おい、久々に話した気がするぞ
チートコード操作の2巻発売日まであと2日……
【7月30】に発売されます!
いつの間にか夜も更けていた。
濃密な霧に包まれているせいか、町全体がなんとも面妖な雰囲気を放っている。
だが、だからといって不気味というわけでもなく――
波が穏やかに押し寄せる音や、虫がリンリンと鳴いている声など、これはこれで趣のある風景だった。
空中に漂う潮の香りが、なんとも港町らしさを思わせる。
「いい気分だな……」
ずっと王都で過ごしてきた僕としては、実に心洗われる場所だった。
自然に身を任せるだけで心身の汚れが取れていくかのような――そんな気さえする。
――夜7時。
旧校舎の探索を終えた僕たちは、一時解散することにした。
今日はほんとに色々あったからな。
各自できるだけ身体を休ませておき、夜8時に宿に集合する手筈になっている。
剣士Fのもたらした情報や、ヴァルガンド帝国のことなど……現在の状況を整理する予定だな。
それまでの時間……僕はひとりで町を歩いている。
アンもなぜか同行したがっていたが、丁重に断っておいた。
なぜならば……
「さて、と……。これでいいのかな」
僕は懐から魔道具を取り出すと、それをまじまじと眺める。
――携帯型の通信機器。
スティック状の宝石で、ほのかなエメラルド色に輝いている。
これに魔力を込めることで、魔法による波長を飛ばし……遠方にいる者との会話を可能にする魔道具だ。
かつて凄腕の魔道具師レミラも似たような物を使っていたが、あれの小型版みたいなものだな。準元帥に就任するにあたり、国王から授かったものだ。
声も途切れ途切れだし、長い時間は使えないのだが……
これを用いれば、たとえ王都にいる者とさえ、通話が可能になる。
「…………」
僕は静かに目を閉じ、ゆっくりと通信機器に魔力を込める。
その瞬間、通信機器がより強いエメラルドの光を放ち――
『アリオス⁉ アリオスなの⁉』
通信機器から、なんとも懐かしい声が響いてきた。
「はは……驚いたな。まさか本当に王都にまで通信できるなんて」
僕は頬を掻きながら、深い感慨とともに彼女の名を呼んだ。
「久しぶりだな――レイ。元気にしてたか?」
『元気なわけないじゃん! だってアリオスがいないんだよ⁉』
……うん。
変わっていない。本当に変わっていない。
王太女レイミラ・リィ・アルセウス――
僕の幼馴染にして、次期の女王になる予定の女性である。
「……仕方ないだろ。おまえはもう王太女なんだし……危険なことはさせられない。仕事もいっぱいあるんだろ?」
『むー。わかってる。わかってるけど……』
公務中は毅然たる態度を貫いているレイは、このときだけは甘い声を発していた。
『やっぱり身体によくないよ。アリオスのいない生活は』
「なに言っとるんだおまえは……」
『べーだ』
通信機越しでも舌を突き出しているのだろうか。やや雑音の入り混じった声だった。
『……でも、ありがとうアリオス。通話するの、忘れないでいてくれたんだね』
「当たり前だろ。離れ離れでも、僕はレイの専属騎士。その気持ちは、いまもずっと持ってるからな」
一瞬だけ、レイが息を呑む気配がした。
『もう……そういうの反則だってば……』
「ん? なにか変なこと言ったか?」
『なんでもありませんっ!』
なんで怒ってるのか、それがわからない。
その後も僕たちは他愛のない会話を繰り広げた。
レイの公務のことや、今日の出来事などなど……
どれも雑談の範疇に収まるものだったが、その時間が僕には非常に楽しく感じられた。
さっきまで異世界人と戦っていたわけだし――こういう時間が、なによりの癒しなのだ。
そして――
『そうだ。アリオスに、ひとつ伝えたいことがあって』
「ん? なんだ?」
『アルセウス救済党なんだけど……王都の近くで、残党がクーデターを起こそうとしてたみたい』
「クーデター……!? だ、大丈夫だったのか?」
『うん。エムちゃんとユウヤさんが先に制圧してくれたから、なにもなかったんだけど……変なこと言ってるみたいでね……』
そこでレイは数秒だけ間を開けると、続けて言った。
『自分たちの救済活動は終わっていない、まだまだ自分には使命がある――とかなんとか』
「ふむ……」
アルド家やアウト・アヴニールを制圧したことで、構成員のほとんどは無力化したはず。
しかし前述のように、アルセウス救済党のアジトは世界各地に散らばっているからな。
捕まえきれなかった残党がいるのも頷けるが――
しかし、この後に及んでも《救済活動》を続けているとは……
「レイ。党首のマヌーザは、いまも牢獄にいるんだよな?」
『うん。しっかり見張りをつけてるんだけど、残党はどうしてもマヌーザを解放したいみたい。……あと、レイファー兄様も』
「…………」
『だからアリオスも気をつけて。どこに残党が潜んでるかわからないから』
「ああ……わかった」
剣士Fに帝国に残党か。
かなりややこしい状況だが、落ち着いていかないとな。
幸いにして、いまの僕は準元帥。
軍を動かせる立場にあるのだから。
「ありがとうレイ。僕のほうでも気をつけておくよ」
『うん。絶対の絶対に、無理だけはしないでね』
「はは……わかってるさ。レイのほうこそ、無理しないでたまには休んでくれよ?」
『うん……!』
数秒の間。
生温かな風が、優しく通り抜けていった。
「じゃあ、レイ。いったん切るぞ。また話そう」
『うん。待ってるからね……!』
「ああ」
そこまで言って、僕は魔力の発動を止め――
そして通信機器の輝きが薄れたときには、レイの声は聞こえなくなっていた。
「…………」
この切なる想いは――彼女だけじゃない。
僕も同じだ。
だけど、それにかまけている場合じゃない。
僕には、僕にしかできない使命があるのだから。
僕は両頬をはたき、気合を込めると、宿に歩みを進めていくのだった。
【2巻の発売まで、あと3日!】
当作品につきまして、第2巻が【7月30日】に発売されます!
web版の物語がさらに面白く伝わるよう、演出や展開が大幅に改善されています!
自分でも嫌になるくらい、何度も何度も見直したので、クオリティは高いはず(ノシ 'ω')ノシ バンバン
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ぜひ今から予約してくださいますと幸いです!
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