おい、理解が追いつかないんだが
「見てみろ、ヴァニタスゾローガは絶命しておるよ。とうにな」
「ま、まさか……」
オルガントに指摘され、僕はおそるおそる振り返る。
……嘘だろ?
なんか前にも似たようなことがあった気がするが、今回の敵は格が違うんだぞ? 国を滅ぼすレベルの相手なんだぞ?
しかしながら、現実とは残酷なもの(?)で。
オルガントの言うとおり、ヴァニタスゾローガは絶命していた。
それはもう、誰が見てもわかるくらいに。
念のためチートコードの《対象の体力の可視化》を使ってみるが、結果はやはり同じ。ヴァニタスゾローガは、完膚なきまでに絶命していた。
「……えっと」
頬を掻きながら、僕は気まずさとともに呟く。
「ま、まあ、あいつは封印されていたみたいですし。力もたいしたことなかったですし。きっと弱体化して……いたのか……と」
セリフの途中から自信をなくす僕に対し、オルガントが不敵に笑う。
「ふっ……そう思うか?」
「陛下、その悪い笑顔はなんですか」
「いまのヴァニタスゾローガは、過去と比べてもまったく衰弱しておらんかったぞ。当時の力そのままだったわけだ」
「え…………」
「ふふ、ヴァニタスゾローガもさぞ驚いただろうな。小国を滅ぼせるはずの一撃を、よもや人間が受け止めるとは」
いやいや、嘘だろ?
いくらチートコードをふんだんに使用したとはいえ、そんな災害クラスの敵を一方的に痛めつけてたのかよ。
ありえない。
嘘だ。
誰か嘘だと言ってくれ。
「いてっ」
だがやはり、これは夢ではないらしい。勢いよく自分の頬をつねってみるが、ただ痛いだけだった。
「ねえ……アリオス」
そんな僕に、レイがさらなる追い打ちをかけてくる。
「いま魔法を同時に3つ使ってたように見えたけど……あれはどうやったの?」
「いや……ただやってみただけだったんだが」
「ただ……やってみただけ……」
まるで衝撃の事実でも聞かされたかのように身体を震わせるレイ。
ちなみに。
これは後で聞いた話だが、普通は魔法の《同時打ち》はできないようだな。連続で発動することはできても、同時は無理なのだとか。
詳しい説明は省くが、体内に巡る魔力は放出するまで属性がどうたらこうたら……と、よくわからなかった。
この《チートコード操作》の場合、そういう手順は踏まないからな。チートコードを発動しさえすればいいだけだ。
たぶん、そこらへんが普通の魔法とは違うんだろうな。
「アリオスよ。おまえはやはり、ファルアスの子孫だな」
オルガントが愉快そうに告げる。
「え……そんなにそっくりですか?」
「ああ。自分の魅力に気づかず、苦労した者はさぞ多かろう」
「…………」
「……まあ、少なくとも《魔法の同時打ち》と《攻撃力アップ(中)》だけは、強敵にのみ使いなさい。無用なトラブルが起きかねんからな」
「き……肝に命じます……」
ここまで言われてしまっては、素直に頷くしかない。なにより初代国王の言葉だからな。
さて。
なんとも締まらない結末であるが、とりあえずは一件落着ということでいいんだよな。レイファーは気を失っているし、マヌーザも動き出す様子はないし。
周囲に怪しい気配もないしな。
きっと大丈夫なはずだ。
それをオルガントに訊ねると、彼は
「うむ。もう警戒を解いて問題ないぞ」
と教えてくれた。
「ひとまず、みなご苦労だった。ほれ、女神からの贈り物だ」
言いながら、オルガントは紅石を右手に掲げた。
すると――
「おうっと……!?」
突如、僕たちを優しい光が包み込んだ。
なんだろう。
少しずつ身体が軽くなっていくような……
「連戦で大変だっただろう? これですべて回復するはずだ」
「おお……軽い! 軽いぞ!!」
歓喜の声をあげるダドリー。
あいつはマヌーザ戦でかなり負傷したみたいだからな。さぞありがたいだろう。
「……本当は、あのヴァニタスゾローガも余が華麗に倒すつもりだったんだがなぁ。まさかひとりで倒されるとは思いもよらなかったぞ」
「な、なんか……すみません」
「はっはっは。もちろん冗談だ。おかげで《残り時間》にも余裕ができた。ゆっくりと、事件の真相を説明することができる」
おっと。
そういやそうだったな。
レイファーやヴァニタスゾローガを倒すのには成功したが、謎はいまだに多く残っている。
同志Aについて。
このアウト・アヴニールについて。
ファルアスたちの言う《大敵》の目的について――
オルガントは表情を改めると、僕たちを見渡しながら言った。
「まず結論から言おう。この場所は、数千年前――余たちが《大敵》を封じ込めた場所だ」
「や……やっぱりそうですか」
