おい、真似できるもんならやってみろ
「はああああああっ!」
威勢の良いかけ声とともに、レイファーが突き進んでくる。
その手には宝剣アンダース。
王家に伝わる名剣で、使用者の身体能力を大きく引き上げる効果を持つ。その影響もあってか、レイファーの突進は想像以上に速かった。
だが、関係ない。
初代剣聖より受け継がれし伝説の淵源流が、遅れを取ることはありえない――!
「だあああああっ!」
僕もかけ声とともに剣を抜き、レイファーの攻撃を受け止める。
火花。
耳をつんざく金属音。
「おおおおおおおっ!!」
だがレイファーの猛攻はここで終わらなかった。
僕に剣を受け止められてもなお、次々と攻撃を仕掛けてくる。そのたびに金属音が響き、火花が散る。
「ははは! 全部受け止められるなんて――すごいな君は!!」
戦いながらも笑みを浮かべるレイファー。
妙に戦い慣れてるな。
この男、やはり……
「レイファー。まさかあんた……」
剣による応酬を続けながらも、僕は王子に問いを発する。
「軍による剣の指導を受けているな? しかもかなりの高みに登りつめている」
「ふふ。もうそこに気づくとは……やはり君は化け物だね、アリオス君」
「ふん。まったく……化け物はどっちだよっ!!」
語尾を荒らげながら、僕は思いきり剣を振り払う。
攻撃力アップ(中)を使用してはいるものの、宝剣と影石によって強化されているレイファーにはさしたるダメージにならないらしい。
「っと……!」
レイファーはあえて僕の攻撃を受けきることで、僕と距離を取った。
こういった冷静な判断も、妙に戦い慣れている感じがしたんだよな。もしレイファーが食い下がろうとした場合、僕は無属性魔法を使用しようと考えていたところだった。
「アリオス君。君の言う通りだ。私はフォムス師団長の指導を受けている」
レイファーは剣を器用にくるくるまわすと、最後に切っ先を僕に向けた。
「そして私の所有するスキルは《叡智》。どんな物事をも瞬時に理解・吸収し、我がものとする能力だ」
「叡智……。はん、なるほどな」
まさにレイファーのイメージ通りのスキルだ。
このスキルがあるからこそ、文武において並外れた技量を有しているのだろう。知略においてはユーフェス現国王でさえ出し抜き、武力においてはおそらくフォムスより強い。
「スキル《叡智》か……。指導役のフォムスがどんどん自信を失う姿が見えるよ」
「ふふ、それについてはコメントを差し控えさせていただこう」
レイファーは相変わらず余裕そうな笑みを浮かべると、今度は見覚えのある構えを見せてきた。
「そしてアリオス君。ダドリー君との決闘を含めれば、私は二度、君の《淵源流》を見たことになる。……これがなにを意味するかわかるかな?」
「…………」
「ふふ……さて、では第二ラウンドといこうか!!」
再び突進してくるレイファー。
だが――さっきとはまるで動きが違う。
あの動きは……
「真・神速ノ一閃か……!」
なるほど。
たしかにこの技はダドリー戦で何度か使ったな。
我ながら、人智を超えたスピードだ。瞬く間に距離を詰めてくる。
ガキン! と。
レイファーの剣と、急いで振り払った僕の剣とが激突した。
「ははははは! どうだいアリオス君! いくら君といえど、これには太刀打ちできまい!!」
高笑いを発しながら剣戟を繰り出すレイファー。
「たしかにすごいな……」
レイファーの言う通り、さっきとはまるで比べ物にならない。攻撃の重さも、スピードも、人としての領域を軽く超えている。我ながら呆れた強さだ。
「さあ、アリオス君! 私に新たな技を見せるがいい! その度に私はどんどん強くなる!!」
そう笑い声を発している間にも、レイファーを取り巻く漆黒のオーラはどんどん濃度を増している。その度に攻撃が少しずつ重くなっていく……
化け物。
正真正銘の化け物だ。
「アリオスーーー!!」
背後にいたレイが、叫び声とともに聖魔法を発動。
上空から光の筋が降り注ぎ、レイファーに襲いかかるが――
