おい、やっぱり一筋縄ではいかないぞ
思った通り、ジャイアントオークは定期的に沸き続けた。
いきなり黒い靄が発生したと思ったら、そこからジャイアントオークが現れるのである。
まさに不可解極まりない、謎の現象だ。
「せあっ!」
「グガァァァァァァァァァア!」
といっても発生するのは一匹ずつなので、そんなに苦労しない。
沸き次第、倒してしまえばいいだけだ。
「……さてと、こんなもんか」
いまも僕の一閃によって、ジャイアントオークが白目を剝いて倒れるところだった。
さすがに何体も相手にするのは骨が折れるが、たった一匹だけであればそんなに苦労しない。
「さも当然のように倒してますけど、ジャイアントオークは指定Aの魔物ですよね?」
道中、カーナがアンにそう耳打ちする一幕があった。
「ええ。私もそう記憶していますわ」
「なのに、なんで準元帥は一撃で倒してるんですか?」
「それはもちろん、アリオス様だからですわ♪」
「……なるほど。あのお年で準元帥になられるわけだ」
会話内容が丸聞こえだったが、放っておく。
本当は修行の一環でアンにも戦ってもらいたいんだけどな。事態がひっ迫している現在、その余裕はない。
「ウィーン。どうだ?」
「ソウデスネ。ココカラ妙ナ気配ヲ感ジマス」
そう言ってウィーンの鉄棒が指し示したのは、壁面の一角。
一見するとなんの変哲もない壁に見えるが、この奥から妙な気配を感じるという。
「ふむ……。この奥に大元の影石があるってことか」
「マダワカリマセンガ……可能性ハアルデショウネ」
この校舎のどこかに、事件の元凶となる影石がある――
それが、僕とウィーンの見立てだった。
過去の謎めいた事件といい、今回のジャイアントオーク大量出現といい……
一連の出来事が、影石によって引き起こされた可能性が高い。
ウィーンもそう言っていたし、僕も異論はない。
「さて、すまないが三人とも下がってくれないか。いまからこの壁を壊してみる」
かつてレイファーの私室からアウト・アヴニールに繋がったように。
この壁にも、似たような仕掛けが施されている可能性があるわけだ。
「せいっ!」
かけ声とともに剣を振り払うと、破砕音とともに壁の一部分が崩壊した。
「む…………」
その際、若干の抵抗感も感じた。
かつてのアルセウス救済党のアジトと同様、防御魔法が敷かれていたようだな。
……まあ、関係ない。
《チートコード操作》の攻撃力アップ(小)があれば、たいていの防御魔法は突破できる。
そして……
「やはりか……」
予想通りというべきか、壁面の向こう側には未知の世界が広がっていた。
どうやら牢獄のようだな。
遠くに見えるのは――まさか頭蓋骨だろうか。あれだけじゃなく、随所に骸骨のようなものが散らばっている。
だが、それ以上のことはわからない。
明かりそのものが存在しないため、あまりよく観察できないのだ。
「カーナ。こんな場所……知ってるか?」
「いえ……。長くポージを担当していますが……こんな場所は聞いたことがありません……」
「そうか……」
学校になぜ牢獄が存在するのか……現時点では、なにもわからない。
だが、ここが怪しいことは間違いないだろう。
奥から感じる尋常でない気配は、あのアウト・アヴニールにも似ている。
「ア、アリオス準元帥……これは……」
さすがに怖くなったのだろう。
アンが僕の片腕にしがみついた。
「ああ……僕のそばから離れないでくれ」
本来ならば上官として叱るべきところだろう。
だが、なにが潜んでいるかわからない以上、彼女には僕から離れないでほしい。
「しかし……まいりましたな。こうも真っ暗では、探索のしようがありません」
「いや、問題ないだろう」
そう言うと、僕はスキル《チートコード操作》を発動する。
使う能力は、火属性魔法の全使用。
「それっ……と」
僕が右手をかざすと、小さな火球が浮かび上がった。
「ナルホド……《ファイアーボール》ヲ浮カビ続ケルコトデ、視界ヲ確保スルワケデスネ。……デアレバ、私モオ手伝イシマショウ」
そう言うなり、ウィーンの両目から眩い光が放たれた。
「わわっ……!」
アンが大きく目を見開いた。
「ウィーンちゃんすごい、そんなこともできるのね……!」
「フフ、私ニデキナイコトハナイノデス!!」
誇らしげに笑うウィーン。
すこし調子に乗っている感は否めないが、ウィーンのおかげで視界を確保することはできた。
やはり牢獄のようだな。
思ったより通路の横幅は広いようだが……どこからどう見ても不気味である。
「…………っ!」
刹那、僕は表情を引き締め、咄嗟に戦闘の構えを取った。
「来るぞ! みんな警戒態勢っ!!」
「え……」
アンが目を見開いた、その瞬間。
僕たちの目の前に、音もなく魔物が出現した。
いや――魔物というには不気味だ。
全身が影のように揺らめいており、人間のように両手と両足がある。両目の部分には赤い縦線が刻み込まれ、右手には大きな鎌が握られている。
しかも一体だけではないようだな。
奥からさらにもう一体現れ、合計で二体の影が僕たちに立ちふさがっている。
「なんだこいつら……! こんな奴ら、見たことないぞ……!?」
カーナも顔面蒼白で剣を抜く。
「……オソラク、異世界カラ解キ放タレタ異魔獣デショウ。カノ《ヴァニタスロア》ト同ジク、現代ノ《指定ランク》ニハ収マラナイ実力ガアルハズデス」
そう言うのは古代兵器のウィーン。
さすが、かつて女神と一緒に戦っていただけに詳しいな。
「そんなのがここから現れるとはな……」
――これはますますきな臭い。
この事件、やはり一筋縄ではいかなそうだな……!
そんな思索を巡らせながら、僕は敵の攻撃に備えるのだった。
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拝啓、僕を殺したあなたへ。 〜高校生にタイムスリップした三十路の派遣社員は、もう二度と幼馴染を死なせたくない〜
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