なんとなくそんな予感はしていた。
レイファーはさっき、《数千年から存在する強固な鎖》と言っていた。おそらく、その鎖とやらがヴァニタスゾローガを封じ込めていたのだろう。
「じ、じゃあ」
ふいにレイが口を開いた。
「あなたたちが仰る《大敵》って、ヴァニタスゾローガのことだったんですか? それはもうアリオスが倒したから、全部解決……?」
「……だったら良いんだがな。残念ながら、事はそう単純ではないのだよ」
オルガントはそうかぶりを振ると、ふいに身を翻した。
そしてそのまま、とある場所に向けて歩み寄っていく。
巨大な二枚扉――すなわち、ヴァニタスゾローガが出現した場所に向けて。
「皆、これを見よ」
「…………?」
言われるままに、僕たちもオルガントに続く。
そして内部の景色を目撃したとき、僕は思いっきり目を見開いた。
「こ、これは紅石……? でも妙にでかいぞ……?」
しかも中ほどにヒビが入っている。
そのせいか、通常の紅石みたいな力は感じないな。
僕が黙り込んでいると、オルガントが続けて解説した。
「……この紅石によって、大敵たちを封じていたわけだ」
……なるほど。
だいたい筋が見えてきた。
僕はなかば思い出すようにしながら呟く。
「つまり、レイファーやマヌーザが巨大な影石を持って来させられたのは、この紅石の効力を弱めるため……?」
「しかり。余たちは奥深くに大敵どもを封印したのだがな。……連中は、わざわざ道を開通させてまでやらせたわけだ」
「そうですか……。さぞ多くの人手と資金が必要だったでしょうね」
ここで、アルセウス救済党がアルド家に肩入れしていた理由も判明したな。
アルセウス救済党は、アルド家を護衛し――その代わりに、潤沢な資金を受け取っていた。
その資金の使い道が、これだったわけだ。
さらにレイファーも操ってしまえば、金銭面と人手の問題は解決できる。
「あ、あの……」
ふいにエムが口を開いた。
「オルガント陛下。あなた……さっきこう言ってませんでしたか? 大敵たちを封印していたって……」
「…………」
オルガントはそこで瞳を閉じ。
そして数秒後、重たそうに言った。
「その通り。ヴァニタスゾローガはあくまで番人にすぎぬ。各地に封じられていた大敵どもは、力を取り戻し次第、必ず現れる。アルセウス王国を潰しにな」
やはり――か。
そんな予感はしていたが、事件はまだまだ終わりじゃなさそうだな。
「オルガント陛下……ひとつだけ聞かせてください。大敵っていうのは、いったいなんなんですか? どういう勢力なんですか?」
「……端的に言えば、異世界からの侵略者だな」
「い、異世界……?」
「しかり。説明すれば長くなるが、この世界に存在するのはアルセウス王国だけではない。他にも多くの世界が存在するということだ。そしてその者どもは、余たちとは異なる理に生きておる」
異世界?
異なる理?
駄目だ、壮大すぎて頭が追いつかない。
「ふっ」
頭を抱える僕に、オルガントはふと優しげに笑みを浮かべた。
「だがなアリオス。余はそなたに感謝しているのだよ。余たちの目標のひとつは、これで解決した」
「え……目標?」
「うむ。ヴァニタスゾローガ――アレが野放しにされてみい。すぐさま次元の壁を破り、アルセウス王国は火の海と化していただろう」
それは……たしかにそうかもな。
腕の一振りで小国を滅ぼせる魔物だ。そんな魔物が人々の前に現れたら――考えるだけでも恐ろしい。
「それに、異世界人もすぐには襲っては来ん。封印の際、力をかなり奪っておいたからな。回復には時間がかかるだろう」
そしてオルガントは僕たちを見渡すや、威厳のある、しかし優しげな声を発した。
「皆の者、いままでご苦労であった。まだすべてが解決したわけではないが……しばらくは羽を伸ばすといい」
【皆様にお礼を(ノシ ;ω;)ノシ バンバン】
チートコードの予約を入れてくださった方、本当にありがとうございます!
もう感謝感激です!
本作ですが、1月30日に、モンスター文庫様より発売されます!
……が、発売日変更にならない限り、おそらく緊急事態宣言と被ってしまいます。
このままでは危ないです(ノシ ;ω;)ノシ バンバン
予約していただけると、めちゃくちゃ助かります。
嫌になるくらい何回も原稿見直して、さらに編集さんからいただいた赤でかなり改良されてます。
ですから自信を持って、《絶対面白い!》と断言できます(ノシ 'ω')ノシ バンバン
それなのに書店に並ばないのはだいぶメンタル的にアレです(ノシ 'ω')ノシ バンバン
ぜひ、よろしくお願い致します。