「無駄だ!」
レイファーには光の筋の着地点が見えているのだろう。実に的確な動きで魔法を切り落としていく。
「レイ。聖魔法なんて嫌というほど見ている。私には効かないよ」
「くっ……」
歯ぎしりをするレイ。
聖魔法は希少な属性だが、レイだけが持つ能力じゃないからな。王族ともなれば、聖魔法を拝む機会も多かろう。
「こりゃあ……たしかに厄介かもな……」
元々かなり強いレイファーが、影石と宝剣アンダールを持ち。
さらには《叡智》というぶっ飛んだスキルによって、こちらの攻撃をすべて盗まれてしまう。
強いことには違いない。
だが――
「であれば……どうやっても盗めない能力ならどうかな」
「む……?」
ぼそりと呟く僕に、レイファーは怪訝そうに目を細める。
チートコード。
それは女神から授かりしスキルで、理を超えた力を持つ。
果たして――レイファーの《叡智》は、見ただけで使いこなせるようになるだろうか。
「スキル《チートコード操作》発動……火属性魔法全使用」
そう唱えただけで、僕の全身にとめどない魔力が流れてくる。魔法に疎い僕でさえ、魔法の使い方が自然に頭に流れ込んでくる――
使う魔法は……そうだな。
中級魔法あたりにしておくか。
「む……?」
僕が右手に魔力を放出した途端、レイファーの周囲に巨大な火球が出現する。どれもが成人サイズの大きさを誇っており、一般人であればひとつ喰らっただけでも看過できぬダメージが入るはずだ。
「ふう……なにをするかと思えば」
火球に包囲されながらも、レイファーは余裕そうな態度を崩さない。
「わかっているよ。火属性魔法のフレアゾーン。これしき、切り抜けられないわけがないだろう? さすがのアリオス君もとうとうネタ切れかい?」
「……かもな。いくぞ!!」
気合いの一声とともに、右手をぎゅっと握りしめる。
刹那、火球たちがいっせいにレイファーに襲いかかった。どれも高い威力を誇っているので、直撃すれば一気に戦局が有利になるはず。
だが、レイファーがそれを許すはずもなく。まるで火球の動きをすべて把握しているかのように、次々と火球を捌いていく。
そう――僕の思い通りに。
スキル発動。
《チートコード操作》。
選ぶ能力は《対象の攻撃力の書き換え(中)》。
これを用いて、レイファーの攻撃力を1/10に落とした。ついでに僕の攻撃力も10倍に引き上げておく。
「なっ…………!」
レイファーが大きく目を見開く。
「な、なんだこれは……。ぬあああああああっ!!」
攻撃力を落とされたことで、一気に調子が狂ったのだろう。いままで一太刀で火球を捌いていたのが、急にできなくなっている。
当然だ。
僕がそうやって操作したのだから。
「ぐ、ぐああああああああっ!!」
なにもできなくなったレイファーは、残り三つとなった火球をもろに直撃した。
閃光、そして爆音。
レイファーの元いた位置に黒煙が立ち上る。
とはいえ、さすがにこれでは大ダメージとはなりえない。レイファーによって多くの火球が消されてしまっていたからな。
――だがそれでも、僕はこの攻撃で大きな収穫を得た。
「くっ……!!」
もうもうと立ちこめる黒煙のなか、右腕を抑えて表情を歪ませる王子がいた。
明らかに動揺した表情。
初めて見る顔だった。
「アリオス・マクバ。いったい、私になにをした……」
「攻撃力の書き換え。ダドリーとの決闘にも使った技だけど……さすがにこればっかりは真似できないみたいだな?」
「攻撃力の書き換え……だって!?」
レイファーの瞳が大きく見開かれる。
「ありえない……。そ、そんな能力……どうやって発動しているんだ……!?」
「チートコード操作。これが――僕が女神様から授かったスキルだよ」
「神……? 人の叡智では辿り着けぬ領域……?」
レイファーはぼそりと、そう呟いた。
本作におきまして、書籍化&コミカライズが決定しました!
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