おい待てどういうことだ
「マ……マジか」
僕は思いっきり目を見開く。
部位別の蓄積ダメージ。
なんだろうと思ったら、こういうことだったのか。
今回の場合は、右足のゲージを破ったことで、ジャイアントオークの転倒に繋がったのだろう。
こりゃ、この能力も化け物だな。
相手の体力がわかるだけでもぶっ壊れ性能だが、部位別の蓄積ダメージまでわかってしまうとは。
他の能力よりは派手さに欠けるが、うまく立ち回れば強力な力であることは間違いない。
「ゥゥゥゥゥゥウ……!」
呻き声をあげながら足掻くジャイアントオーク。
すぐには起き上がれなさそうだが、こいつは指定Aの魔物。ここで与えられる限りのダメージを与えたい。
僕は剣を鞘に納めると、左足を前に出し、構えの姿勢を取る。
極限にまで集中力を研ぎ澄まし、自分の呼吸に意識を向ける。
――いま!
マクバ流・第一秘技。
鳳凰剣。
僕は瞬時に駆け出すと、縦横無尽に動き回り、ジャイアントオークを切り刻む。
一撃。
二撃。
三撃。
最後にジャイアントオークから距離を取り、突進しながらありったけの剣撃を見舞う。
ドォォォォォォォォン! と。
僕の剣を振るった軌跡が赤く燃え上がり、大爆発を起こす。その爆炎は、さながら飛び立つ鳳凰のよう。
「おお……!! あれは!」
カヤが驚きの声をあげる。仲間にポーションを飲ませつつ、こちらの戦いに見入っていたようだ。
これがマクバ流の秘技がひとつ、鳳凰剣。
父上ならもっと高威力の技を繰り出せるし、鳳凰の姿ももっと華麗だ。
僕にはこの程度で限界だが、《攻撃力アップ(小)》の力を借りている現在なら、そこそこの威力にはなるはず。
「グアアアアアアアッ!!」
響きわたるジャイアントオークの悲鳴。一ツ目をぎゅっと閉じ、じたばたもがいている。
よし、効いてるようだ。
あとは魔法でできる限りのダメージを狙おう。
スキル《チートコード操作》発動、火属性魔法全使用を解放。
終極魔法――プロミネンスバースト。
途端、本日二度目の大爆発がジャイアントオークを襲う。悲鳴は聞こえなくなっているが、あのブラックグリズリーを一撃で倒した魔法だ。一定のダメージは与えられているはず。
撤退の好機である。
ジャイアントオークのことだ、モタモタしていたらなにをしてくるかわからない。
僕は咄嗟に身を翻し、カヤたちのもとへ走る。
「いまがチャンスです! 皆さん、逃げましょう!」
「…………」
しかしカヤはぽかんと立ち尽くしたまま動かない。そばにいるユウヤも同様だ。
「なにしてるんですか! 早く逃げないと殺されますよ! いまのうちに――」
「いや……。その……」
カヤは後頭部をさすりながら、微妙な表情で言う。
「逃げるって……なにからですか?」
「へ?」
なにを言ってるんだこの冒険者は。
「決まってるでしょう。ジャイアントオークから逃げないと!」
「……ジ、ジャイアントオークならあそこで死んでいるように見えるんですが」
「えっ」
驚いて振り返る。
もうもうと立ちこめる黒煙のなかで横たわるジャイアントオーク。
あれほどうるさかったのに、いまは微動だにしていない。
念のため、ジャイアントオークのゲージを確認してみるが……見当たらなかった。あいつの体力を示しているはずのゲージが、綺麗さっぱり消え失せている。
……ってことは、まさか本当に。
「あ、その、あれですね」
僕は気まずさを覚えながら、後頭部をさすって言う。
「皆さんが体力を削ってくれてたので……いいとこ取りしちゃったみたいですね」
「いやいや、なに言ってんですか!!」
カヤの突っ込みが入った。