おい、この能力も化け物なんだが
「ヌオオオオオッ!!」
ジャイアントオークが両腕を広げ、咆哮を響かせる。
相変わらずとんでもない圧だ。
周囲の木々が、花々が、空間が――大きく歪められている。
さっきの攻撃のせいか、ジャイアントオークの標的は僕に切り替わったようだ。仲間の救助に向かうカヤには脇目もふらず、ひたすらに僕を見下ろす。
「…………」
僕は無言で剣を構える。
まさに、命をかけた真剣勝負。
父上との特訓とはまるで違う。
でも――さっきの攻撃で、ジャイアントオークを押し倒すことができた。決して適わぬ相手じゃないはずだ。
「……そうだ」
そういえば、さっき妙な能力を習得したな。
スキル《チートコード操作》を発動し、能力一覧を開く。
――――――
使用可能なチートコード一覧
・攻撃力アップ(小)
・火属性魔法の全使用
・対象の体力の可視化
――――――
対象の体力の可視化。
効果はなんとなく予想できるが、使うときはいまだろう。
指定Aの魔物に対しては、できる限りの手を尽くさねばなるまい。
――能力発動。
――対象の体力の可視化。
瞬間、僕の視界に変化が生じた。
ジャイアントオークの頭上に、細長い一本のゲージが出現したのだ。
ジャイアントオークだけではない。
カヤ、ユウヤ、負傷している冒険者たちの頭上にも、同様のゲージが出現している。
だが、負傷している冒険者のみ、すこしばかり様子が違っていた。ゲージの周囲が赤く点滅しており、ゲージも残りわずかしか残されていない。
「ほら、大丈夫? しっかりして!」
そんな冒険者に、カヤがポーションを飲ませる。エリクサーほどの即効性はないが、すこしずつ傷が回復する薬だ。
すると、その冒険者のゲージがすこしずつ伸びていくではないか。
「……なるほど、やっぱりそういうことか」
体力。
――すなわち、命の残量。
思った通り、それを可視化する能力のようだな。
となると。
「はは……なにが《もうそろそろ決着がつく》だよ……」
ジャイアントオークのゲージはまだまだ残っている。これでも最初よりは減ったのかもしれないが、まだまだ多くの体力が残っている状態だ。
ならばこそ、より油断ができない。全力をもって当たらねば。
と。
――――――
巨大オブジェクト――ジャイアントオークを検知しました。
部位別の蓄積ダメージを表示しますか?
――――――
「ん?」
部位別の蓄積ダメージ?
どういうことだ?
さすがに理解できなかったが、とりあえず脳内で「表示する」と念じる。
次の瞬間、先ほどのゲージが複数個にわたって発生した。
どれも対象はジャイアントオークのようだ。顔、右腕、左腕、右足、左足など……つまり身体のパーツにしたがってゲージが表示されているようだ。
そのなかで、目を引くものがひとつ。
右足のゲージだけが、赤く点滅しているのだ。Aランク冒険者との長期戦により、ここに大きなダメージが入っていたんだろう。
「……ちょっと、狙ってみるか」
「ヌオオオオオオッ!!」
だが僕が動き出す間もなく、ジャイアントオークの振り下ろし攻撃。
さすがは指定Aの魔物だけあって、そのスピードはかなりのもの。
だが、さすがに父上の攻撃よりは遅い。
僕はすかさず横方向にダッシュし、避けてみせる。
ドゴォン! と。
棍棒に打ち付けられた地面が、轟音とともに抉られた。攻撃に巻き込まれた木が、なすすべもなく真っ二つに折れる。
「うはぁ……」
マジか。
とんでもない威力だ。
僕が喰らったら、確実に一撃で死ぬな。防御力をどうにかする能力はまだないし。
だが、この攻撃によって、ジャイアントオークの動きに隙ができた。
「おおおおおおっ!!」
マクバ流。
神速ノ一閃。
僕の繰り出した剣撃が、ジャイアントオークの右足を確実に捉える。もちろん、攻撃力アップ(小)の発動も忘れていない。
と。
「ウガッ……?」
ジャイアントオークは体勢を崩し、その場に倒れ込んだ。