おい、こんな奇妙な信頼があったのか
「ふぅ……」
僕は大きく息を吸い込み――小声で唱えた。
「スキル発動……原理破壊」
――――
使用可能な原理破壊一覧
・飛翔
・転移
・異世界人化
――――
今回使用する能力は……もちろん《異世界人化》だ。
目には目を、歯には歯を……相手が常識外の力を使うのであれば、こちらも同じ力を使うまでだ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉああああああ……!」
身体の底から溢れ出る力に、僕は無意識のうちに雄叫びをあげる。
自分自身を禍々しい漆黒のオーラを取り巻き、自分でもそうとわかるほど、おぞましい風貌へと変化を遂げる。事情を知らない者が僕を見たら、きっと化け物だと思うだろう。
「な…………!?」
「…………ほう」
互いに向き合っていたレイファーとリオンも、僕の変化に驚きの声をあげた。
「アリオス君……。そ、それは……」
「大丈夫です。《影石》に呑み込まれたわけじゃありません」
心配そうに訊ねてくるレイファーに、僕は落ち着き払った声で答える。
――まあ、そうだよな。
《影石》の被害者であるレイファーにとっては、僕の変化はトラウマ以外の何物でもないだろう。
最強スキル《原理破壊》がひとつ、《異世界人化》。
これは僕のステータスを劇的に底上げするだけじゃなく、通常の《チートコード操作》を《裏チートコード操作》に変えるんだよな。
能力的には恐ろしいものばかりで、普段であれば絶対に使えないスキルばかり。
だが――《影石》を作り出し、此度の事件の黒幕であるミルア・クレセントには――いかなる手加減も不要だろう。むしろ一瞬の油断が命取りになる可能性さえある。
「なるほど……。その力」
僕の様子を見て、ミルアが不愉快そうに下唇を噛んだ。
「管理者ディエスが私たちの力を模倣したものですか……。小賢しいことをしてくれますわね。――いいでしょう」
ドォォォォォォォォォォォォォオオオ!! と。
同じく彼女自身から、見るも巨大な闇色のオーラが出現した。
周囲の建造物……いや、港町ポージそのものを飲み込みかねないほどの膨大なオーラに、僕は目を見開く。
「ぬおっ……!」
「なんだあの力は……!!」
「ば、化け物か……!!」
さっきまで善戦を繰り広げていたアルセウス救済党たちも、すっかりミルアの力に見入っている。
意識を乗っ取られているはずの冒険者でさえ、同様にミルアに視線を向けていた。
――強い。
誰もが本能的にそう直感するほどの圧倒的実力が、ミルアから放たれていた。
「馬鹿な……。我々はあんな化け物と戦おうとしていたのか……」
アルセウス救済党の三番手……ジャック・イレーグも、ミルアを見て呆然と立ち尽くしている。
「……だが、化け物具合でいったらアリオスも負けていないはず。ほぼひとりで我が党を全壊させたその力……いまは信じさせてもらうぞ……!」
――どうやら僕は、ある意味でアルセウス救済党に信頼されているようだな。
ミルアの圧倒的な力に、連中は一瞬だけたじろいでいたが……それでも気を取り直して、戦闘に戻ってくれている。かつてアルセウス救済党と対決していた過去が、まさかこんな形で信頼を生むとはな。
「……ふん」
その様子に、ミルアはつまらなそうに鼻を鳴らすと。
なにもなかった空間から、突如にして魔導杖を出現させ――その先端部分を、僕に向けた。
「いきますわよアリオスちゃん。言っておきますけど……いままでの常識が通用するとは思わないでちょうだいね?」
「ああ……。全力で迎え撃つぞ、ミルア・クレセント!!」
そして……時間にして数秒。
僕たちは静かに向かい合うと……なにか合図があったわけでもなしに、ほぼ同時に駆け出した。
「ん……?」
思わず目を見開く僕。
魔導杖を握っているくらいだし、ミルアは典型的な魔術師タイプだと思っていたんだけどな。
向こうから突っ込んでくるのは予想外だった。
だが――それでも関係ない。
戦いが始まったからには、全神経をミルアの一挙手一投足に集中しなくては――!
「行きますわよ、アリオスちゃん!」
ミルアはそう叫ぶなり、疾駆しながら魔導杖を空高く掲げ。
魔導杖の形状を、剣のそれに変形させた。
「…………っ!」
なるほど。やはりそういうことか……!
上段から振り下ろされる剣を、僕は自身の剣で受け止める。
その後もコンマ数秒ごとに剣撃が差し込まれるが、捉えきれないほどのスピードではない。僕は一秒たりとも油断せず、その剣をすべて受け止める。
「うふふふ♪ さすがはアリオスちゃん♪ 咄嗟の対応と反応、そうこなくっちゃ面白くないわ♡」
「はっ……! ずいぶん余裕そうじゃないか、異世界人さんよ……!」
「当たり前じゃない♡ こんなに楽しい運動会なんて、久しくやってませんからね♪」
怪しげに笑うミルアだが、その立ち回りは達人クラス。
かつて戦った師団長フォムスや、元剣聖リオン・マクバをも上回る猛烈な攻撃を……ミルアは止まることなく差し込んでくる。
しかもミルアの強さはそれだけではない。
「あ、そーれ♡」
ミルアは突然にして《転移魔法》を発動し、一瞬にして僕の上空に移動する。
「こんなのはどうかしら? アリオスちゃん♡」
剣を空高く掲げながら、彼女が放った魔法は……
「くっ……! マジか……!!」
火属性の終曲魔法――プロミネンスバースト。
いや……それだけではない。
雷属性の終曲魔法――ライトニング・グラウンド。
風属性の終曲魔法――セレスティアル・テンペスト。
通常は同時にいくつもの魔法を使えないはずなのに、その《理》を無視して彼女は強大な魔法を複数放ってきている。
仕方ない。
かくなる上は……!
「スキル発動! 《裏チートコード操作》!」
僕がそう叫ぶと、視界に次のような文字列が浮かんできた。
――――
使用可能な裏チートコード一覧
・魔眼
・破壊
・殲滅
――――
今回選ぶ能力は《殲滅》。
うまくいくかは微妙だが、かつてジャイアントオークたちを全滅に導いたこの能力ならあるいは……!
僕がそう念じた瞬間、迫りくる三種の魔法が綺麗に消え去った。
「あら……! これはびっくり……!」
さすがにこれには驚愕を隠せないのか、ミルアが上空で思いっきり目を見開いていた。
――いまだ!
「おおおおおおおおおっ!!」
僕は勢いよく跳躍すると、上空で立ち尽くすミルアに剣を差し込む。
「っつ……!」
だが、さすがは異世界人といったところか。
カキン! と。
コンマ数秒の差で、僕の攻撃を防がれてしまった。
「やるじゃない……。さすがにいまのはびっくりしたわ……」
「それは僕もさ……! まさかこの一撃を防がれるとはね……!」
「な、なんだ……あの戦いは……」
「異次元すぎるぞ……」
「どっちも化け物だ……!」
その一方で、アルセウス救済党が口々にそう喚いているのだった。
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