おい、なんだこの変態は
おかげさまで、3巻の発売が決定しました!
発売日は【1月30日】です!
※すでに通販サイトなどでも予約が始まってます。
かなり力を入れて書いたので、何卒よろしくお願いします!
「まったく……因果なものだね」
元第二王子――レイファー・フォ・アルセウス。
彼は剣の切っ先をリオンに向けながら、ふいに、どこか達観した笑みを浮かべた。
「まるで想像もしていなかったよ。まさか私と君が……戦う羽目になるなんてね」
「ふふ。それについては私も同感です」
同じく元剣聖のリオン・マクバも、やれやれといった様子で肩を竦めた。
「ですが、レイファー殿下。私が言うのもおこがましいと思いますが……あなたは変わった。以前とは目の輝きが違う。一瞬、別人かと思いましたぞ」
「…………」
そこでレイファーはゆっくりと視線を落とすと。
やや暗みを帯びた声で、元剣聖に訊ねた。
「……君は、恨んでいないのかね。私を」
「恨む……? どういうことですかな」
「しらばっくれないでくれたまえ。……君やアリオス君が失墜したのも、ほとんど私の陰謀によるものだ。気づいてないわけではないだろう?」
「…………」
リオンは数秒だけ黙り込むと――
数秒たったのち、
「ええ。正直なところ、あなたが憎くて仕方なかった」
と告げた。
「アリオスもダドリーもアルセウス救済党も……なぜ、私の強さに気づかないのかと。日夜、恨んだ時期はありました」
そして小さくため息をつくと、再び剣の切っ先をリオンに向ける。
「ですが……いまはもうその気持ちはありません。どちらかというと、現在はあなたと同じ気持ちですよ。レイファー殿下」
「……そうか」
レイファーも小さく息を吐くと、同じく剣の切っ先をリオンに向けた。
「であれば、なおのこと止めねばならぬな。元王族として……君にこれ以上、好き放題させるわけにはいかない」
「ふふ、いいでしょう。私も手は抜きません。マクバ家のしがらみは完全に捨て、ひとりの剣士として――このリオン・マクバ、全力であなたと戦ってみせましょう!!」
「ああ。私も負けないよ。王家の義務……たとえこの身潰えようとも、果たさせてもらおうか!」
――元第二王子レイファー・フォ・アルセウス。
――元剣聖リオン・マクバ。
かつて二人で手を組み、アリオスを蹴落とそうとしていた二人は――
いまこの瞬間をもって、それぞれの信念をもとに、全力で剣を交わし始めた――
★
「やれやれ。暑苦しいったらありゃしないですわね」
二人の戦いを横目で見ながら、異世界人のミルア・クレセントは億劫そうにため息をついた。
「あれが《男と男の熱い戦い》……ってやつなのかしら? 理解不能ね、ほんと」
そして彼女はゆっくりと地面に降り立つと、相も変わらず妙に妖艶な笑みを浮かべた。
「あなたもそう思わない? アリオス・マクバちゃん。私たちは大人の楽しみ方をしましょうね♡」
「はぁ……」
その様子に、僕は思わずため息をついてしまう。
「さっきからずっと思ってたけど……最初の印象とはまるで別人だな、あんた」
初めて出会ったときは、ずっとダリアの後ろをついてくる気弱な女性……って感じだったのにな。
まあ、それもたぶん、全部演技だったんだろうけど。
本当にもう、性格がまるで正反対というか。
ミルアと付き合いの浅い僕でも、さすがに驚愕を禁じえない。
「ええ、それはもちろんですわ♡」
なにが嬉しかったのか、ミルアが両手を重ねて飛び跳ねる。
「信じていた人からの裏切り、悲しみ、絶望、恐怖……。最高の食事だと思わないかしら? 私が黒幕と知ったときの、ダリアちゃんの驚いた顔……。ああっ、これだけでずっと生きていけるわ……!!」
「…………」
こりゃまた、だいぶ個性的な敵が現れたもんだ。
僕たちがさんざん苦しめられた影石も、彼女の手によって創られたみたいだけど……
それも色んな意味で納得してしまうというか。
「……ということで、アリオスちゃん♡ あなたの痛がってる顔、怖がってる顔……。それを全部、私に見せてちょうだいな♡ それを見られるだけで、私は満足だから……♡」
「……ずいぶん余裕だな。あんたたちの計画は、レイファーたちにだいぶ挫かれたんじゃないのか?」
「ふふ。それはそれ、これはこれよ。それに正直……この程度のことは、想定の範囲内ですわ」
「…………」
なるほど。
さすがは初代国王をして《化け物》と言わしめた存在。
レイファーたちもすごい活躍をしてくれたが、その一手だけで崩壊するような連中ではない……ということか。
「それじゃあ……僕も全力で挑ませてもらおうか。言っておくけど、手加減はできないぞ……!」
「うふふ、楽しみね! フェミアが大絶賛していたアリオスちゃんの力……とくと堪能させてもらうわよ♡」




