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いま力を合わせるとき

「い、いまのは……⁉」


 突如聞こえてきた、甲高い悲鳴。


 いまの状況と照らし合わせれば、これは……!


 僕はアンと目を合わせると、急いで冒険者ギルドを出る。せっかく案内してくれたダリアを置いてきてしまう形になってしまうが、いま、それを気にしてはいられない。


「こ、これは……!」


 果たして――ポージ港町は、想像通りの惨状に陥っていた。 


「や、やめて、やめてよ! どうしてあなたたちがこんなことをっ……!」

「ケヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘ……」


 そう。

 女性に襲いかかろうとしているのは、なんとこの町の冒険者。理性を失った表情で、剣の切っ先を女性に向けている。


 それだけではない。

 町の至るところで、冒険者たちが暴動を繰り広げているのだ。


 住民に襲いかかる者や、建物を壊そうとしている者、放火を試みている者……


 さっきまで平和だったはずの港町ポージは、まさに地獄絵図となり果てていた。


 さらに恐ろしいのが、なんと異魔獣までもがこの場に現れていること。昨日、旧校舎ポージにて現れた異魔獣たちが――冒険者と一緒になって町を破壊し尽くしているのだ。


 ――地獄。

 この光景をそう呼ばずして、なんと呼ぶ。


「おおおおおっ!」

 僕は猛スピードで疾駆し、目の前で襲われていた

女性を助けに出た。


《チートコード操作》の《攻撃力アップ(小)》を用いて、理性を失った冒険者を攻撃。《攻撃力アップ(中)》にしなかったのは、下手をすると殺してしまう恐れがあったためだ。


「く……か……!」


 狙い通り、冒険者は白目を剝いて気絶。これでしばらく動き出すことはないだろう。


「あ……」

 さっきまで尻餅をついていた女性が、大きく目を見開いた。

「あ……ありがとうございます、アリオス準元帥……!」


「いえいえ……! ここは危ないです。あなたもすぐに避難を……!」


「ええ……! どうも、ありがとうございました」


 女性はぺこりと深いお辞儀をすると、そのまま近隣の建物に逃げ込んだ。町中で冒険者が暴れている以上、絶対的に安全な場所はないだろうが……これでひとまず安心といったところか。


「おい、あんたたち、いったいなに……が……?」

 遅れて姿を現したダリアが、町の惨状を見て呆然と立ち尽くす。

「は……? なんだこれは……⁉ どういう、ことだ……⁉」


「ああ……。これが《敵》の目論見だったってことだろうな……」


「敵、だって……⁉」


 そう。


 いま町中で暴れている冒険者たちは、全員、明らかに様子がおかしい。


 漆黒のオーラを身にまとい、わけのわからぬ奇声を発して暴れるさまは、かつてのフォムスやレイファーを彷彿ほうふつとさせる。


 影石によって精神を蝕まれている――そう判断するのが妥当だろう。


「そして、この展開になるよう仕組んだのが……おまえというわけだな」


 そう言いながら、僕は背後を振り返る。


 銀色の甲冑に身を包み、圧倒的な風格を持ってたたずむ謎の剣士。

 旧校舎にて僕たちと相対し、圧倒的な強さを持っていた謎の剣士。


 こいつが事件にどう関わっているのかは知らないが、僕たちがここに来た途端、背後に転移してきたようだ。


「これがおまえの目的だったということか……。剣士F……いや、元剣聖、リオン・マクバ!」


「え……⁉」


 僕の発言に、アンが大きく目を見開いた。


「ふふ……」


 剣士Fは余裕そうな笑みを浮かべると。

 銀色の兜をみずから外し、その風貌を僕たちに晒しだした。 


「気づいていたか。及第点といえよう、我が息子よ・・・・


 その姿はまさしく、嫌というほど見覚えのある顔――リオン・マクバそのものだった。


   ★


 一方その頃。ラスタール村近辺では。


「よし……こんなもんかしらね」


 Aランク冒険者のカヤ・ルーティスは、剣を鞘に収め、ふうと一息ついた。


 眼下で倒れているのは、見たこともない魔物が数体。

 Aランク冒険者たるカヤでさえ見覚えのない、極めて珍妙な魔物だった。


「なんとか倒せたけど……なんだか、妙だったわね……」


 なんというべきだろう。

 かつて相対したジャイアントオークやアルセウス救済党のように、この世のものではない強さを誇っていた気がする。それこそ、かの影石でも使っていたかのような……


「まさか、ね……」


 異世界人の手が、まさかここまでやってきたというのか……?


