おい、これが一撃で小国を滅ぼす攻撃か?
「ゴォォォオオオオオ!!」
ヴァニタスロアの胴間声が響きわたる。
相変わらずとんでもない威圧感だ。あいつが一声発しただけで、周囲の空間が歪んでいる。アウト・アヴニール全体が悲鳴をあげている。
「……っと」
その音圧を、ダドリーは交差した両腕で受け止める。
「アリオス。もしかして、あいつ……」
どうやら同じことに気づいていたみたいだな。
「ああ」
僕はゆっくりと頷きながら応じる。剣を構えつつ、警戒だけは絶対に解かない。
「あいつは……前に戦ったヴァニタスロアより格段に強そうだ。感じる力が全然違う」
俗に言う亜種というやつか。
姿形はほとんど同じだが、体色の一部が異なっていたり、体型がすこしだけ違ったり……
見た目の違いはほとんどないのだが、しかし戦闘力においてはその限りではない。ほとんどの亜種が《原種》より断然に強いのだ。
そういった理由から、原種と亜種では指定ランクが異なる場合がほとんどである。
「その通り。おまえたちの時代の言葉で言うなら、あいつはヴァニタスロアの亜種だな」
ふとオルガントが口を開いた。
「ヴァニタスゾローガ……我らの時代ではそう呼んでいた。もちろん、戦闘力はヴァニタスロアの比ではない。その片腕を振り下ろすだけで、小さな国など一瞬で消し飛ぶだろうな」
やはりそうか。
ヴァニタスロアと戦う前は、それこそ《いままでのどんな敵よりも強い》と思ったが……
あいつは、それの比じゃないってことか。
「……でも、関係ありません」
僕は一歩前に踏み出しながら、決意を込めて言い放った。
「あいつが世界に脅威をもたらすのであれば……この剣で倒すまでです。たとえどんな強敵でも」
「アリオス……」
レイが頬をピンク色に染めた。
「うん……そうだよね! あの魔物はめちゃくちゃ強そうだけど、それでも怖じ気づいちゃいられない!」
「なんだ。おまえにも怖いものがあったのか」
「もう! 真剣な場面でそういうこと言わない!」
「いてっ」
パシン!
と腕を叩かれた。
「ふっ」
そんな僕たちに、初代国王が微笑みを浮かべる。
「アリオス、レイ。おまえたちほど有望な若者は、数千年前にもいなかっただろうな。おまえたちが数千年前のアルセウス王国に生きていれば……」
「ちょ、陛下……」
なんだ。
めちゃくちゃスケールのでかい持ち上げ方をされたんだが。
「なーに明快なことだ。ヴァニタスゾローガはかなりの強敵だが、アリオスさえいればその脅威がだいぶ薄まるということだ」
「全然明快じゃないんですがそれは」
ほんと、ドシリアスな場面なのに、ここまで緩いのはいかがなものか。
まあいい。
戦力は充分に揃ってる。
僕は全力で戦うまでだ。
スキル発動。
チートコード操作。
―――――――
使用可能なチートコード一覧
・攻撃力アップ(小)(中)
・火属性魔法の全使用
・水属性魔法の全使用
・無属性魔法の全使用
・対象の体力の可視化
・対象の攻撃力書き換え(小)(中)
・吸収
・無敵時間(極小)
・古代兵器召喚(一)
・対象の経験値蓄積の倍加
・○○○○の○
――――――
ヴァニタスゾローガ相手には、いかなる手加減も不要だろう。
ここは使えるものをすべて使っていくのが最善手か。
そう判断した僕は、余すことなくチートコードを起動する。
攻撃力アップ(中)。
攻撃力の書き換え(中)で自身の攻撃力を10倍。
さらに火、水、無属性の魔法も使用できるようにしておく。
古代兵器の召喚だけは、現在は無理だな。ウィーンはカヤ率いるAチームで戦ってくれているため、ここに呼び出すわけにはいかない。
「おおおおおおっ!」
できるだけのチートコードを解放した僕は、気合いを込め、力を解放する。
「……っ、おいっ!」
なぜかぎょっと目を剥くダドリー。
ドォォォォォオオオ! と。
それだけで周囲の空間が激しく揺らいだ。空間がぐわんぐわんと歪み、僕の周囲だけ大きな穴が穿っている。
「ば、ばっきゃろ! なんちゅー力だよおまえ!」
なぜかダドリーに怒られた。
「ん? どうかしたか?」
「あの……さっきヴァニタスゾローガが叫んだときより被害がでかい気がするんですけど」
エムも呆れ気味に呟く。
「…………」
ヴァニタスゾローガが叫んだときより被害がでかいなんて……そんなまさか。相手はオルガントの思念体でさえ慄く魔物だ。そんなことがあろうはずもない。
相変わらず、良い意味で緊張感のない仲間たちである。このぶんなら心配ないか。
「僕が先陣を切る。みんなはサポートを頼んだぞ!」
そう言い残し、全力で地を蹴る。
かつてない速度で景色が後方に流れていく実感を味わいながら、僕は瞬時でヴァニタスゾローガとの距離を詰めた。
「ギッ…………!?」
このスピードを視認したのはさすがというべきか。ヴァニタスゾローガが高速で手を振り下ろしてくる。
速い!
