おい、もう勘弁願いたいんだが
後書きに重要なお知らせがあります!
「いくぞ!」
剣士Fは気合のこもった大声を張り上げるや、猛スピードで距離を詰めてきた。
速い……!
さすがにジャイアントオークなどとは格が違うな。
だが、関係ない。
「おおおおおおおおっ!」
僕も大声とともに剣を振り払い、奴の刀身を受け止める。たったそれだけの動作で、剣を振るった空間に漆黒の軌跡が舞う。
ガキン! と。
僕と剣士Fの剣が激突した。
「ん……?」
その瞬間、僕は思わず目を見開く。
なんだこの違和感は。なにかがおかしいぞ……?
「ほう。私の剣を受け止めるとはな。やはりここまで来ただけはある」
「そりゃどうも……!」
言いながら僕は《裏チートコード操作》を起動する。
――――
使用可能な裏チートコード一覧
・魔眼
・破壊
・殲滅
――――
実はさっきからレイルホールに《殲滅》を試しているのだが、これが効果を発揮しない。
おそらく《異世界人》や《異魔獣》には通用しないのかもしれないな。
元々は異世界人の能力であるだけに、それも仕方ない。
だが――
この《異世界人化》によって手に入れたのは、《裏チートコード操作》だけではない。
「淵源流……三の型、裏・冥府の無限閃!」
「なに……⁉」
剣士Fが目を見開いている間に、僕は瞬時に奴の背後に回り込んだ。
そのまま超高速で剣を振り続け、容赦のない攻撃を浴びせていく。
通常の《冥府の無限閃》は相手の背中に5連撃を叩き込む技だ。
それもそれで高威力ではあるのだが、《裏・冥府の無限閃》においてはその四倍――合計で20回もの連撃を浴びせることができる。
まさに無慈悲にして強力。
《異世界人化》することで、僕の淵源流もひとつの境地に達するらしい。
強すぎるがゆえに、あまり常用はできないけどな。
「くおっ……!」
ちょうど20連撃を終えたところで、剣士Fは大きく吹き飛ばされていった。
いかにあいつが強者といえど、これには耐えきれなかったようだな。
「ふう……」
僕は大きく息を吐き、剣士Fの飛んでいった方向を見やる。
たしかに手応えはあった。
だがおそらく――効いていない。
「フフ……やるな」
そしてその見立て通り、剣士Fは何事もなかったかのように立ち上がった。
驚くべきことに、傷ひとつ負っていない。
「なるほどな……やはり、ただものじゃないか」
「ふふ。まあ、そういうことだ」
かつてフォムス・スダノールも、影石によって《万物反射》という異能を手に入れていた。
剣士Fも反射こそしてこないが、それと似た能力を持っている可能性がある。
やはり、いままでの敵とは格が違うか――
僕は落ち着いて深呼吸をすると、再び戦闘の構えを取る。
「ほお……」
そんな僕に対し、剣士Fはなにを思ったのか、感嘆な声をあげた。
「……この事態にも動じぬか。私が怖くないのかな」
「…………」
僕は構えを解かぬまま――幼き頃の記憶を引き出しながら言った。
「まあ、これでも昔から鍛えられてるからな。剣を持たば雑念は捨てよ――昔、よくそう教わったよ」
これは元剣聖リオン・マクバの教えではあるけれど。
それでも、あいつの心構えはいまでも僕の心に根付いている。
あいつのことは好きになれないが、ここは感謝する点のひとつだな。
「フフ……なるほどな、そういうことか」
剣士Fは謎の含み笑いを浮かべると、なんと剣を鞘に収めるではないか。
「よかろう。私の負けだ、アリオス・マクバ」
「は……?」
なんだ。なにを言ってる。
僕が首を傾げた、その瞬間。
「グォォォォォォォオオオオオオオアアア‼」
異魔獣のレイルホールが醜い悲鳴をあげ、空中に溶けて消えた。
どうやらウィーンたちは決着をつけたらしいな。
アンやカーナも、それぞれ無傷で勝利を収めたようだ。
