おい、さすがに勝てる気がしないぞ
「は……!?」
国王がぎょっと目を見開く。
「馬鹿な……なぜ……!?」
その視線の先には、いつの間に現れたらしき部外者。
赤色のローブを身にまとい、強固そうな兜でしっかり顔面を覆い隠している。
考えるまでもない。
アルセウス救済党の二番手にして、なぜか僕たちを助け続けてきた張本人。党首たるマヌーザをも圧倒的に凌ぐ、すさまじいまでの風格を持った謎の人物。
――同志A。
「おかしいですね。たしかに魔導具で結界を張っていたはず。……どうやって入ってきたのですか」
「クク。なに、簡単なことさ」
国王の問いかけにも、同志Aはいささかも臆することがない。
「おまえたちの文明など、しょせん、我らの作り上げたものの土台の上に成り立っているに過ぎぬ。破るのは容易なことよ」
「作り上げたものの……土台……?」
なんだ。
またとんでもない言葉が出てきたぞ。
まるでこの世界を、自分たちが作り上げてきたような――そんなニュアンスだった。
「でも……ハッタリじゃなさそうだな」
僕はそっと剣の柄を握りながらも、同志Aの出方を窺う。
こいつだけは得体が知れない。
一瞬の油断さえも許されないだろう。
「ふふ。アリオス・マクバ。この事態においても動じぬとは……本当にたいした者だ」
「…………」
「せっかくだ。見せてやろう。私の力をな」
パチン、と。
同志Aが指を鳴らした途端――信じられないことが起きた。
「おぎゃあ、おぎゃあ……」
「え……」
いきなり聞こえてきたのは――なんと赤ん坊の声。
だがおかしい。
さっきまでここに赤子なんていなかった。いったいなぜ……
そんな思考を巡らせつつ、僕は泣き声の方向を見やる。
「な…………」
そして思いきり目を見開いた。
そこにいたのは紛れもなく赤ん坊だったのだが――代わりに、さっきまでいたはずの国王がいなかった。
そして気のせいだろうか。
床で泣きじゃくる赤ん坊が、心なしか国王に似ているような……
「え……? これって、まさか……!?」
レイも同じ考えに至ったのだろう。青ざめた表情で赤ん坊を見下ろしている。
「クク。気づいたかな。そう、これが私の力の一部だ。対象者の情報そのものを、書き換えることができる」
対象者の情報を書き換える……だって……!?
さすがに常軌を逸している。
まさに理を脱した力という他ない。
「そうか……その力があれば、レイファーやマヌーザの記憶をいじることだって……」
「ご名答。記憶情報の操作など、私にかかれば造作もない」
……これは想像以上の強敵だな。
あの女神やファルアスたちでさえ、封印するだけで精一杯と言っていたが……
その意味が、本当の意味でわかった気がする。
「ふっ」
いまだ警戒を解かぬ僕たちに、同志Aはふと鼻を鳴らす。
「そう怒ることはない。案ぜずとも、その者は元に戻してやるさ」
パチン、と。
同志Aが再び指を鳴らしたときには、さっきまでの泣き声は綺麗さっぱり収まっていた。そしてやはり、そこには見覚えのある国王の姿。
「は……!? わ、私は……」
「お父様!!」
「レ、レイミラ……?」
胸に飛び込むレイを、国王は目を瞬かせながら受け止める。
自分の身になにが起きていたのか……把握しきれていない様子だ。
――強い。
僕はこのとき、自分の身体が震えていることに気づいた。
戦闘力がどうのこうのとか、そういう次元じゃない。
そもそも、戦う前から負けてしまうような。まず剣を交えることすらできない、圧倒的な力を感じてしまった。
これが異世界人。
言うなれば、まったく違う理に生きる者。
その気になれば、指先ひとつでこの世界そのものを消すことだってできるんだろう。
それでも。
「同志A」
僕は自身の怯みをなんとか抑えつけ、なんとか一歩前に進み出る。
「覚えてるか。あんたに記憶をいじくられた――レイファー第一王子のことを」
「む……?」
「あいつの肩を持つつもりはないが……レイファーは間違いなく、アルセウス王国のことが好きだった。自国の未来を自分の手で導いていこうとする、有望な人間だったんだ」
「…………」
「あんたはそれを踏みにじった。レイファーやマヌーザの、国を愛する心を」
「アリオス……」
レイが涙目で呟く。
「――敵わないと思っていても、挑ませてもらう。それが、レイファーへのせめてもの手向けだ……!」
「ほう……」
震える動悸を必死に抑えつけ、僕はひたすら戦闘の構えを取り続ける。
「これは驚いた。私の力を見た上で挑んでくるとは……初めてのことかもしれぬな」
そして改めて僕に向かい合い、前方に右手を突き出した。
たったそれだけの所作で。
なにもなかった空間から禍々しいオーラをまとった剣が出現し、同志Aの手に握られた。まるでこの世の終わりを象徴するかのように、ドス黒いオーラが剣にまとわりついていた。
「よかろう。この世界において、唯一、コードの操作のできる勇者よ。その力、見せてもらおうか!」
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……やはり思った通り、緊急事態宣言と被ってしまいましたね。
ですが仕方ありません。
書籍については、もうぶっ倒れるくらい何度も見直して(実際に倒れました)、内容には絶対の自信があります。
皆さんがめっさ楽しめるように一字一句を何度も見直したので、予約や購入などしていただけると、めちゃくちゃ助かります(ノシ −;ω;)ノシ バンバン
ぜひ、よろしくお願い致します。




