おい、全然よくわからないんだが
「橋を壊した……。そうか、あんたが……」
不審人物の発言に、僕は大きく息を吐いた。
港町ポージまでの道すがら、ちょっとしたアクシデントがあったんだよな。
近くの橋が真っ二つに切断されていたせいで、馬車で通ることができなかったんだ。
あのときは《原理破壊》の《転移》で切り抜けることができたが――
その能力がなかったら、ちょっとだけ面倒になるところだった。
「不穏な予感はしたが……あんたが橋を壊したんだな……!」
「フフ。そういうことになるな」
「目的はなんだ。あんたはこの地で――なにを企んでいる⁉」
「…………」
そこでふいに黙りこくる不審人物。
「……そうだな。一種の《試練》とでも言おうか」
「《試練》だって……?」
「そう。この世は間もなく激動の時代を迎える。おまえたちがその時代を生き抜くに耐える人物かを――見定めさせてもらった」
「わ、訳がわからんぞ‼」
そう大声を張り上げたのはカーナだった。
「その《試練》ってやつのために、おまえはここら近辺をうろついてたのか⁉ おかげで町の住民も怯えているぞ!」
「フフ。そう怒ることはなかろう。今後、この世界はさらなる騒乱に包まれる。|その事実は確定している(・・・・・・・・・・・)」
「……はぁ」
思わずため息をつく僕。
さっきから意味深なことばかり言っているが、結局のところよくわからない。
《試練》とはなんなのか、激動の時代とはどういうことか……
詳しいことが全然わからないのだ。
ひとつわかることがあるとすれば――あの男は同志Aと似ているということくらいか。
仮面で声を加工しているところや、悪意をまったく感じないところまで……
こうして対峙してもなお、男からは微塵も敵意を感じない。
本当に、なにからなにまで謎の男である。
「で、結局どうなんだ?」
僕は油断を解かないまま、不審人物に問いかける。
「あんたは《試練》のために橋を壊したらしいが……僕らはその《試練》に合格したってことでいいのか?」
「ふむ。そうだな」
なんだろう。
兜のせいで表情が全然読み取れないのだが、不審人物が一瞬だけ笑ったような。
そんな気がした。
「橋を破壊しても物ともせず、そして異魔獣にも負けぬ実力者。ちょうど――最後の試練をしようと思っていたところだ」
「はは……最後の試練ね」
僕は剣の柄を握りつつ、苦笑いとともに問いかけた。
「……わかりきってることだが、教えてもらおうか? その試練の内容を」
「フ。決まっておろう!」
不審人物はそこで指をパチンと鳴らすと。
突如、奴の周囲に二体の魔物がどこからともなく出現した。
――いや。魔物ではなく異魔獣だろうか。
両手両足のない奇妙な姿形をしており、一口で言うなら巨大なナメクジといったところか。ただ顔面のほとんどが巨大な口腔で占められており、率直に申し上げてめちゃくちゃ不気味だ。
おそらく、またしても異魔獣だろう。
あんな魔物、見たことも聞いたこともないからな。
「き、きゃああああああああああっ!」
たまらなかったのか、思わずといった様子でアンが叫ぶ。
「なにあれ⁉ すっごい不気味なんですけど‼」
「注意シテクダサイ。アノ異魔獣ハ《レイルホール》――自分ヨリ大キイ敵デモ丸ゴト呑ミ込ンデシマウ強敵デス。ジャイアントオークナド、軽ク呑ミ込ンデシマウデショウ」
言いながら、ウィーンは戦闘モード2に変身する。
さっきの異魔獣は通常モードのまま戦っていたが、今度の敵はそうはいかない……ということか。
「ウィーン。いけるか?」
「エエ。チョイト厄介デスガ、アン殿、カーナ殿モイマスシ、ナントカナルデショウ。アリオス様ハ、アイツヲ……」
「ああ……任せてくれ」
そう言いながら、僕は改めて不審人物と向き直る。
「さあ……洗いざらい話してもらうぞ! あんたの知ってることをな!」
異魔獣を出現させた以上、あいつが異世界人となんらかの関わりを持っている可能性は高い。全部聞き出すのは無理でも、一部の情報さえ引き出せば……!
「フフ。いいだろう、アリオス・マクバ。我が《試練》を乗り越えた暁には、可能な範囲で教えてやろう。おまえの知りたがっている情報をな……!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……! と。
奴が剣を抜き、そしてその切っ先を僕に向けた途端……旧校舎全体が大きく揺れだした。
「我が名は《無名の剣士F》。いざ……尋常に勝負!」
「…………っ!」
思わず歯噛みをする僕。
あいつは……強い。
ひょっとしたら同志Aともいい勝負なんじゃなかろうか。
「いいだろう……! だったら僕も油断はしない!」
スキル発動。《原理破壊》。
使う能力は――先ほどジャイアントオークどもを蹴散らした《異世界人化》。
途端、身体の底から信じられないほどの力がたぎってくる。
僕の周囲をドス黒いオーラが包み込む。
「グァァァァァァァァ……!」
自分でも恐ろしいとわかる雄叫びを発したあと、僕は改めて剣士Fに向き直った。
「いくぞ……剣士F!」
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