逆転劇
――一方その頃。
王都アルセウスにて。
「あ、あなたは、レイファー殿下!?」
Bランク冒険者のユウヤ・アルゼンは、自分の素っ頓狂な声を聞いた。
――アルセウス王国の元第一王子。
――またの名を、かつてテロ組織とともに大規模な反乱を企てた首謀者。
レイファー・フォ・アルセウスが、なんと異魔獣たちに斬りかかっていくではないか。王家に伝わる宝剣アンダースを用いて、次々と敵を斬り伏せていく。
……いや、彼だけではない。
「は……はは……冗談だろう、これは……!?」
ユウヤはまたしても驚きを隠せない。
「――思ったより混乱が広がっているな。作戦をパターンCに変更。《影石》の傾向を思い出して、適宜対処せよ」
「承知!!」
そう言いながら異魔獣たちに斬りかかっていくのは――なんとアルセウス救済党。かつて嫌というほど立ちはだかってきたテロ組織が、なんと味方にまわってくれている。
その手腕はさすがの一言。
「ヌオァァァァァァァァぁぁぁぁああ!!」
意識を取り乱している冒険者にさえ、アルセウス救済党の構成員たちはいっさい動じる様子がない。自分たちもかつて影石を使っていたことから、戦い方がよくわかっているのだろう。
「でかい魔法を撃ってきそうだな……。よし、各自散会、魔法が展開された後に一斉攻撃」
「承知!」
実に冷静に状況を分析し、そこかしこの冒険者たちを撃破していく。
さすがは長年アルセウス王国を脅かしていただけあって、その連携は見事という他ない。
「いったい、どうして……」
信じられない。
そもそも構成員たちは牢獄に閉じ込められていたはず。レイファーとて例外ではなく、厳重な監視下に置かれていると聞いていたが……
「助太刀しよう、ユウヤ・アルゼン君!」
「……っ! 了解です!」
いきなりレイファーに名を呼ばれて困惑したが、いまは緊急事態。細かいことは後回しにして、目の前の敵たちを倒さなくては――!
「淵源流……一の型、真・神速ノ一閃!」
レイファーはそう叫ぶや、近くにいた冒険者や異魔獣たちを屠っていく。もちろん、冒険者たちに対しては気絶させるだけに留めているようだな。そのへんの切り替えはさすがというべきか。
ユウヤは実際にレイファーと戦ったことはないが、王族にして凄腕の剣士と聞いている。その話は本当だったということだな。
そして。
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」」
ユウヤとレイファーの連携攻撃によって、ユージェスの妹を取り囲んでいた冒険者たちをついに制圧することができた。
さっきまでは倒しても倒しても起き上がってきたのだが、アルセウス救済党までもがこちらの味方になってくれた以上、戦況がこちらに傾くのは当然といえた。
「イ、イリアっ! 無事かっ……!」
「ううっ……」
冒険者たちに嬲られていたユージェスの妹――名をイリアというらしい――が、呻き声とともに上半身を起こす。
「よかった……命に無事はなさそうだね」
そう言いながら、ユウヤはふうとため息をつく。
あれだけの惨事に巻き込まれたわけだから、もちろん無傷というわけにはいかないが……。だが、これにて無事、ユージェスの妹を救出することができたわけだ。
「兄さん……。来てくれたのね」
「ああ……。つっても、まともに活躍はできてねえが……」
いつもは傲岸不遜なユージェスも、さすがに身内が危機に晒されたとなっては平常心を保てないのだろう。普段よりもいくぶんか素直な言動だった。
「にしても……助かったぜ。まさかあんたらに助けられるとは思っちゃいなかったがな」
「ふふ……。礼は不要さ、冒険者君」
ユージェスにため口を使われても、レイファーはまったく気にしていないようだった。いつも通りの、飄飄とした態度を貫いている。
「感謝を述べるのであれば、アリオス君とレイミラに言ってほしい。これは二人の計らいみたいなものさ」
「な……!? ア、アリオスの!?」
大嫌いな名前が出てきたからか、ユージェスがしかめっ面を浮かべる。
レイファーはその反応をすこし不審に思ったようだが、「うん」と言って話を続けた。
「先に犯人から送られてきた《犯行声明》……。レイミラはそこに違和感を覚えたようでね。いざというときに備え、収容されていた私やアルセウス救済党に声をかけてきたわけさ。一緒にアリオス君と戦ってくれ――とね」
「ア、アリオスに……? お……俺は、あいつに助けられたってのか……?」
ユージェスがいっぱいに目を見開く。
完全な逆恨みではあるんだが、この男は本当にアリオスが気にくわないようだからな。そのアリオスに助けられたとなれば、やはりいろいろと思うことがあるのだろう。
「なるほど……。《犯行声明》というのはよくわかりませんが――これはレイミラ王太女の計らいだったわけですね」
そう告げるユウヤに対し、レイファーは小さく頷いた。
「そういうことだね。わずかな違和感から真相を見抜くとは……いよいよ女王らしくなってきたわけさ」
やや憂いを帯びた笑みを浮かべるレイファー・フォ・アルセウス。
だが決して自棄になっているわけではなく、レイミラの成長を嬉しがっているようでもあった。
そんな彼にすこし同情の念を抱きつつ、ユウヤは周囲を見渡しながら告げた。
「それにしても、意外でした……。レイファー殿下ならまだしも、まさかアルセウス救済党まで協力してくれるなんて」
「ああ……。そうか、そうだね」
レイファーは薄く微笑むと、改めて構成員たちに目を向ける。
