おい、僕は遊んでないぞ
前話で王女や王太女のご指摘をくださった方、ありがとうございました。
修正かけました。
アルセウス王国。
その王城。
マクバ家の末裔として何度か訪れたことはあるが、しかし、この広さにはいつまで経っても慣れないものだ。マクバ家の屋敷とは比べものにならないもんな。
現代国王のユーフェスは、僕たちを《客人》として招き入れてくれた。
ひとりひとりに客室をあてがい、僕にはもったいないくらい快適な空間を与えてくれた。
さらには晩餐会も開いてくれるらしい。夜の8時に開催予定なので、それまでに晩餐室に来てほしいとのこと。
「…………」
現在は……夜6時か。
暇だな。
特にすることもないが、かといって外に出る気にもなれなかった。
ただただベッドに寝転がりながら、今後のことを考える。
――王太女の護衛を――アリオス・マクバさん。あなたにお願いしたいと思っております――
さきほど現代国王に言われた言葉。
それがいまでも脳裏にこびりついている。
僕がレイの護衛か……
たしかにずっと夢見ていたことではあったけれど……僕にできるだろうか。王太女の護衛といえば、要職どころの話ではない。大出世だ。
マクバ家を追放され、剣聖になれなかった僕が、そんな責務を果たせるものか……
まあ、こればっかりは僕だけが考えても仕方ないんだけどな。
すべてはレイの決断にかかっている。
彼女が王太女になると決意しなければ、護衛もへったくれもない。ひとりでウジウジ悩むより、レイに話を聞きにいったほうがいいかな。
そう思い立った僕は、ベッドから起き上がり、自室を出ようとした。
――コンコン。
扉からノックの音がしたのはそのときだった。
「……っと」
思わず立ち止まる僕。
このタイミングで訪ねてくる人物といえば……ひとりしかいないな。二人して考えることは一緒だったか。
「はい」
返事とともに扉を開けると、予想通りの人物がそこにいた。
「アリオス……ちょっといい?」
レイミラ・リィ・アルセウスは真剣極まる表情を浮かべ、小声でそう訊ねてきた。
「ああ。構わない。入ってくれ」
「ありがと」
言うなり、レイは近くにあった椅子に腰を下ろす。一方の僕はベッドに腰かけ、互いに向かい合う格好となった。
「あはは……なんだか昔を思い出すね。よくこうして遊んだっけ」
「僕は遊んでないだろ。ただ挨拶するだけのつもりだったのに、勝手に隠れんぼされたときはビビったもんだ」
「あはは……あったねそんなことも」
もはや懐かしい、幼少期の記憶だ。
あの頃は、将来剣聖になることを疑ってなかったっけ。そして生涯、レイの護衛を務めるのだと思っていた。
あれから色々あったけれど、こうして、僕たちは同じ場所にいる。
昔と変わらない、アルセウス王国の象徴ともいえる場所に。
しばらく沈黙の時が続いた。
僕もレイもなにも言わない。
だけどその静けさが……どこか心地よかった。
「ねえ。アリオス」
「ん」
「そっち行っていい?」
「おっけ」
短いやり取りのあと、レイは僕の隣に腰を下ろす。そしてそのまま、僕の拳に手を置き――指を重ね合わせてきた。
互いの呼吸が聞こえる距離感で、レイはそっと呟く。
「あのね……私、お父様のご提案、受けようと思う」
「…………そっか」
どこか予期した答えだった。
「だからね、アリオス」
レイがぎゅっと僕の手を握ってくる。
「えっと、その、私を」
迷いに震えるその唇を、僕はそっとふさいだ。
「っ…………」
「レイ。聞くまでもないじゃないか。僕は君を一生守り続ける。その意志は……昔からずっと変わってないよ」
「あ…………」
そして改めて、王太女の瞳をまっすぐ見据えて言った。
「これから頑張ろう。まだまだ未熟な僕だけど……精一杯、支えてみせるから」
「ぅ…………」
途端。
レイの瞳からじわじわと涙があふれ出す。やがてそれは止まらなくなり、ついに彼女は「わあああっ」と僕の胸に飛び込んできた。
「ば、ばか。なんで泣くんだよ」
「だ……だってぇ……アリオスったら、ずっと自信なさそうだったのに……やっと、やっと私を見てくれて……うぅう……」
「え…………」
そう……かもしれないな。
いままでずっと、僕は社会不適合者だと思っていたから。そんな僕とレイでは絶対に釣り合わないと思っていたから。
だけど……いま初めて、レイの提案を受け入れられたんだ。
それはきっと――いま僕の胸でわんわん泣いている彼女のおかげに違いなくて。
「レイ。ありがとう。君のおかげで……少しずつ、自信が取り戻せてきた気がするよ」
正直、まだまだ不安は残っているけれど。こんな僕が国の要職に就いて大丈夫なのか、いまだにわからないけれど。
それでも、彼女が重大な決断をしたのなら、目一杯支えていきたいと思う。
それが長年の、僕の夢だったから。
そうして僕たちは、さらにお互いの手を強く握りしめあうのだった。
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イラストレーターさんは福きつね先生です。
めっさ素敵なイラストでテンション上がってます(ノシ 'ω')ノシ バンバン