「アリオス準元帥! ご無事ですか‼」
間髪入れず、カーナが僕の元へ走り寄ってきた。アンやウィーンもそれに続く。
「もう勝ったのか……早いな」
「ええ。私はあまり活躍できませんでしたが、アン殿やウィーン殿がいましたから……」
「そうか。助かるよ」
これで四対一。
形勢逆転……といったところか。
いかに剣士Fが強くとも、この四人相手では敵うまい。
「フフ……。見事だ。三人がかりとはいえレイルホールをも倒し、アリオス・マクバは想像以上の健闘を見せてくれた。《試し》は合格としよう」
「ええい、さっきから訳の分からんことを!」
カーナが警戒心もあらわに戦闘の構えを取る。
「いいから答えろ! 貴様はこの地でなにを企んでいる!」
「ふ、では答えてやろう。約束だからな」
剣士Fはそう言うなり、パチンと指を鳴らした。
その瞬間、奴の周囲に数々の白い靄が出現する。しかもよくよく目を凝らすと、そのすべてに何かしらの景色が映り込んでいるではないか。
「これは……まさか……」
「その通り。アルセウス王国の各地だ」
映り込んでいる風景は、森林だったり洞窟だったり街だったり……どれもバラバラだ。ひとつ共通点があるとすれば、どの景色も漆黒の霊気が漂っていること。
「おまえたちはすでに、この地が異世界人によって浸食されたことを突き止めていると思うが……それはなにもここだけではない。王国の各地で、同様の現象が起きている」
「…………」
「だがすべての始まりは、この地で起きるだろう。アルセウス王国と――ヴァルガンド帝国がともに滅びる日がな」
「なに……?」
ヴァルガンド帝国――ここでその名が出てくるか。
その昔アルセウス王国を統治していた国であり……
オルガントやファルアスの頑張りによって、ヴァルガンド帝国からの独立ができた。
そのヴァルガンド帝国と、異世界人はなんらかの関わりがあるということか……?
もしかしなくとも、この一連の騒動、僕が思っていたよりさらに壮大なものかもしれない。
「もし我々を止めたくば、港町ポージの動静に目を光らせることだ。必ずや気づけるものがあるだろう」
そう言ってから、剣士Fはこちらに背を向けた。
立ち去るつもりらしい。
「っ! 待て! この後に及んで逃がすか!」
カーナが慌てたように走り出す。
間に合わないと思ったのか、懐から短剣を取り出し、それを剣士Fに投げつけるが――
なんと、突如にして剣士Fの身体が薄れ始めるではないか。
かきん、と。
虚しく空を切り裂いた短剣が、壁面に激突する。
「なっ……!」
ぎょっと目を見開くカーナ。
「ど、どこだ⁉ いったいどこにいる!」
「フフ。こちらだ」
再び剣士Fの声が聞こえてきたのは、なんと僕らの背後から。
しかも驚くべきことに、またも空中に浮いている。
「ふう……すごいな、あんたは」
僕は苦笑を浮かべつつ、剣士Fを見上げて言う。
「攻撃が全然効かないし、空中に飛んでるし……異世界人ってのは、みんなあんたみたいに強いのか?」
「……まあな。この世界の住人ではそもそも想像すらできまい」
「やれやれ。勘弁願いたいもんだ……」
かの同志Aも、一瞬にして国王を赤ん坊に変えていたからな。
もはや常軌を逸していると言う他ない。
「だがアリオス・マクバよ。貴様の強さも同じく規格外だった。おそらく、私では敵うまい」
「……どうだかな。あんた、さっきも本気を出してなかっただろう」
「フフ……それはお互い様というもの」
言いながら、剣士Fは右手を天に掲げた。
「貴様であれば、我々でさえ止めることが可能やもしれぬな。――では、さらばだ」
そう言うなり、剣士Fの姿は空中に溶けて消えた。
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