おい、これが最強コンビってやつか
「はは……ははは……」
レイファーは右腕を抑えながら、絶望に染まった笑顔を浮かべる。
「驚いた。攻撃力の書き換え……まさに神のごとき力だな」
知略に優れているからこそ、自身の劣勢にいち早く感づいたのだろう。さっきまでの威勢はどこへやら、レイファーの態度はすっかり諦観のそれに変わっていた。
「アリオス・マクバ。君は……《化け物》を通り越して、まさに神の領域に立っているね」
「……どうだかな」
正直、否定はできない。
僕は女神の子孫でもあると――先日、ファルアスたちから告げられたばかりだしな。
「で、どうする? このまま投降してくれるなら、僕としては楽でいいんだが」
「ふふ、まさか。そうはいくまい」
レイファーの身体を、またも漆黒の霊気が取り巻いていく。
もはや考えるまでもあるまい。影石の影響だ。
「聞こえるのだ……美しき声が……。私を理想郷へと導く声が……」
「美しき、声……?」
なんだ。
レイファーはなにを言っている。
「だから私は止まれない……。たとえどんな状況にあってもな……!」
「…………!」
僕は直感した。
あいつも――フォムスと同様、精神に異常をきたしている。影石は使用者に多大な力を与える代わりに、やはりその精神を大きく蝕んでしまうようだ。
「飲み込まれないで! お兄様!!」
そんな王子に、妹のレイが呼びかける。
「思い出してください! あなたはそんなものに支配されるような人じゃない! 一緒にボール遊びに興じたあの頃を――思い出して! 思い出してよ……!」
「ヌ、オオオオオオオオッ!!」
しかしレイの声は届かない。
フォムスと同様、瞳を深紅にたぎらせた化け物がそこにいた。さっきと比べて、漆黒の霊気が大きさを増している。
「っ…………!」
レイはかぶりを振ると、一歩前に踏み出した。
「アリオス。ごめん。ここは私が出たい……」
「レイ……」
ぼそりと呟く僕。
彼女の気持ちは痛いほどわかる。好きだった家族が訳のわからない力に飲み込まれて、それで黙っていられるわけがない。気丈な彼女ならなおさらだ。
けれど――
正直、厳しい。
影石に飲み込まれたレイファーは、さらに力を高めてしまっている。いくら攻撃力を1/10に落としているといえど、彼女に勝てるかどうかは――
と。
――――――
受諾。受諾。
チートコード起動。
初代国王の力を移行します。
完了。完了。
――――――
「わわっ……!」
僕の視界に、見覚えのあるメッセージが浮かんできた。
「この文面は……まさか……」
たしか――王城に攻め入る前、レイと一夜とともにした日。
あの日、これとまったく同じ文章が急に浮かんできたんだよな。いつもはこれと同時に新たな能力を授かっているんだけど、あのときだけはなにも起こらなかった。
「なに……これ……?」
どうやらレイの視界にもメッセージが浮かんでいるらしいな。目を大きく見開き、驚愕もあらわに立ち尽くしている。
「神聖魔法の全使用……《チートコード操作》の使用者が側にいるとき、私にこれが授けられる……?」
「な……!? そ、そんなことが書いてあるのか!?」
「う、うん……。もしかしてご先祖様は、これを見越してた……?」
初代国王オルガント。
初代剣聖ファルアス。
二人はかつて戦場を駆け抜けた無類の戦友で、二人がいれば勝てない相手はいないと言われていたという。
だから王城に攻め入る前、オルガントは僕とレイに一緒に戦うよう助言していた。
そう。
かつてアルセウス王国を造り上げた、最強コンビのようになる可能性があるからだと……
思えば、僕もずいぶん身体が軽くなった気がする。レイと一緒にいるだけで、無限に力が湧き出てくるような……
「で、でもレイ。神聖魔法ってなんだ? そんなもん聞いたことないんだが……」
「私も知らない。でも……いままでにない力を感じるよ」
その瞬間。
僕を取り巻く青色のオーラに呼応してか、レイの周囲にも同色のオーラが出現した。見ているだけで身震いするような、底知れない力の胎動を感じる。
「アリオス、これ……」
「…………」
ああ。そうだな。
いまのおまえなら、きっと兄さえも乗り越えられる――
そう判断した僕は、剣を鞘に収めて言った。
「レイミラ・リィ・アルセウス。僕は君の護衛だ。もし王女に危機があったら――なんとしてでも駆けつける」
「アリオス……」
「だから決着を着けてこい。これは――おまえにしかできないことだ」
「う……うん! 絶対、負けないから!」
レイは勇ましく頷き、身を翻した。対峙するは、精神を飲み込まれ、あまりにも強大な力を得てしまったレイファー第一王子。
「ヌアアアアアアアアッ……!」
「兄様……待っててね。いま、助けてあげるから……!!」
本作におきまして、書籍化&コミカライズが決定しました!
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