おい、当たってるんだが
「アリオスさーーん!」
ふいに名前を呼ばれた。
「み、みんな……!?」
振り返ると、なんとも懐かしい面々が走り寄ってきているところだった。
Aランク冒険者――カヤ。
Bランク冒険者――ユウヤ。
古代兵器――ウィーン。
僕らとは別行動していたチームだな。僕らのために《陽動》の役割を買ってくれていたので、純粋な戦闘回数でいえば、カヤたちのほうが多いはずだ。
「よかった……皆さん無事だったんですね」
「アリオスさぁん!」
「っ!?」
ふいにカヤが僕の胸に飛び込んできた。
「ちょちょ、いったいどうしたんですか!」
めっちゃ当たってます。なにがとは言わないが。
「ずっとアリオスさんたちが心配で……だって、私たちより強い敵と戦ってたんですよね?」
すげー目を潤ませているな。
本気で心配してくれていたんだろう。
その様子にドギマギしつつ、僕は頬を掻いて答える。
「……ま、まあ、そうかもしれないですけど……」
フォムス。レイファー。マヌーザ。ヴァニタスゾローガ。
みなが影石によって強化され、通常ありえない力を持っていた。
そういう意味では、たしかにカヤの言う通りではあるんだが……
「ちょっと、カヤ?」
ニコニコ笑いながら歩み寄るのはレイ。
うん。
この笑顔は、アレだな。
口の両端は吊り上がってるんだけど、目が笑ってない。
「カヤ、無事だったのは良かったんだけど……ちょっと、アリオスに近すぎない?」
「だってしょうがないじゃん。会いたかったんだから」
「はぁ……もう」
呆れ気味に肩を竦めるレイだが、これ以上は突っ込まない。
口ではこう言ってるけど、友人の再会にほっとしてるんだろうな。
「っていうか……」
ややあって、カヤは僕から顔を離す。そしてぐるりと周囲を見渡すや、煮え切らない表情で言った。
「これって、どういう状況ですか? まったくわからないんですけど」
「はは……まあ、そうですよね」
レイファーは気絶していて、マヌーザはおとなしく鎮座していて。
オルガントの思念体もいて。
なにより極めつけは――ダドリーの存在か。
困惑するのも無理はない。
「そうだな。長くなるけど、実は……」
こうして僕は、チームが別れたあとの出来事を簡単に説明した。
フォムスのこと。
ダドリーが参戦したこと。
そして同志Aにヒントを授けられ、アウト・アヴニールを訪れたこと……
その間中、みんな黙って聞いていた。特にダドリーの件についてはよほど驚いたらしく、感嘆の声が絶えなかった。
「へぇ……驚いたね。ダドリー君、君にそんな一面があったとは」
感心した表情で頷くユウヤ。
「うんうん。昔はあんたのこと大嫌いだったけど、今回はちょっとだけ見直したかも」
カヤも同様の反応を示していた。
まあ、これについては同意だ。
特にマヌーザ戦では心身ともに成長したみたいだからな。いてくれて助かったのは間違いない。
「だぁーっ! うるせぇ! そんな微笑ましい顔で見るんじゃねえ!!」
当のダドリーは恥ずかしそうに叫んでいたが、それもご愛敬か。過酷な環境に生きてきたからか、褒められることに慣れてないみたいだな。
そして。
「オヒサシブリデスネ。国王陛下」
「おお……ウィーンか。二千年前から変わっとらんな、わっはっはっは!!」
「イエイエ。陛下ハモウ死ンデルクセニ老ケマシタネ。アッハッハ!」
「あっはっは! ……え、老けた? ほんと?」
オルガントとウィーンも二千年越しの再会を果たしたようだ。仲睦まじげに昔話に興じている。
……本当に、良かった。
第19師団、およびアルセウス救済党との決戦。
敵は強かったけれど、なんとかみんな無事だった。それだけで充分だ。
しばらく全員で歓談に興じたあと、僕の脳裏にふと疑問が浮かんだ。
「あの、カヤさん」
さっと先輩冒険者に歩み寄り、それとなく聞いてみる。
「そういえば、どうやってここまで来たんですか? 抜け道を見つけるのは難しかったでしょう?」
「あ……はい。それが私たちも疑問なんですが……同志Aが教えてくれたんですよね」
「え……」
同志A。
またその名が出てくるか。
「…………」
僕たちの会話が気になるのだろう、レイがちらちらとこちらを見てくる。
そんな彼女の視線を受け止めつつも、僕はさらにカヤに訊ねた。
「同志Aは……なんて言ってたんです?」
「もう陽動は充分だから、レイファーの私室に行きなさいって……。そこにアリオスたちもいるって……」
「そうですか……」
「もちろん最初は疑いました。でも、たしかに敵はもうほとんど倒してて。同志Aの言う通り、陽動はきっちり終わってたんです」
「なるほど……わかりました」
つまり、同志Aはまたしても的確な助言をくれたことになるな。攪乱するための偽情報ではなく、本当に僕たちのための情報を……
