おい、なんだこの能力は
「ねー。アリオスぅー」
レイの甘えた声を、僕は徹底的に無視する。
「聞いてる? ねえねえ」
「…………」
ツンツンと背中をつついてくるが、振り向いたら負けだ。
なぜなら、現在は二人してベッドの上。
本当は別々で眠りたかったのだが、レイが嫌だと言って聞かず。僕も面倒になったので、そのままなし崩し的に同じベッドで寝ることになった。
……のだが。
「おまえ、いまタオル一枚しか着てないだろ」
「うん。それがどうかした?」
「それが問題なんだっての……」
僕もレイも、互いにお風呂あがり。レイはなにを意図しているのか、タオル一枚しか身にまとっていない。
僕も一応は男。
レイのそんな姿を見たくはない。
「あのな、レイ」
横向き寝転がった姿勢で腕を組み、僕はぽつぽつと話し始める。
「僕はマクバ家の追放者。片やおまえは王族だ。もし間違いがあってみろ……おまえの将来に傷がつく」
そう。
アルセウスの第二王女であり、しかも国王から気に入られているともなれば、縁談を持ちかける者は多いはず。
……レイには、僕なんかよりも、もっと良い人がいるはずなんだ。
なのに、剣聖という肩書きを失った僕と間違いがあってはいけない。
「だからレイのためだ。決しておまえが嫌いってわけじゃない」
「私のため……そっか」
後ろでレイが小さく頷く。
「……でも、私はそれでもいいと思ってる。そうすればきっと、また昔みたいに……」
「レイ……」
その言葉はたしかに嬉しかった。
けど――駄目だ。
いまや、僕とレイとでは立場が違いすぎるのだから。
「……じゃ、おやすみね。私は諦めないからね」
「…………」
まったくこのお姫様は。
言い出したら曲がらない。
ほんと、昔から変わらないな。
「ああ……おやすみ」
そう言ってから、僕も両目を閉じるのだった。
が。
……眠れない。
すぐ傍にレイがいるせいか。
もしくは新たな環境に慣れないせいか。
眠気はあるが、どうにも寝付けない。かなり厄介なパターンである。
「…………」
僕はこっそりベッドから抜け出すと、家を抜け出す。
生暖かい風と、優しげな虫の鳴き声。
それを身に受けながら、宛もなく歩いてみる。夜の村は、王都と違って静寂そのものだった。
やがて開けた場所に出た。
木も建物もない。
ただただ雑草が広がるだけの場所。村の外れだろうか。
――ここなら問題ないだろう。
僕はゆっくり目を閉じ、スキルを発動する。
――――――
使用可能なチートコード一覧
・攻撃力アップ(小)
・火属性魔法の全使用
・対象の体力の可視化
・&%%%$
――――――
ジャイアントオークとの戦闘後、僕は新たな能力を手に入れた。
その内容は、いままでとはまったく異質のもの。
――&%%%$
どう読むのかもわからないそれを、僕は扱いに困っていた。なにが起きるかもわからないし、人気のない場所で試してみようと。
いまがそのときだろう。
――チートコード発動。
――&%%%$
「うっ……」
なんだこれは。
視界が……すこしずつ白く染まっていく。
なにも見えなくなる……
★
気づいたとき、僕はまったく別の場所にいた。
――ここはどこだろうか。
建物の中か。
どことなく王城に似ている気がするが、この部屋に見覚えはない。
「はっ……! はっ……!!」
そんな室内で、ひたすら剣の素振りをしている男がひとり。
ん?
この人、どこかで……?
「あのー……」
おそるおそる声をかけるが、返事はない。というか、僕の存在自体に気づいていないような。
なんだ?
これはいったいなんなんだ?
「ふふ。毎日毎日、精の出ることだ」
ふと現れた人物に、僕はぎょっとする。
まさか。
嘘だろ?
――オルガント・ディア・アルセウス。
アルセウス王国の創始者にして、一代目の国王だ。
「陛下……また公務を抜け出したのですか」
剣の素振りをしていた男が、呆れ顔で呟く。
「ふん。これくらい良いだろう。俺はどうも堅苦しいのは苦手でね」
「それでよく王が務まりますな」
「ふふ、言ってくれる」
オルガントは苦笑いを浮かべると、くいっとなにかを飲む仕草をした。
「どうだファルアスよ。一杯ひっかけないか」
「いやいや。まだ昼間ですから」
ファルアス……?
って、おい。
おいおいおいおい!
どこかで見覚えがあると思ったら、素振りをしていた男はファルアス・マクバ――僕の先祖にして、マクバ流のすべてを築き上げた男だ。
その実力はまさに人外。
単身で中隊を滅ぼすほどの実力を持ち、初代にして歴代最強の剣士と言われている。おそらく、父上ですら圧倒するほど――
オルガント・ディア・アルセウス。
そしてファルアス・マクバ。
なんだ。
僕はいったい、なにを見ているんだ……!?