 さすがにそうとは思いたくないが、一応の警戒は張るべきだろう。


「アリオスさん……」 


 そう。


 それだけが、彼のためにできる唯一のことだから。

 なにはともあれ、これにて依頼は完了。あとはギルドマスターのアルトロに状況を報告すれば、今回は一件落着とみていいだろう。


 そう判断して、ラスタール村に戻ろうとした――その瞬間。


「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ……!」


 突然聞こえてきた悲鳴に、カヤは大きく目を見開いた。


 なんだいまのは。

 それになぜか、村から不穏な気配も感じるような……!


「っ…………!」


 カヤは咄嗟に走りだし、ラスタール村へと向かう。

 そして彼女が目の当たりにした光景は……到底信じがたいものだった。


「ベルゼ! ムーマ! みんな……みんななにやってんのよッ!」


 そう。

 本来ラスタール村を守るはずの冒険者たちが、目の色を変えて暴れまわっているのだ。


 住人たちに暴力を振るう者、建物を壊そうとしている者……


 その行動は多岐にわたるが、それぞれの冒険者の様子から、カヤが導きだした答えはひとつ。


「影石……。異世界人の仕業ね……‼」


 理性を失った様子といい、怪しい言動といい、まさにアルセウス救済党のそれと瓜二つ。ラスタール村の冒険者たちは、いつの間に異世界人に意識を乗っ取られていた……⁉


「カヤ! 無事かの⁉」


 ふいに声をかけてきたのは、ギルドマスターのアルトロ。


 どうやら彼は無事だったようだな。まわりの冒険者と違い、彼の様子は平常を保っている。


「よかった。お主は無事じゃったか。よかった……!」


「ア、アルトロさん! これはいったい……?」


「わからぬ……。いきなり皆の様子がおかしくなってな。あやつ・・・以外、正常な意識を保っておらん状態じゃ」  


 あやつ……?


 言われて視線をそちらに向けると、見覚えのあるCランク冒険者が決死の戦いを繰り広げていた。実力はやや足りていないが、異形の魔物から住民たちを守ってくれている。


「ラッセン……! あの人も無事だったのね……!」


 アリオスが初めてラスタール村を訪れた際、アリオスに喧嘩を売ってボコボコにされたおっさん冒険者だ。あれがきっかけで妙な改心を果たし、いまではアリオスを神のごとく崇拝している。


「そっか……そういうことか……!」


 カヤ、アルトロ、そしてラッセン。

 ラスタール村において、アリオスと関わりの深かった者たちだけが正常な意識を保っている。


 反して、ベルゼやムーマなど、アリオスと関わりがなかった者は意識を乗っ取られてしまっている。

 これらの状況から浮かび上がってくる答えは、やはりひとつ――! 


「アルトロさん。間違いありません。これは……異世界人の仕業でしょう」


「異世界人……?」

 アルトロは眉をぴくりと動かすと、得心がいったようにため息をついた。

「そうか、なるほどのう……。例の連中か……」 


「ええ。アリオスさんが触れると《影石》の効果が消える……その力にあやかって、私たちはなんとか無事だったんでしょう」


「ふふ……。驚いたわい。こんなところでもあやつに助けられるとはの」


 アリオスが村を去ったことは、単純に村にとって大きな損失だったけれど。

 それでも彼はこんなところで、私たちを守ってくれている。 


 だったら――!