「君も知っているとは思うけど、アルセウス救済党も元は《王国を想う人々》の集まりさ。その気持ちが昂ぶりすぎた挙句、異世界人に狙われてしまったわけだけど……。みんな、心の底で願っているんだよ。アルセウス王国の、恒久の平和をね」
「恒久の、平和……」
「そう。だからいかに敵が強大な存在であろうとも、彼らは決して引いたりはしない。それが彼らの信念だからね」
「そうか……たしかにそうでしたね」
かつてアルド家を制圧したときもそうだった。
圧倒的な力を持つアリオスに対して、構成員たちは怯まずに戦いを挑んできた。ある種無謀ともいえる心意気だが、その根底には、決して譲れない信念が存在しているのだ。
その強烈な信念が、異世界人にとって《付け入る隙》になってしまったんだろうな。いつしか彼らは影石に呑み込まれ、《アウト・アヴニールの開発》という、彼らにとってなんのメリットもない行動をし続けてしまったわけだ。
もちろん、だからといってアルセウス救済党を全面的に信頼するわけにはいかない。
そもそもがテロ組織だったわけだし、それはレイファーとて同様だからな。ある程度の線引きは必要だろうが――いまは、彼らほど頼りになる存在はいないだろう。かのアリオス・マクバも、現在は辺境の地に出向いていると聞いている。
「わかりました。過去の経緯はいったん置いといて……いまは、協力しましょう」
「ふふ……感謝するよ」
レイファーはそこでふっと笑みを浮かべると。
どういうわけだか、突如にして頭上を見上げた。
「そういうことだ、アリオス・マクバ君! いまから世界各地に構成員たちを送り込む! 連携は――頼んだよ!!」
★
ポージ港町。大通りにて。
「え……?」
僕は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
急にレイファーやアルセウス救済党が現れたこと。そしてなぜか、レイファーが僕に語りかけてきたこと。急展開すぎて、諸々ついていけないんだが。
いや。待てよ。
「そうか……そういうことか……!!」
――アルセウス救済党。すなわち、王国きってのテロ組織。
構成員のほとんどは制圧に成功したものの、まだ世界各地にアジトは残っている。そして王国の救済のために、いまもなお活動を続けている……
そう。
いま冒険者たちが暴れまわっている辺境にさえ、アルセウス救済党たちが潜んでいる……!
「なっ……! しまった……っ!」
僕と同様の思考に至ったのだろう、ミルアがぎょっと目を見開いた。
だが、もう遅い。
映像に映っているレイファーは、おもむろに小型の通信機器を取り出すや――大勢の人々に語り掛けるように告げた。
『ごきげんよう、アルセウス救済党の諸君。我が名は元第二王子レイファー・フォ・アルセウス。本来は投獄中の身だが、此度、諸君に伝えたいことがあって馳せ参じた』
……なるほど。
アルセウス救済党にも、あの通信機器は普及されていたようだな。
おおかた、世界各地のアジトにでも繋がっているのだろう。
『……諸君らはきっと、いまでも混乱していることと思う。あの日、いきなり私とマヌーザが拘束され……そして他にも多くの構成員が囚われの身となった。さぞ――大変な日々を過ごしてきたことと思う』
そこでレイファーは一区切り入れると、再び語りだした。
『だが……諸君らも、心のどこかでは気づいているのではないか? 私たちは……見失ってしまったのだ。本来守るべきだったものを。国を。信念を。私たちは国を壊したかったのではない……。守りたかったのだ』
ならばこそ! とレイファーが声を張り上げる。
『今一度、私に力を貸してほしい……! 壊してしまったものを、我々の手で再生するために。真の意味でアルセウス王国を救済するために。それをもって……、我らのアルセウス救済党は解散とする!! 冒険者や王国軍とは様々な確執もあるだろうが、どうかともに乗り越えていこう!』
その瞬間だった。
――ムカレス村、ラスタール村、オージニア商業都市、ダレス町。
さっきまで冒険者や異魔獣たちが暴れまわっていた映像に、見慣れた灰ローブの男たちが姿を現したのだ。
考えるまでもない。
影石……かつて僕らをさんざん苦しめてきたものを使って、その場所まで転移してきたのだろう。
「は……はははは……」
これは――すごい。
アルセウス救済党のみならず、まさか影石までをも逆利用してしまうとは。さすがは元第二王子――レイファー・フォ・アルセウス。その知略はいまでも健在のようだな。
そして極めつけは――レイミラ・リィ・アルセウス。
先ほどの会話を聞きつけるに、レイがこの窮地を救ってくれたわけだ。いまは離れ離れになってしまっているけれど、それでもこうして、僕を助けてくれた――
「レイ……ありがとう……」
かつて戦場を駆け抜けた、オルガントとファルアス。
その逸話を思い出した気がした。
だが、僕も手をこまねいてはいられない。
急にアルセウス救済党が各地に登場してしまった以上、現地の混乱は必須。両者をうまく連携させるには、準元帥たる僕の命令が必要だ。
「こちらアリオス・マクバ。全王国軍に、緊急の指令を告げる」
僕は小型の通信機を取り出し、大声で命令を発した。
「各地に訪れたアルセウス救済党と連携し、暴れまわっている冒険者と異魔獣を無力化・ならびに制圧せよ。もう一度告げる。アルセウス救済党と共闘し、冒険者と異魔獣を無力化・制圧せよ――!」
▲▽ どうかご一読ください……! ▲▽
やや暗めの展開が続きましたが、やっとここまで書き進めることができました!
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