おい、驚きの連続だぞ
状況は一気に好転した。
王国各地で暴れていた冒険者・異魔獣は、アルセウス救済党によって次から次へと制圧されている。そしてもちろん――ここポージ港町にも、多くの構成員たちが援助に来てくれた。
「コレハタスカリマスネ……」
さっきまで苦々しい様子で戦っていたウィーンも、さすがに安堵したようである。
無理もない。
冒険者は素の戦闘力が強化されているうえに、何度戦っても起き上がってくるからな。もちろん殺すわけにもいかないので、さぞやりにくかったことだろう。
「は……ははは……」
――アルセウス救済党との共闘。
この事実に、僕も笑みが隠せない。
人生、本当になにが起こるかわからないものだ。まさかアルセウス救済党とともに、冒険者たちと戦うことになろうとは。以前はまったく別の立場だったのにな。
「各員、散会! 間もなく火属性の魔法を放たれると推測」
「承知!」
「ガァァァァァァァァァァァァアア!!」
理性を失った冒険者にも、構成員たちはうまく立ち回ってくれている。
自分自身も影石を使ったことがあるゆえに、動きが読みやすいのかもしれない。絶妙な《連携攻撃》でうまいこと戦ってくれている。
本当に……すごい。
連中の厄介さは僕も痛いほど味わっているが、味方になるとこんなに頼もしくなるとはな。
そして。
「貴様がここにいるとはな……アリオス・マクバ」
ひとりの構成員が、すれ違いさまに声をかけてきた。
――いや。
この男に関しては、僕も見覚えがあるな。
「……久しぶりじゃないか。アルセウス救済党の三番手……ジャック・イレーグ」
そう。
こいつとは以前、思念体の姿で戦ったことがあった。
そのときちょうど覚えた《無属性魔法》によって、知らないうちに倒してしまったわけだけど。
三番手と言われるくらいだし、一般の構成員よりも抜きんでた強さを誇っている。
「ふふ、まさかこうして、貴様と相まみえるとはな」
ジャックは不敵な笑みを浮かべつつも、立ち止まることなく僕の横を通りすぎていく。
「――貴様には色々と言いたいことがあるが、いまは勘弁しておいてやろう。我らを打ち破った貴様が……他の者に負けることは許さぬ」
「ああ……言われるまでもない」
僕もふっと笑みを浮かべると、改めて上空に浮かぶミルアを見上げた。
状況は大きく好転したが、では逆転できたかといえばそうでもない。
ミルアの厄介さは言うまでもないし、さらには剣士F――否、リオン・マクバでさえ敵にまわっているからな。
以前までのリオンならたいした敵ではなかったかもしれないが、謎のパワーアップを遂げてしまっている現在、決して油断することはできない。
「さて……どうするか……」
一対二か。
さすがに厳しいかもな。
ウィーンやアン、ダリアも、こっちに加勢する余裕まではなさそうだ。
あと一手。
あと一手が足りていれば……!
「ふん。不愉快ですわね」
空中に浮かぶミルアが、先ほどとは打って変わり、怒りに満ちた目で僕を見下ろしていた。
「わたくしの大好きな、人の悲鳴……泣き声……阿鼻叫喚の嵐っっっ!!。それをことごとく台無しにするなんて、許されることではありませんわっ!!」
そして魔導杖のようなものを懐から取り出すや、その先端を僕に向けた。
「まずは手始めにアリオス・マクバ! あなたの悲鳴から聞かせていただきましょうか……! このわたくしが、しっぽりとじっくりと、絞り取って差し上げますわよ……!!」
「……やれやれ、おぞましいことを言ってくれる。あれは一応、私の息子ですぞ」
リオンは呆れたようにため息をつくと、同じく剣の切っ先を僕に向けた。
「我ら二人でアリオスを倒しましょう。あいつは早いうちに倒しておいたほうがいい」
「ぐ…………!」
案の定、二人ともやる気に満ちているようだ。
リオンはともかく、ミルアのほうは得体が知れない。どうにか気合で切り抜けていくしかないか……!
「――安心したまえ。ここは私が手を貸そう」
どこからともなく声が聞こえてきたのは、その瞬間だった。
「え……?」
この声……
妙に聞き覚えがあるが、まさか……!
僕が目を瞬かせている間、ふいに近くで何者かが《転移》してきた。考えるまでもなく影石の力と思われるが……
「ふう。影石ってのはつくづく便利だねぇ。これも異世界人の力の一部だと思うと……ぞっとするよ」
「あなたは……まさか……」
これには驚愕を隠せずにはいられない。
――レイファー・フォ・アルセウス。
さっきまで王都で猛威を奮っていた元王族が――僕の隣に現れたからだ。
「ふふ……。久しぶりだね、アリオス・マクバ君」
「レイファー殿下……! もしかして加勢しにこられたのですか……!?」
「はぁ……。もう殿下と呼ばれる筋合いはないんだが……」
レイファーはため息をつくと、改めて僕に視線を向けた。
「ご名答。君がこの町にいることは、レイミラやロルガ師団長から聞いてるからね」
「…………」
僕が黙りこくっていると、レイファーはこつこつと前方へ進み始めた。
「もちろん、これしきで以前の罪が償えるとは思っていない。だけど――私の力で、少しでも守れるものがあるのなら……」
そしてそのまま、剣の切っ先をリオンに向けた。
「全力で抗わせてもらうよ。たとえすべてを失ってもね」
「……ふ。レイファー殿下。まさか私と剣を交えるおつもりか」
「勝てるとは思っていない。ただ君には……聞きたいことが山ほどあるんでね」
「いいでしょう。よもや王族の方と戦う日が来ようとは思ってもいませんでしたが……このリオン・マクバ、全力で応じさせていただこう」
レイファー・フォ・アルセウス。
そしてリオン・マクバ。
かつてバトルアリーナ会場では同じ席に座っていた二人が、今度は剣を交えることになろうとは……
これもまた、人生の不思議さというやつか。
――だからこそ、この特大の好機、逃すわけにはいかない。
僕もゆっくり歩き出しながら、レイファーに告げた。
「リオンは任せました。どういうわけだか、以前とは比べ物にならないくらい強くなってますので……どうか、お気をつけて」
「了解。この世界において、異世界と互角に戦えるのは君だけだ。あっちにいる異世界人は……どうか、任せたよ」
「ええ……!!」
そして僕たちは片手でタッチをかわすと、それぞれの敵に向かっていくのだった。
新作あげています!
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外れスキル【全自動レベルアップ】にかかれば、一秒前の俺でさえただのザコ 〜大貴族に馬鹿にされまくってたのに、いまさら土下座されてももう遅い〜
面白いので、ぜひお読みくださいませ。