表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

160/188

事件の裏側で②

 第一王子レイファー・フォ・アルセウス。

 レイの兄にして、次期国王として最も有力だった人物である。


 知略は言わずもがな、スキル《叡智》によって師団長並みの戦闘力を持つ。

 それのみならず、誠実な人物として評判はかなり高かったのだが――


 その正体は……テロの首謀者。


 みずからの信念をもとに、アルセウス救済党と結託し、テロを企てた張本人である。


「レ、レイファー殿下っ……!」


 ゲーガはなおも目を見開いていた。


 再会がよほど嬉しいのだろう。

 両手両足を拘束されながらも、ジタバタともがいている。


「レイファー殿下、お待ちしておりました! さ、さあ、早くアジトに戻りましょうぞ! またともに、アルセウス王国を良き未来へと導こうではありませんか!」


「…………」


 しかしレイファーは浮かない顔つきでゲーガを見下ろすままだ。かつてテロを首謀した人間とは思えない、物憂げな表情を浮かべている。


「……兄様」


「ええ。わかっていますよ、レイミラ王女殿下・・・・・・・・


 レイの問いかけに、レイファーは短く頷くのみだ。


 ――そう。

 かつての同胞として、アルセウス救済党を宥められるのは彼しかいない。


 そう判断し、レイがここに呼び寄せたのである。


 もちろん、念のため、レイファーの両腕にも魔力制御のリングが嵌めてある。

 血の繋がった兄にこんな措置を取るなんて、レイも心が痛んでしまうけれど――


 それでも、この役目を頼めるのはレイファーしかいなかった。


 党首マヌーザでもいいのだが、彼はダドリーとの戦闘時に両足を負傷している。そういう意味でも、この場はレイファーが適任だった。


「ど、どうしたのですかレイファー殿下! 王国再建のときを目指して、我らの正義を全国民に……」


 なおも騒ぎ立てるゲーガに。


 レイファーはあくまで静かに告げた。


「ゲーガ君。きみはたしか、古株の党員だったよね? アルセウス救済党の前身である《王国を救う会》……その当初からいたと聞いている」


「ええ! もちろんです! 当時から私の闘志はなくなっておりません!」


「そうだね。私もそう思うよ」

 レイファーはそこで一拍置くと、改めてゲーガに問いかけた。

「当時の《王国を救う会》は、普通の活動団体だった。デモや講演会の数々……私は、頼もしさを感じていたよ。漫然と生きようとする若者のなかに、しっかりと力強く生きようとする者もいるのだ、と」


「レ、レイファー殿下……」


「……それが、14年前だったかな。王国を想う心が暴発し――同団体は《アルセウス救済党》になった。今まではデモ活動だけに留めていた活動に……暴力が伴うこととなった」


「…………」


「わかっているだろう、ゲーガ君。私たちは……」


「レイファー殿下……っ!」

 そこでゲーガが吠え立てた。

「影石がどうあろうと、我らを背後で操った人間がいようと……関係ありません! 我らの正義は、マヌーザ様とレイファー殿下の元にあります! だから、だから……!」


「ゲーガ……」


「く、くぅぅぅぅぅぅううう……!」


 自分でも無茶を言っているのがわかってるんだろう。

 ゲーガはそのまま滂沱ぼうだの涙を流し、うつむいた。


 ――そう。


 アルセウス救済党の前身は《王国を救う会》。

 勢力的な若者が集う一方で、暴力的な行動は絶対取らなかったと聞いている。


 それが豹変したのが、14年前。

 レイもなにか怪しいと踏んでいたが……やはり影石や異世界人の仕業だったか。


 亡きフォムスの変わりっぷりを見ても、影石の影響は計り知れない。


「ゲーガ。私がこんなことを言う立場ではないことは重々承知している。だが――改めて言わせてほしい」


 レイファーは暗い表情ながらも、決意を称えた表情でゲーガを見据えた。


「――解散だ。アルセウス救済党は、本日をもって解散。党首のマヌーザも、それを望んでいることだろう」


「あ…………!」

 いっぱいに目を見開くゲーガ。

「レイファー殿下……。我らの正義は、我らの半生は…………!」


「すまない、ゲーガ。わかってくれ……


「く……。う、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ……!」


 ゲーガは上半身を丸め、絶叫をあげるのだった。


  ★


 数分後。


 ゲーガとの対面を終えた後、レイファーは静かにその場を後にした。

 もちろん、両端には兵士がついている。

 両の腕をしっかり固定され、弱々しく歩くさまはなんとも痛ましかった。


 ――そんな兄に、レイは話しかけずにいられなかった。


「お兄様!」


 その声に、レイファーはぴたりと足を止めた。

 気を遣ってくれたのか、左右の兵士も同じく立ち止まる。


レイミラ・・・・。私は嬉しく思うよ。君はしっかりやってくれている。私が玉座に座らなくとも――君さえいれば、王国は安泰だろう」


「お兄様……私は、いまでもあなたをお慕いしております。ですからまた、いつか……ともに王国を導いてまいりましょう」


 レイはまだ忘れていない。


 幼き頃、レイファーとともに遊んだ日々を。

 誠実で優しさに溢れた兄の本質を。


 そういったところが、まさしく異世界人に狙われる一因になったのだろうが……


 それでも、兄との思い出はレイにずっと残っている。


「はは……。まさかまだ、そのように言ってくれるとはね……」

 レイファーは力なく笑うと、さっと身を翻した。

「私は……自分の罪を償うよ。生きているうちに償いきれるかはわからないけれど……少しでも、王国が前を向いていけるように」


「レイファー兄様……」


「はは……私はもう、君に兄と言われる立場でもないんだがね……」


 レイファーの両目がそこで揺れた。

 彼にも思うところがあるんだろう。


「それでは……レイミラ王女殿下・・・・・・・・。私は、これで失礼いたします」


 レイファーは深く礼をすると、両の兵士に連れられ、その場を後にするのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


▼【※超速報※】 「コミカライズ一巻」が【 2022年9月30日 】に発売されます! 下記の画像クリックで書報ページに飛べますので、ぜひ今のうちに予約してくださいますと幸いです!▼ 明日9/30、チートコード操作のコミカライズ一巻が発売します! 超面白い内容となっていますので、ぜひお手に取りくださいませれ(ノシ 'ω')ノシ バンバン ↓下の画像クリックで商品紹介ページに飛べます! i000000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