おい、めちゃくちゃ当たってるんだが
探索の最中も、異魔獣は定期的に現れた。
影石と同様、どこからともなく急に出没するんだよな。
どの個体も、あのジャイアントオークをはるかに凌駕する実力を有していたが……それでも、僕やウィーンにはさすすべなく倒れていった。
そもそもが攻撃力を8倍にしてるわけだからな。
いくら強敵とはいえ、大ダメージは免れないだろう。
「なんか……すごい不気味……」
アンが嫌そうな表情でそう呟いた。
依然として、僕と腕を絡めたままだ。
「おいアン。くっついていいとは言ったが、くっつきすぎだ」
「だって。怖いんですもん」
僕の腕をぎゅっと抱きながら、身を寄せてくるアン。
柔らかいものがずっしりと当たっているのは、わざとなのか、もしくは本当に怖いのか。
真意はわかりかねるが、カーナがすごく羨ましそうにこちらを見ていた。
ウィーンにいたっては「フフ」と笑っている始末である。
「イタイッ」
僕はそんな古代兵器にチョップをかましてやると、改めてアンを見下ろした。
「怖いのはわかるが……おまえだって凄腕の剣士なんだぞ? そんなに臆することはないと思うが」
「わかってます。でも、なんかこの空気に触れるだけで……すごく嫌な気持ちになるというか……」
「…………」
そうか。
アンは普通の人間に見えるが、その実態は人造人間。
そして現在、ホムンクルスが生み出された原因はわからないまま。
アルセウス救済党がホムンクルスを生み出したのは間違いないが、そのアルセウス救済党でさえ、異世界人に意識を操作されていたわけだからな。
この場所に本能的な恐怖を感じるのも、もしかしたら関係しているのかもしれない。
「だから……ごめんなさい。いけないのはわかってますけど、もう少しこのままにしてもらえたら嬉しいです」
「ああ……。わかった」
僕は静かに頷くのだった。
それから何分経っただろう。
いままで一本道の通路が続いていたのが、急に開けた場所に出た。
円形状の大広間のようだな。
壁面には等間隔で蝋燭があるものの、それでもどこか薄暗い。中央に仰々しい祭壇があり、その壇上には見覚えのあるものが置かれていた。
「影石……。ヤハリアリマシタカ……」
そう。
祭壇の上に置かれているものは、見るも巨大な影石。
かつてアウト・アヴニールの最奥部にも大きな影石があったが、サイズ感はそれに似ているな。
通常の影石は片手で収まるサイズだが、いま目の前にある影石は、腰の高さにまで迫る。
「こんなところに影石があったとは……もう確定だな」
僕はぼそりとそう呟いた。
ポージ旧校舎を取り巻く一連の事件は、影石が関与していた可能性が高い。
そう見ていいだろう。
「そ……そんな」
僕に腕を絡ませたまま、アンがこちらを見上げる。
「アリオス準元帥。そしたら……その異世界人っていうのは、10年も前から動きまわってたってことですか……?」
「ああ……。そうなるな」
二千年前にファルアスたちが異世界人を封印してくれたそうだが、それでも同志Aを始めとする一部の敵は暗躍していた。おそらくだが、長い時を経て徐々に封印が解け始めていたんだろうな。
「アリオス様。サッソク影石ヲ破壊シテシマイマショウ。前ニモ言イマシタガ、私ハソノ石ガ好キデハアリマセン」
「ああ……。だが、その前に」
僕はゆっくり振り返ると、鋭い視線を背後に向けた。
「いい加減、出てきたらどうなんだ? コソコソ動きまわられると、こっちも気配をたどるのに苦労するんだが」
「へ……」
カーナが目を丸くした、その瞬間。
「フフ……」
僕らのはるか頭上で、見るからに怪しい人物が宙に浮かんでいた。
白い兜に白い鎧。
カーナから教えてもらった《不審人物》にぴたり該当する格好だった。
「うそ……浮いてる……?」
アンがぽつりとそう呟いた。
「あ、あいつは……ッ!」
一方のカーナは警戒心もあらわに剣を抜くと、その切っ先を不審人物に向けた。
「貴様、いったい港町でなにをしている! 貴様のせいで、住民はみな不安がっているぞ!」
「クク。まあそう怒るでない」
なんと。
あいつも同志Aと同じく、あの兜に細工を入れているようだな。
不審人物の声は、人のものとは思えない、なんとも低く不気味なものだった。
「アリオス・マクバ。……いや、もう準元帥と呼んだほうがいいか」
不審人物はゆっくり地上に降り立つと、妙に落ち着き払った様子で言った。
「驚いたよ。まさか私の気配にさえ気づくとは。人間には決して気づけないはずなんだが」
「当タリ前デショウ。アリオス様ハ人間ジャアリマセン」
「ほう……そういう君は女神の作り出した機械人形か。……なるほど、会えて光栄だよ」
不審人物は肩を竦めてそう言うと、再び僕に顔を向けた。
「それにしても、困ったものだな。せっかく橋を壊しておいたにも関わらず……わざわざここまでやってくるとは」
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