ダドリーの本音3
現在は午後7時。
レイとの誓いを立てた後、若干時間が余ってしまったな。
このまま二人で過ごしてもいいのだが、すこしだけ、僕には気になることがあった。
「アリオス……どうしたの?」
ふいに立ち上がった僕を、レイが不安そうに見上げる。
「いや……ちょっと気になることがあってな」
「ちょっと……」
僕の様子に、レイはその理由まで悟ったのだろうか。
深くは追求せずに、
「うん。わかった」
と頷くに留めてくれた。
本当に察しの良いお姫様だな。ユーフェスが一目置くのもわかる気がする。
「悪い。またすぐに戻るよ」
最後にそれだけ言って、僕は部屋を後にする。
向かう先は屋上庭園。
以前フォムス師団長と戦ったその場所で、目当ての人物がいる。そんな気配がしたのだ。
「はっ……はっ……」
果たして、僕の予想通り、白銀の剣聖――ダドリー・クレイスがそこにいた。
健気なことに、このような状況でも剣の素振りをしているようだな。皆がお疲れムードをあげている最中でも、剣の鍛錬を怠らないとは……彼も変わったものだ。
「……なんの用だ」
そう告げるときも、ダドリーは剣の素振りをやめない。僕に背中を向けたまま、延々と剣を振るい続けている。
「いや。精が出るなと思ってね」
「…………」
そしてようやく、ダドリーは素振りをやめた。相変わらずこちらを振り向かないので、その表情までは読みとれないが。
「アリオス。さっき国王陛下が言ってた提案……受けるのか」
国王陛下の提案。
レイの護衛の件だろう。
「……ああ。受けることにしたよ」
僕はこつこつ歩みだし、庭園の柵に両手を乗せる。大小さまざまな光が、王都アルセウスを華々しく照らしていた。
「……で、おまえはどうするんだ。ダドリー」
「わからねぇ。けど」
ダドリーも同じく、柵に両手を乗せる。まあ、僕とは距離がすこし離れていたけれど。
「アリオス。おまえ、リオンさんのことどう思ってる」
「は……」
予想外の切り返しだった。
やや戸惑ってから、ぼそりと呟く。
「……良くは思ってないさ。あいつは僕を捨てたんだ」
「……ま、そうだよな。無理もねえ。俺だって、ガキの頃に捨てられたことをいまだに憎んでら」
「…………」
「……でもな、俺にとっては、リオンさんは間違いなく親だった。孤児でなんの取り柄もなかった俺を……見込みありと育ててくれたんだ」
「ダドリー……」
「わかってるさ。リオンさんはただ俺の《スキル》に惚れただけ。そこまで深い考えはねえだろうよ。……それでも、教会で俺の力を認めてくれたときな……涙が出るくらい嬉しかったもんさ」
「…………」
それは――わかる気がする。
僕だって、ラスタール村では、レイやカヤ、アルトロ……いろんな人に認められたものだ。
その言葉ひとつひとつが、僕の胸に優しく染み込んでいった。それはいまだによく覚えている。
「だから俺は……リオンさんを探しにいく。同志Aに捕らわれちまったようだけど、なんとか見つけて、俺の剣を見てもらうんだ。こんなに強くなったんだぜ――ってな」
「…………」
僕の沈黙をなんと捉えただろう。
ダドリーはそこで初めて僕の顔を見た。
「……なんだよ。変か?」
「いやいや。そんなことはない。おまえが決めた道さ、とやかく言うつもりはない」
だけど、すこし驚いた。
剣聖リオン・マクバ。
なんと幸せ者だろうか。かつての教え子にここまで思われているとは。
そこまで考えて、僕は急におかしくなった。
「はは……だけど、面白いな」
「な、なんだよ。やっぱり変かよ」
顔を赤らめるダドリー。
「そうじゃないさ。道は違くても、僕たちの目標は同じみたいだな」
「は……」
「だってそうだろ? 僕は王太女の護衛になって、各地に潜む《異世界人》を倒しにいく。同志Aもおそらく奴らの仲間だから……目指す先は同じだ」
