おい、化け物揃いなんだが
「ふふ。マヌーザ。そこまで怒鳴り散らかすものではないよ」
そう余裕綽々な笑みを浮かべるのは、レイファー・フォ・アルセウス。
マヌーザと比べれば、まだ冷静なようだな。
右手を腰にあてがい、どこか達観した表情を浮かべる。
その様子に、マヌーザも頭が冷えたのだろう。さっきまで戦闘の構えを取っていたが、すっと姿勢を元に戻した。
「……そうだな。見苦しいところを見せた、レイファーよ」
「まあいいよ。私だってまったく動揺していないわけじゃない」
レイファーはそう言うなり、今度は僕に視線を向けた。
「アリオス君。たしかに君の言う通りだ。私たちは――記憶の一部分が欠落している。影石を持っている理由など、私もマヌーザもわからない」
「マ、マジかよ……」
がっくり肩を落とすダドリー。
やっと事件の親玉を突き止めたというのに、まだまだ謎が残っているんだもんな。げんなりするのもわかる気がする。
そんな親玉のひとりに、僕は声をかける。
「……ずいぶん冷静だな、レイファー。さすがは第一王子ってところか」
「ふふ、当然だよ。これでも多くの死線をくぐり抜けてきたからね」
「……なるほどな」
王族ともなれば、その恩恵にあやかろうとする者は後を絶たないだろう。かつて王族の護衛を目指していた僕だって、その苦労は一般人よりはわかっているつもりだ。
そして。
そんな波瀾万丈たる人生を歩んできたからこそ、知略も人並み以上に磨かれてきたんだろう。
「レイファー。正直、あんたの策略には恐れいったよ。父やダドリーを利用して、レイを王城から結果的に追い出した。ラスタール村に第19師団を派遣し、言葉巧みに僕たちを監視しようとした。……結果的にはなんとかなったけど、毎回、あんたの戦略には驚かされてきた」
レイファーの知略を跳ね返せたのは、まさしく僕の規格外なスキル――《チートコード操作》のおかげ。
これがなければ、とっくに詰んでいただろう。
レイファーも《チートコード操作》も、もはや化け物の領域である。
そして――だからこそ、僕は煮え切らないものを感じていた。
「レイファー。認めるよ。たしかにあんたはすごい。そんなあんたが――なぜ、訳もわからないままに事件を企てるんだ。なぜ、《全人類奴隷化計画》なんかに手を染めるんだ!」
「ふふ。決まっているだろう。これは信念だ」
「信念……だって?」
「そう。マヌーザも私も、我がアルセウス王国をこよなく愛している。そのためならば――多少の犠牲はやむなしなのだよ」
「うっ……!」
エムが辛そうに両目を閉じる。
「そ、その犠牲に選ばれた私は……! 実験体は、どうやって生きればいいんですか! 私はまだいいけど……他のホムンクルスは、帰る場所も、親しい人も、誰もいないんですよ!!」
「…………」
レイファーは数秒間黙り込むと、エムの瞳をしばらく見つめ続けた。
そして両の目を閉じるや、相も変わらず毅然とした態度で言い放つ。
「エム。私が言っても説得力は微塵もなかろうが……君たちには申し訳なく思っている。恨むなら存分に恨んでほしい。それで気が晴れることはないだろうが、すべての責を受け止めよう」
「っ…………」
下唇を噛み、エムは視線を横に逸らす。
「エム……」
僕はそんな彼女の頭を撫でる。
人に造られし小さな女の子は、僕の腕のなかでぶるぶる震えていた。
「はっきり言おう。レイファー。あんたは最低だ。あんたのせいで苦しめられている人は、大勢いる」
「…………」
「……だけど、それでも引く気はないってことだな? あくまでアルセウス王国を守るために」
「ああ……そういうことだね」
対峙するレイファーの瞳には強い力が宿っていた。
未知なる者に記憶を奪われても、なお、失われることのない信念。
そしてそれはマヌーザも同様なようだ。黙ってレイファーから離れ、戦闘の構えを取っている。
……であれば、僕も相応の覚悟を見せる必要があるだろう。
化け物と対するには、《チートコード操作》という化け物を用いるしかあるまい。
スキル発動。
チートコード操作。
―――――――
使用可能なチートコード一覧
・攻撃力アップ(小)(中)
・火属性魔法の全使用
・水属性魔法の全使用
・無属性魔法の全使用
・対象の体力の可視化
・対象の攻撃力書き換え(小)
・吸収
・無敵時間(極小)
・古代兵器召喚(一)
・対象の経験値蓄積の倍加
・○○○○の○
――――――
選ぶ能力は攻撃力アップ(中)だ。
相手がどんな動きをするかわからない以上、まずは無難な能力を選択するのが得策だろう。
と。
スキルを発動した瞬間、僕の周囲を青色のオーラが包み込み始めた。心なしか、周囲の空間さえ歪んでいる気がする。
「スキル《チートコード操作》か。相変わらずとんでもない熱量だね。身震いがするよ」
言うなり、レイファーも自身の右目に手をあてがう。
「……であれば、こちらも常軌を逸した力を使わせてもらおう。世の理をも越えたこの力……いくら君とて、やすやすと突破はできまい!!」
――あれは。影石の力か。
フォムスのときと同様、漆黒のオーラがレイファーの周囲を取り巻く。
やはりすさまじい圧力だ。
影石の効力だけでなく、元々レイファーはかなりの使い手なのだろう。
「……アリオス、兄様との戦い、私がサポートするわ!」
頼もしい声を発するのはレイミラ・リィ・アルセウス。
僕の幼馴染みにして、レイファーの妹でもある聖魔法使いだ。彼女もこの戦いに思うところがあるのだろう。
「兄様の戦い方はなんとなくわかってる……! だから背中は任せて、アリオス!!」
「ああ……わかった。頼んだぞ」
その一方で。
ホムンクルスのエムは、光の闇の剣を出現させ、マヌーザと対峙していた。
その顔つきには覚悟が宿っていて。鋭い眼光で、アルセウス救済党の党首と向かい合っていた。
「私は……私が誰だかわからない。生きる意味もわからない。だけど――アリオスお兄ちゃんたちと過ごした時間だけは、本物だった……!」
そして毅然と、マヌーザに向けて言い放つ。
「だから私はアリオスお兄ちゃんのために戦う! いままで苦しいだけだったけど、足掻いて足掻いて足掻き続けて、生きてて良かったって思うために……!!」
「エムちゃん……よく言ったぜ!」
ダドリーもやる気を漲らせ、エムの隣に並ぶ。
「マクバ流は破邪顕正の剣……てめぇみたいな悪党、この剣聖様が倒してやんよ!!」
「ふん……駒どもが、よく吠えることだ……」
マヌーザは口元を歪めると、姿勢を低くし、剣の柄を手に取った。
あいつにも、レイファーと同様、漆黒のオーラが取り巻いている。
「アルセウス救済党が党首、マヌーザ・バイレンス、どんな小物が相手だろうと容赦はせん。死ぬ気でかかってくるがいい、ホムンクルスに孤児よ!!」
――かくして、僕たちの戦いは始まった。
本作におきまして、書籍化&コミカライズが決定しました!
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