おい、謎が深まっていくぞ
ダリアは素直に町まで戻ってくれたようだ。
再び戻ってくる気配はない。
「ふぅ……」
思わず大きなため息をついてしまう僕。
ジャイアントオークは殲滅され、いまのところ静寂を取り戻した。
ひとまずの落着はしたが、まだ終わったわけではないんだよな。
黒い瘴気はまだ消えてないし、放っておけばまたジャイアントオークが湧き出す可能性がある。《不審者》のこともわかってないしな。
――けど。
これまでの戦いで、新たに導き出されたこともあった。
「アリオス準元帥……!!」
ふいに名前を呼ばれ、僕は背後を振り返る。
と――
「わわっ!」
アンに思い切りダイブされ、僕は思わず目を変な声をあげてしまった。
「アン……! いきなりなにを……」
「大丈夫ですか? お怪我はありませんか? どこも痛みませんか?」
「大丈夫さ。どこも怪我してない」
「本当ですか? よかった……」
自分だって怖かっただろうに、真っ先に僕のことを心配するなんて……
改めて、僕は部下に恵まれていると思う。
……大きな二つの膨らみが当たっているのは気のせいということにしておこう。
「しかし、いまのはもう死ぬかと思いましたよ……」
そう言うのは第三師団のカーナ。
「ジャイアントオークすら一瞬で全滅させるなんて……アリオス準元帥、お見それいたしました」
「いやいや。とんでもないさ」
異世界人化に、裏チートコード操作。
かなり強力だったゆえ、使いどころには気をつける必要があるだろう。
特に《異世界人化》は、使うだけでかなり体力を消耗してしまった。
むやみやたらに使える能力ではなさそうだな。
「フフ……私ハアリオス様ヲ信ジテオリマシタケドネ?」
続けてそう言うのは、古代兵器のウィーン。
戦闘モードを解いたのか、元の可愛らしい姿に戻っている。
「アリオス様ガ、負ケルワケナインデス! ナンタッテ神様ナノデスカラ!」
「またわけのわからんことを……」
本当、こいつは相変わらずだな。
いるだけで場を和ませてしまう。
と。そんな話をしたいのではない。
僕は改めてウィーンに向き直ると、ずっと気になっていたことを訊ねた。
「ウィーン。この瘴気は、もしかして……」
「……エエ。オ察シノ通リ、《影石》ニヨルモノデショウ」
「やはり、か……」
影石には、瞬時にして魔物を出現させる異能がある。
黒い波動みたいなものが発生して……それが魔物を呼び寄せているんだよな。
この瘴気も影石の波動に似ていると思っていたが、やはりビンゴだったようだ。
そして。
「カーナ。10年前、ここの教師たちは錯乱して自爆を起こしたんだったな?」
「え……? は、はい。私もそう聞いておりますが」
「…………」
黙りこくる僕に、ウィーンだけがその意味を悟ったのだろう。
「ヤハリ、アリオス様モソウ思ワレマスカ?」
と、質問を投げかけてきた。
「ああ。《影石》は使用者に強大な力を与える代わりに……理性を奪っていってしまう。かつてフォムスやレイファーがそうだったようにな」
そしてこの学園でも、10年前に錯乱した教師が自爆を起こした。
その教師がどれほどの実力を有していたのかは不明だが、広大な学園をほとんど破壊し尽くしてしまうほどの威力だったわけだ。
……ここに、妙な符号が発生するのだ。
もちろん、ただの気のせいであればいいんだが……
「…………っ」
ふと僕は妙な気配を感じ、背後を振り返る。
「アリオス様? どうされましたか?」
首をかしげて訊ねてくるカーナ。
「いや……なんでもない」
僕は首を横に振ると、改めて一同を見渡した。
「それより、みんな念のため傷を回復させておいてくれ。この騒動……どうやら一筋縄ではいかなそうだ」