「…………」
ふいに黙り込むダドリー。
「はっ、てめぇって奴ぁ……どこまでも気に喰わねえ奴だ」
「まあな。お互い様だ」
「…………」
ダドリーはしばらく目を瞑るや、なにを思ったか、急に剣を僕に向けた。
「アリオス。剣を取れ。勝負だ」
★
屋上庭園。
誰もいないその場所で、僕とダドリーは充分な距離を取って向かい合っていた。
……こうしていると、昔の決闘を思い出すな。
あのときとは、状況がなにもかも違うけれど。
ふと視線を横に向ければ、やはり美しく輝く夜の街。それは静かに、僕たちの門出を祝ってくれているように思えた。
「おい、アリオス」
ふと、かつての仇敵に声をかけられる。
「おめえよ。俺の代わりにレイミラ様を護衛するんだったら……しっかりやれよ。負けんじゃねえぞ」
「…………」
そうか。
リオンさえ失脚しなければ、ダドリーがレイを護衛するはずだったんだもんな。
まあ、元を辿ればそれは僕の役割だったはずなんだが――それでも、彼には思うところがあるんだろう。
「ああ。任せておけ」
僕は決意を込めて言い放つ。
「王太女の護衛としても――マクバ家の末裔としても、レイは必ず守りきってみせる。この命に代えても」
僕のその言葉に。
ダドリーは一瞬だけ目を見開くが、すぐにくぐもった笑いを発した。
「はっ……どうだかな。おまえは《外れスキル》の所持者だ。本当にレイミラ様を守りきれるかどうか……この俺が見極めてやる!」
「ああ。かかってこい、《白銀の剣聖》――ダドリー・クレイス!!」
僕たちは一瞬だけ黙り込み。
そして。
「「おおおおおおおっ!!」」
両者、まったく同じタイミングで駆け出した。
ダドリーが繰り出すは――マクバ流、神速ノ一閃か。
であれば、僕も同じ技で迎え撃つ。
「淵源流、一の型。真・神速ノ一閃!!」
ガキン! と。
両者の剣が交差するのは一瞬だった。
そのまま僕たちは、互いの元いた場所を入れ替えて着地。
「おおっと……」
僕の頬から、軽く鮮血が飛び散った。掠っただけのようだが、あいつの剣はたしかに僕に命中した。
そして……
「くおっ……!」
ダドリーは軽い悲鳴をあげ、その場で片膝をつく。
「へへ……やっぱり……こうなるかよ……」
気のせいだろうか。
自身の胸を抱えて呻くダドリーから、すこしだけ嬉しそうな感情を感じたのは。
「負けんなよ……なにがあってもよ……!」
そのままバタリとうつ伏せてしまう。
「お、おい、大丈夫か!」
おかしい。
そこまでダメージを与えていないはずだが。
「へっ、気にすんな。ずっと剣を振りっぱなしだったからよ、眠くなっただけだ」
「…………」
「おい……アリオス……。本物の剣聖になりやがれ……俺やリオンさんでも届かなかった領域に……おまえが……」
そこまで言って、ダドリーの意識は落ちた。
【新作を投稿しています!】
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【俺は悪徳奴隷商人! だが、みんな俺から離れようとしない~理不尽にギルドを追放されたので、最強テイム能力で裏社会を気ままにいきます。ちなみに俺のおかげでステータス2倍になってたけど、大丈夫?〜】
さて、このダドリーとの戦いですが、実はずっと書きたかったシーンです。
やっぱり、ただ「ざまぁ」するだけじゃなくて、こうやってキャラクターが動いていくからこそ面白いんですよね。
そんなダドリー君のイラストは下記になります!
また、下記に本作の表紙もありますのでぜひご確認くださいませ!
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