「うーん……よくわからないなぁ……」
僕は思わずそうひとりごちた。
アルセウス救済党は制圧できたが、結局、同志Aだけは確保できていない。いったい何者だというのか……
「アリオス・マクバ……ひとつだけ言わせてもらいたい」
「む……」
僕は思わず警戒心を引き上げる。
アルセウス救済党の党首、マヌーザ・バイレンス。
奴が、重そうな足を引きずりながら歩み寄ってきたからだ。
「…………っ!」
レイも表情を引き締め、戦闘の構えに入る。
そんな彼女を片手で制しつつ、僕は厳しい目つきでマヌーザを見据えた。
「ふん。そこまで警戒してくれるな。もう事を構える気はない」
「……どうだかな」
言いながら、僕は視線をマヌーザの腰に向ける。
――あいつの剣は遠くの床に置きっぱなしか。であれば、たしかにそこまで気を張る必要はなさそうだ。
「……それで、なんだ? なにか言いたいことでもあるのか?」
「ああ。同志Aとやらの記憶が……すこしだけ蘇ってな」
「……本当だろうな?」
「こんな嘘をついてどうする。こちらにはなんのメリットもなかろう」
まあ……それもそうか。
たしか、冒険者ギルドでも同志Aだけ人物像が掴めていないんだよな。党首マヌーザや三番手のジャックを差し置いて、あいつだけなにもわかっていない。
だからすこしでも手がかりが欲しいところだった。
僕の沈黙を肯定と受け取ったか、マヌーザは右腕を抑えた体勢で言葉を続ける。
「……あれはたしか、アジト内で重役会議をしていたときだったな。突如にして、侵入者が現れたのだよ。どこかから無理やり突入したのではなく――まるで、空間転移でもしてきたかのように」
空間転移……か。
嫌でも影石のことを思い出すな。
かつて突然発生したホワイトウルフたちも、まさに瞬間移動でもしたかのように現れていた。
「その侵入者が……きっと同志Aであったと思う」
マヌーザは瞳を閉じると、やや忌々しさを帯びた声で続けた。
「そこからの記憶が曖昧なのだ。なにがあったのかまったく思い出せんが……気づけば私たちは同志Aを幹部として受け入れ、そして当然のように影石を使いこなしていた」
おいおいおい。
それって……
「……まさか、同志Aが来るまでは、影石なんて使っていなかったってのか?」
「ああ。そんな便利なものがあれば、我が党の活動はまた変わっていたはずだ」
「…………」
ということは、同志Aが黒幕なのだろうか……?
あいつがアルセウス救済党に影石を持ち込み、レイファーまでをも洗脳し、ヴァニタスゾローガの封印を解かせたと……?
だが、わからない。
屋上庭園で同志Aと会ったときは、まったく邪念を感じなかった。むしろ僕らの味方をしている感さえあった。
いったい、なにがどうなっている……?
「…………」
ふと気づけば、レイがまたしても深刻な表情を浮かべていた。
そういえば、彼女も同志Aに助けてもらっていた身だもんな。色々と思うところがあるんだろう。
「……ふむ」
いままでずっと黙り込んでいたオルガントも、思案げな表情で顎をさすっていた。
「レイミラよ。もしかすれば……」
「はい。ご先祖様たちから聞いた話を統合すれば、すこしだけ、嫌な予感がします」
「やはりか……」
「レイ……?」
目を丸くする僕。
王族にしかわかりえない話だろうか。
かなり気になるところであったが、これについてはまた後日聞くのが賢明だろう。
なぜならば――
「……もうお時間ですか、陛下」
「うむ。そのようだな」
オルガントの身体が、例によって薄れかけていたからだ。
「アリオス。色々と思うところはあるだろうが、まずは羽を伸ばしなさい。今回は非常に助かった。忘れるな、おまえたちは我が王国の英雄だ……」
そこまで言って、オルガントは完全に姿を消した。
【皆様にお礼を(ノシ ;ω;)ノシ バンバン】
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チートコードの予約を入れてくださった方、本当にありがとうございます!
もう感謝感激です!
めちゃくちゃ嬉しいです(ノシ 'ω')ノシ バンバン
本作ですが、1月30日に、モンスター文庫様より発売されます!
……が、発売日変更にならない限り、おそらく緊急事態宣言と被ってしまいます。
このままでは危ないです(ノシ ;ω;)ノシ バンバン
予約していただけると、めちゃくちゃ助かります。
嫌になるくらい何回も原稿見直して、さらに編集さんからいただいた赤でかなり改良されてます。
ですから自信を持って、《絶対面白い!》と断言できます(ノシ 'ω')ノシ バンバン
それなのに書店に並ばないのはだいぶメンタル的にアレです(ノシ 'ω')ノシ バンバン
ぜひ、よろしくお願い致します。




