとさせるダドリー。
「ってことは、反省したってことですかね……」
「わからないわ。だけどみんな、すごく大人しくて……。問題なんかは一度も起こしてないみたい」
「…………」
――私たちは……見失ってしまったのだ。本来守るべきだったものを。国を。信念を。私たちは国を壊したかったのではない……。守りたかったのだ――
かつてのレイファーの声明が、嫌でも思い起こされる。
もしかすれば、彼らの本質は、ここにあったのかもしれないな。
「ふっ。ははは、はははははは……」
そこでなにを思ったか、急にダドリーが笑い出した。
「レイミラ様。もしよかったら、レイファーの奴に伝えといてください。あのときの気迫……悪くなかったってな」
あのとき。
言われるまでもなく、港町ポージでの出来事だろう。
圧倒的な力を持つリオンに対して、レイファーはなんとか食い下がっていた。もちろん勝つことはできないまでも、善戦以上の戦いを繰り広げていたからな。
たぶん、その気迫を称えようとしているのだろう。
「……うん。わかったわ。伝えとく」
「恩に着ます」
それだけ言うと、ダドリーはくるりと身を翻す。
「そんじゃ、俺はこれで。……おいアリオス、てめぇもしくじんじゃねえぞ」
「任せておけ。異世界人なんかに、この国を侵略させはしないさ」
「……はん。上等だ」
そう言い残し、ダドリーは僕たちから遠ざかっていった。きっと、またリオンを探しにいくんだろうが――その背中が、僕にはどこか寂しそうに感じられた。
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敏捷度9999999999の俺にとっては、光の速度さえウスノロに見える。~貴族家を追放されたけど、外れスキルが化け物すぎたので、俺は幼馴染の王女と新生活を送ります。おや、いつのまにか実家が滅亡してる
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