咎人として
その一方で。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!」
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!」
元王子のレイファー・フォ・アルセウスは、リオンと激闘を繰り広げていた。
一帯に金属音が響きわたり。
剣が激突するたびに火花が散り。
両者一歩も引かない戦いを、レイファーたちは繰り広げていた。
「驚きましたぞ、殿下……! まさか、これほど腕を上げていらっしゃるとは……!」
「君も……噂以上の強さだね……!」
剣の応酬を続けながら、二人は戦闘を続ける。
だが……軍配が上がっているのはリオンのほうか。
元王族と元剣聖では、当然ながら元剣聖のほうが強い。
最初のうちは互角に渡り合えていたレイファーが、少しずつ苦い表情を浮かべ始める。
――だが。
「くおおおおおおおっ!」
レイファーはそれでも止まることなく、かつてアリオスとの戦いで拝借した技を使用する。
「淵源流・一の型……真・神速ノ一閃!」
「おおおっと……!!」
さすがのリオンもこれには驚いたらしい。
神速のごときスピードで放たれるレイファーの剣を、上半身を逸らすことでなんとか回避する。
だが完全回避には至らず――剣の切っ先がリオンの頬を薄く撫でていった。
レイファーはそのままリオンから距離を取って着地。
「はは……いまのを避けるとはね……。さすがに想像していなかったよ……」
「なにをおっしゃいますか。私に傷を負わせられる者はそういない。あっぱれという他ありませんな」
「ふん、それはどうも……」
リオンはこう言っているが、戦況はどう見ても絶望的。
レイファーはいま、ほぼ零距離で《真・神速ノ一閃》を使用してみせた。不意をついた最高の一撃で……ただのかすり傷しか負わせられなかったのだ。
――強い。
これが元剣聖の強さということか。
「…………」
だが、それでもレイファーの闘志は揺らがない。
ただただ静かに、ゆっくりとリオンに向き直り――
再び、リオンに向けて剣の切っ先を差し向ける。
「……なるほど。この程度では、殿下の決意は揺らぎませんか」
「ふふ、そういうことだね」
やや息を切らしながらも、レイファーの瞳はまっすぐリオンを捉えていた。
「リオン君。君とてわかっているはずだ。君が手を組んでいる相手――異世界人が、どれほど危険な連中であるかを」
「…………」
「君と異世界人がどんな関係性なのかは知らないが……結局、相手は異世界人だ。連中に媚びを売ったところで、簡単に切り捨てられる可能性さえある。それくらい……君ならとっくにわかってるんじゃないのかい?」
「……ええ。もちろん、わかっていますとも」
なんだろう。
リオンの表情から憂いの表情が読み取れたのは――レイファーの気のせいだろうか。
「ですが、それでも私は彼らとともに歩むことを決めました。《全人類奴隷化計画》を推し進め、世界に終焉をもたらすことを」
「……ふむ」
ミルアや影石によって意識を操作されている……わけではなさそうだな。
仮に《意識操作》をされているのだとしたら、これほどの知能を保っていることはできない。かつての自分がそうだったように、理性そのものが消え失せ、少しずつ言動があやふやになっていくだろう。
だが、いまのリオンにその様子はない。
徹底して素のまま……正常の状態だ。
「君は……あえて異世界人に手を貸すというのか。そこまでするメリットが、いったいどこにある……!?」
「ふふ。だから言ったでしょう。あなたと同じ気持ちであると」
リオンは剣の切っ先をレイファーに差し向けると。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ! と。
一帯に巨大な振動を発生させるとともに、見るも強大なオーラを迸らせた。禍々しい闇色のオーラは影石のそれと酷似しているが、やはり影石に呑み込まれている様子でもなさそうだ。
――気合。
リオンはただの気合だけで、この港町ポージ全体を揺らしている……!
「なあに、別に不思議なことでもなんでもありません。アリオスを憎みダドリーを憎みアルセウス王国をも恨み……そんな私が世界を滅したいと思うのは、なにも不思議なことではありますまい!?」
「…………ぐっ」
なんという熱気。
さすがは元剣聖というだけあって、その迫力は最強クラスだ。
「……ひとつ、聞かせてくれたまえ!!」
両腕を交差してその熱気を受け止めつつ、レイファーは大声で訊ねた。
「君がそこまでの恨みを抱くようになったのは、きっと……いや、間違いなく私のせいではないのかね!? 私が影石に呑み込まれることがなければ、君もマクバ家としての地位を保つことができていた……!!」
「…………ええ、そうですな。きっかけのひとつとなったのは間違いないでしょう」
そしてリオンはじっと中腰となり、構えの姿勢を取った。
「……先ほど私は《もう恨みはない》と言いましたが、訂正させていただきますぞ。本音を言えば、あなたと殺し合いができて……心から嬉しい気分です!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ! と。
さっきより激しい振動が一帯に発生し、レイファーは目を見開いた。
「ぬっ…………!!」
これは……やばいな。
さすがに次元が違いすぎる。
油断をすれば一瞬にして命を奪われかねないだろう。
だが。
それでも……レイファーの決意は、揺らがない。
「いいだろう、剣聖リオン・マクバ君!」
レイファーも同じく中腰になり、剣の構えを取る。
「敵わないとわかってても……挑ませてもらう! それが咎人たる私の……最期の償いだ!」
【※ 重大なお知らせ ※】
この作品につきまして、「3巻」が「2022/1/28」に発売されます!
表紙もすでに出来上がっていまして、このページの下部で確認することができます。
画像クリックで書報ページにいけますので、【 ぜひ今のうちにご予約 】してくださいますと幸いです!
それが執筆のモチベーションに直結しますので……!
web版よりもさらに面白い出来となっていますので、ぜひお手に取っていただけると嬉しいです(ノシ 'ω')ノシ バンバン
よろしくお願いします(ノシ 'ω')ノシ バンバン




