おい、いったいなにが始まるんだ
★
――その一方で。
「ふふ……」
自身の服を叩きながら、ミルア・クレセントは変わらず面妖な笑みを浮かべる。
「本当に強いですわね、アリオス・マクバちゃん……。私、ウキウキしちゃう♡」
「そ、そりゃどうも……」
戦いの最中に笑顔を浮かべられるなんて、ずいぶん余裕だな。
それもまた、強者たる所以なのだろうが。
「さて、どうするか……」
《裏チートコード操作》はかなり強力な能力だが、ミルアもまた化け物。
いつもは危険度を考慮して能力の乱発を控えているが……現時点においては、そんな悠長なことは言っていられないだろう。
―――
使用可能な裏チートコード一覧
・魔眼
・破壊
・殲滅
――――
まずさっきの《殲滅》だが、迫りくる魔法を滅することができた一方で、ミルア自身にはなんの効果もなかった。
ということはつまり、殲滅できる対象は限られているのかもしれないな。
先日はジャイアントオークの群れを《殲滅》できたわけだし、ミルアのように強すぎる敵には効かないのかもしれない。
その次に気になるのは……《破壊》か。
《裏チートコード操作》のなかで、これだけは唯一使っていない能力だもんな。
……ちょっと、試してみるか。
「ふふ、作戦はたておわったかしら?」
相変わらず余裕そうな笑顔を浮かべ続けるミルア。
「どんどんかかってきてちょうだいな♡ 人間が私に敵うことなど、絶対にありえないのだから」
「……はっ、本当に余裕そうだな」
そこまで言ってくるのなら、この能力、本当に試してみてもいいだろう。
「いくぞ! 《裏チートコード操作》発動! 破壊!」
「…………えっ!?」
なぜかミルアが目を見開いた、その瞬間。
「き、きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
驚くべきことに、ミルアの身体が透け始めるではないか。まずは足のつま先から、膝、太もも、胴体にまで……
ミルアの身体が、少しずつ薄れてきているのである。
「こ、これは《情報の破壊》……! ど、どうして人間がこんな能力を……!!」
情報の破壊。
そうか……そういうことか。
先日フェミアも《情報操作》によって国王を赤ん坊にしてみせたが、原理はあれと似たようなもの。
僕の《破壊》も同様、対象者の情報を問答無用で破壊する能力……ということだろう。
まさに異世界人化。
恐るべき能力と言えるだろう。
《殲滅》……弱い敵なら複数いても瞬殺できる。
《破壊》……効果は単体にしか及ばないが、強い敵でも問答無用で破壊となる。
両者の違いを説明するなら、こういうことだろうな。
まさしく化け物の領域――人には到底届きえない世界である。
――と。
「要求要求――情報の再構築。破壊の中止」
ミルアがそう呟いた瞬間、《破壊の現象》が止まった。
薄れかけていた身体は完全に元に戻り、技を放つ前の彼女に戻っている。
「はぁ……はぁ……恐ろしいことをしてくれますわね」
だが、体力を消耗させることはできたようだな。
さっきまでの余裕そうな態度は消え失せ、幾分か荒い呼吸を繰り返している。
「ふぅ……。忘れてましたわ。あなたは神にも匹敵する力の持ち主。《普通の人間》と認識するのが、そもそもの間違いでした」
「駄目か……」
さすがは《情報》を自在に操る異世界人。
この技だけで勝てるほど生温い相手ではない……ということか。
それでも――この《破壊》という能力が、いかに突き抜けているかは理解できた。今後役立つ力であることは違いないだろう。
と。
「俺は負けねぇ……!! 絶対にあんたを、また王都に連れて帰るまではな!!」
聞き覚えのある叫び声が聞こえてきて、僕は思わず目を細めた。
「あいつ……ダドリー……!?」
ミルアとの戦いに集中するあまり、あいつの登場にまったく気づけなかった。
レイファーと二人で手を組み、リオンと戦闘を繰り広げているようだな。
だが……その二人をもってしても、戦況は不利。
いつの間に強大な力を手に入れたリオンが、ダドリーとレイファーを圧倒していた。
「ふふ。あちらさんも盛り上がっていたみたいですし……このへんが潮時かしらね」
そんなダドリーたちに、ミルアは妖艶な笑みを浮かべると――
ふわり。
またしても、空高く浮かび上がるのだった。
「リオンさん。戦いはそのへんで終わりにして……そろそろ、始動させていきましょう。我らが第一計画……《全人類奴隷化計画》を」
「む……。了解」
リオンはそこで、戦いの構えを解くと。
改めてダドリーに向き直り、真剣極まる表情で言った。
「――そういうことだ。戦いはお預けだな、ダドリー」
「リ、リオンさん……!?」
「レイファー殿下も……これまでの無礼な態度をお許しください。殿下と戦えたこと……マクバの血を引く者として、光栄に思います」
「リオン君。きみは……!」
ダドリーとリオンが戸惑っている間に、リオンも同じく宙に浮かびだす。
剣聖に空を飛ぶ能力はなかったはずだが……これもまた、新しく手に入れた力ということか。
「おまえたち……、いったい、なにをするつもりだ!?」
空高くに浮かび上がった二人に向けて、僕は大声で問いかけた。
「言ったでしょう? あなたたちの頑張りには、たしかに驚かされましたが……この程度のことは、最初から想定の範囲内。計画には支障ありませんわ。我らが第一計画、《全人類奴隷化計画》……ここに開幕を宣言します!!」
パチン! と。
ミルアが右手の指を鳴らした瞬間……先ほどの白いモヤが再び出現した。
さっきと同様、リアルタイムでどこかの景色を映しているようだが――
「まさか……あそこは……」
その風景を理解したとき、僕は思わず戦慄した。
――ヴァルガンド帝国。
はるかなる昔、アルセウス王国と戦争を繰り広げた隣国の帝都が――そこに映り込んでいたからだ。
【※ お礼 ※】
本作の3巻が、売上好調とのことです……!
お買い上げくださったみなさん、本当にありがとうございました!
秋葉原の大型店でも品薄になってきてるみたいなので、
どうぞ今のうちに、アマゾンでもリアル書店でも、ご購入いただけますと幸いです(ノシ 'ω')ノシ バンバン
※作品紹介ページは下にあります!
よろしくお願いします!(ノシ 'ω')ノシ バンバン