だが、ついていけないことはない!
「おおおおおおおっ!」
僕は刀身を前方に構え、防御の姿勢を取る。
ドォン!
ヴァニタスゾローガと僕の剣とが激突した。
それだけですさまじい衝撃が舞い、空間がまたしても歪む。
「ガッ…………!?」
ヴァニタスゾローガが初めて驚愕の表情を浮かべた――ような気がした。いままで攻撃を受け止められたことがなかったとでも言うように。
この一撃だけで小国を滅ぼせるだけの威力があるそうだが、そこまでの力は感じないな。オルガントは僕の気を引き締めるために、あえて誇張したのかもしれない。
淵源流、一の型。
冥府ノ無限閃。
「おおおおおおおっ!」
僕はヴァニタスゾローガの背後に回り込み、無数の攻撃を叩き込んでいく。《攻撃力アップ(中)》によって引き上げられた力を、さらに10倍に引き上げているわけだからな。
一撃一撃を見舞うだけで、激しい振動が空気に拡散していく。
「ダァァァァァアアアッ!!」
だが、それで終わらないのはさすがといったところか。
ヴァニタスゾローガは雄叫びをあげるや、さっきとは比較にならないスピードで腕を振り下ろす。
しかもなにかしらの技を使っているっぽいな。
背中から無数の腕が生えており、そのすべてが僕に襲いかかってくる。
以前のヴァニタスロアは遠距離攻撃もしてきたが、こいつは物理特化なのかもしれないな。魔法は打ってこないものの、すべての攻撃が重く、かつトリッキーだ。
だが、それでも関係ない――!
僕は《無敵時間(極小)》を用いつつ、ヴァニタスゾローガの猛攻から距離を取る。
そして魔法を発動。
選ぶ魔法は――全部である。
火属性魔法の終極魔法――プロミネンスバースト。
水属性魔法の終極魔法――クリスタル・ゼノン。
無属性魔法の終極魔法――ソウル・アポリカプス。
同時に三属性の魔法を発動し、そのすべてをヴァニタスゾローガに叩き込んでいく。
一帯を破壊し尽くす大爆発、縦横無尽に襲いかかってくる超高水圧の奔流、床に浮かんだ魔法陣から溢れ出る不可視の重圧。
それらにすべて直撃し、ヴァニタスゾローガは絶叫をあげる。
――よし、トドメを刺す絶好の機会だろう!
「いまだみんな! 全員で一斉にトドメを――!」
しかしながら、レイもエムもダドリーも、ぽかんと口を開けて立ち尽くすのみ。
オルガントだけが、くくくっと愉快そうに笑っていた。
「アリオスよ。せっかく余が登場したにも関わらず、出番を奪ってしまうとはな。さすがはファルアスの子か」
「え?」
出番を奪う?
なんの話だ?
「見てみろ、ヴァニタスゾローガは絶命しておるよ。とうにな」
「ま、まさか……」
【書籍の発売日が決定しました……が!】
1月30日に、モンスター文庫様より発売致します!
……が、発売日変更にならない限り、おそらく緊急事態宣言と被ってしまいます。
このままでは危ないです(ノシ ;ω;)ノシ バンバン
予約していただけると、めちゃくちゃ助かります。
嫌になるくらい何回も原稿見直して、さらに編集さんからいただいた赤でかなり改良されてます。
ですから自信を持って、《絶対面白い!》と断言できます(ノシ 'ω')ノシ バンバン
それなのに書店に並ばないのはだいぶアレです(ノシ 'ω')ノシ バンバン
ぜひ、よろしくお願い致します。




