おい、話がめちゃくちゃでかいぞ
「くっ……」
同志Aが苦々しそうに呻き声を発する。
「まさか私の兜を叩き割るとはな……。少々、侮りすぎていたか」
パキパキパキ、と。
兜は勢いよく割れていき、少しずつ同志Aの風貌を晒しだしていく。
その欠片がひとつずつ落下していくたび、まず、同志Aが女性であることが判明した。
すらりと長い金髪。
透き通るように白い肌。
そして美しく澄んだ紺碧の瞳。
まさしくレイと瓜二つの出で立ちだった。……年齢に関しては、レイより倍近くはありそうだけどな。
間違いない。
この女性は……!
「お、お母さん……!」
レイの悲痛な叫び声を聞いて、僕の疑念は確信に変わった。
フェミア・ルトラール。
またの名を、フェミア・ラ・アルセウス。
ラスタール村で生まれ育ち、成人後は国王に見初められて王城で過ごした妃。
僕も数回しか会ったことないが、レイの護衛候補として、フェミアのことを観察していたつもりだった。
だからこそ――彼女が同志Aであったことに、衝撃を禁じえなかった。
当時のフェミアは、良くも悪くも普通の人。たしかに頭脳面や精神面には感服するところがあったものの、武力においては平凡の域を出ていなかったのに――
「ふぅ。気づかれたからには仕方ありませんね」
兜が割れたことで、同志A――改め、フェミアの口調に変化が生じた。
さっきまで威圧的な言葉遣いだったのが、どこか気品さを感じさせる言動に。
そしてまた、あの兜そのものに声を変容させる効果があったのかもしれないな。
さっきまでの野太い声は見る影もなく、現在は聖女のごとく透き通った声になっている。
「どうしてっ!」
レイの感情がピークに達したらしい。
一歩前に踏み出し、母へ向けて思いの丈をぶつける。
「どうしてお母さんがそこにいるの!? 死んだって思ってたのに……だから強く生きようと思ったのに……!」
「…………」
しかしフェミアはそれには答えず、くるりと身を翻す。
「なに。挨拶だけでもと……思いましてね」
「あ、挨拶……?」
「ええ。レイファー第一王子を傀儡とし、すでに我らは各地に放たれました。世界を乗っ取る前に、せめて立役者たるアリオスたちには挨拶したく思ったのですよ」
「世界を乗っ取る……。お母さん、なに言ってるの!」
「ふふ、なに。じきにわかるでしょう」
そこまで言うと、フェミアは再び指を鳴らす。
瞬間、風景がまたしても変わった。
ここは……王城の晩餐室か。
どうやら元の場所に戻ってきたみたいだな。
「アリオス。私の兜を破れる者は、他の世界にもそういない。自信を持つがいいでしょう」
「他の、世界……」
フェミアの発言はいちいちスケールがでかいな。
正直、理解が全然追いつかないのだけど。
それでも、彼女の言葉には不思議な説得力があった。
リオンやマヌーザたちとは違い、邪悪な気配が一切しないのだ。ただただ、天なる高みから僕たちを見守っているかのような……
そうだな。
今後のためにも、できるだけ情報を集めていくか。
「……いい加減、教えてくれないか。亡くなったはずのあんたが――なぜアルセウス救済党に潜り込んでいたのかを」
「ふふ。あなたの周りにもいるでしょう。数千年の時を経て、現代に干渉している者たちが」
「…………」
「原理はそれと似ていますよ。私の場合では思念体ではありませんがね」
なるほど。
ファルアスたちは《転生術の劣化版》とやらで現世に現れているようだが――それに通じるものがあるってことか。
「それ以上のことは、今後、嫌でもわかってくるでしょう。迫りくる闇と絶望の恐怖に立ち向かえる勇気があるのなら」
「く…………」
「それではアリオス。そしてレイミラ。あなたがたが国の要職に就くからには、我らも手を抜きませんよ。きたるべき時に備え、しっかりと構えておきなさい」
「……はは。よくわからないな。忠告か、ただの脅しなのかよ?」
「さあ。どちらでしょうね」
フェミアは片手を掲げ、うっすらと魔力を発動した。
途端、彼女の身体が少しずつ薄まっていく。と同時に、彼女を新緑色の輝きが包み始めた。
――転移術。
ここはいったん退くつもりか……
「そういえば、アリオス」
姿が消える寸前で、フェミアがぼそりと呟く。
「リオン・マクバはたしかに生きています。きたるべき再会を、楽しみにしていなさい」
「……そりゃどうも」
「ふふ。それでは皆さん、またいつか」
そう言って、同志A――フェミアの姿は完全に消えた。
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