「アルトロさん。ここはなんとしても死守しましょう。いつか彼が戻ってきたとき、笑顔で迎えてあげられるように――!」


「おう! 任せておくがよい!」

 威勢の良い返事をしながら、アルトロは軽々と斧を掲げる。

「《豪躯ごうくのアルトロ》と呼ばれた戦士の血……いまこそ見せつけてやるわ‼」


  ★


「ちっくしょう……アリオスの野郎、許せねえ……」


「まだそんなこと言ってるのかい。いい加減、落ち着きたまえよ」


 一方その頃。アルセウス王都にて。


 Bランク冒険者のユウヤ・アルゼンは、昼間っから酒飲みに付き合わされていた。


 相手はユージェス・ガルア――かつて王都周辺にホワイトウルフが現れたとき、アリオスをけなしまくった男だ。


 結局あの後、アリオスがアルセウス救済党のアジトを発見して、ユージェスの功績は見向きもされなかった記憶がある。 


 それをまだ根に持っているのか、こいつは事あるごとに「アリオスの野郎」「アリオスの野郎」とうるさい。


 アリオスはもう準元帥となり、全国民に慕われているというのに……

 それでもまだ、ユージェスは彼を認めたくないらしい。


「認めたくねぇといやぁお前もだよ! 近々Aランクに昇格間近なんて……聞いてねえぞっ!」


 ドンッ、と。

 ジョッキをテーブルに叩きつけながら喚き散らす様は、みっともないという他ない。


 ユウヤは思わず顔をしかめながら答えた。 


「し……仕方ないだろう。私もつい最近聞いたばかりなんだからな」


「ちくしょう……! どいつもこいつもぉ……! ひっく!」


「…………はぁ」


 正直、付き合わなきゃよかったと後悔している。

 誘われたときは神妙な様子だったし、「相談がある」と言ってたからOKを出したんだが……結局、ただの愚痴大会でしかなかった。


「じゃあ、すまないが私はここらで失礼させてもらうよ。金は出しておくから――」


「おいユウヤ! ふざけんなよ、まだ話は終わってねぇ!」 


「おい……これ以上なにを話すというのだ……」


 右腕をがしっと掴まれ、嘆息するユウヤ。


 仕方ない。

 日中はこいつの愚痴大会に付き合ってやるとするか……


 そう思い、再び座席につこうとした――その瞬間。


「ぬ…………!」


 ふいにユウヤは全身に怖ぞ気を感じた。

 なんだ。いまの気配は……


「おいユウヤ、なにぼーっとしてやが……」


「――いやぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!」


 ふいに大きな悲鳴が響きわたり、ユウヤは肩を竦ませる。


「…………っ!」


 休憩中とはいえ、ユウヤもユージェスもBランク冒険者。

 咄嗟に目を合わせると、二人同時に駆け出した。ユージェスは酒のせいでやや動きが鈍くなっていたが――まあ、さすがに仕方あるまい。


「な……なんだ、これはっ……!」


 そして居酒屋を出たとき、まるで信じられない光景が目の前に広がっていた。


 どういうわけだか、顔なじみの冒険者たちがいっせいに暴れまわっているのだ。


 住民たちに襲いかかったり、建造物を破壊していたり……その行動は多岐にわたるが、彼らに共通していることはひとつ。


「まさか……影石か……?」


 そう。

 あの理性を失っている様子、かつて剣を交えたアルセウス救済党とも一致する。おまけに漆黒のオーラが全員に漂っているし、《影石》の特徴とぴたり合致しているのだ。


「な、なんだよこれ⁉ どうなってやがる⁉」


「異世界人の仕業だよ。……そうとしか考えられない」


「異世界人⁉ おいおい、わけわかんねえじゃねえかよ!」


 そう。

 訳が分からない。


 だが、それほど未知なる相手と戦っているのが――彼アリオス・マクバなのだ。

 だったら……こちらはこちらで、命をかけるしかない……!


「いやぁぁぁあああ! 助けて、誰かっっっ!」


「な……⁉」


 そのときユージェスが浮かべた表情は、ユウヤにとって生涯忘れられないものとなった。


 そう――

 いま悲鳴をあげた女性は、ユージェスの妹だったから……

 その妹は、数人のAランク冒険者たちに包囲されてしまっていたから。


「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおっ‼」


 ユージェスは絶叫をあげ、妹に向けて駆け出した。



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