おい、謎だらけだぞ
さて、敵も片づいたところで、《施設》の探索を始めるか。
「…………」
淵源流、一の型。
――無の呼吸。
瞳を閉じて周囲の気配を伺うと、各所で構成員たちが巡回しているのがわかる。しかも実験体N――ホムンクルスまでもが敵に回っているようだな。それ以外にも未知の敵がいそうである。
施設の最奥は……残念ながらまだ見通せない。相当に広いみたいだな。
目を開けると、レイが後ろ手を重ねて待っていた。さすがというべきか、僕がなにをしていたのかを察したみたいだな。
「どう? アリオス」
「ん。いるな。複数箇所に敵反応。油断はできなさそうだ」
「そう……わかった」
怯むことなく頷く第二王女。
この先に誰が待ち受けているのかわかったうえで――それでも立ち向かおうとしている。
「……強くなったな、本当に」
ぼそりと呟く僕に、レイは「え?」と目を丸くしたあと、ふふっと微笑んでみせる。
「……そんなことないよ。だとしたらアリオスのおかげ」
「ん……? 僕のおかげ……?」
「うん。いつも勇敢に戦ってるあなたに――ずっと勇気を貰ってたから」
「お、おう……。そうなのか」
そんな自覚はまったくなかったけれど。
でも、そんな彼女の強さは、今後きっと役に立つ。
僕はくるりと振り返ると、改めてチームメンバーを見渡した。
――ダドリー・クレイス。
言わずもがな、チームにおける前衛タイプだ。魔法は使えないものの、上位スキル《白銀の剣聖》はかなり強い。
そうだな……
実力はだいたい、Sランク冒険者の一歩手前といったところか。リオンにはまだ及ばないものの、充分に頼れる戦力だ。
――エム。
こちらも前衛タイプだな。亜空間から光と闇の双剣を出現させ、圧倒的な攻撃力で相手を追いつめる。
実力はAランク冒険者と同程度か。
現時点では、実験体Nよりやや弱いかもしれない。
だがそれでも、戦闘面では問題なく活躍してくれるはずだ。
そして――レイミラ・リィ・アルセウス。
上位属性たる《聖魔法》を扱うことができるお姫様だ。
聖属性――すなわち、攻撃・補助・回復と、この属性だけですべてをこなせる万能属性。この魔法があるだけで、チーム戦はだいぶ安定するだろう。
レイの実力は……だいたいBランク冒険者と同程度かな。
彼女もだいぶ強くなったが、戦闘では後衛で補助を任せたほうが良さそうだ。
そして僕――アリオス・マクバ。
自分で言うのもなんだが、剣も魔法も扱えるので、戦闘の様子を見つつ動くのが無難だと思われる。
ダドリー。
エム。
レイ。
そして僕。
それぞれまったく違う人生を歩んできたけれど、パーティー構成は悪くないはずだ。
勝てる。
この先、どんな敵が潜んでいようとも――!
「みんな、頑張ろう。レイファー殿下にマヌーザ党首……一筋縄ではいかない敵ばかりだけど、僕たちなら勝てるはずだ!」
「「「おーーっ!」」」
仲間たちの威勢のいい返事が重なった。
「それにしても……妙ね」
しばらく探索を続けていると、レイが考え込むように立ち止まった。
ちなみに、ここまで三度の戦闘があった。初戦と同じく、アルセウス救済党と実験体Mの組み合わせだ。
だが、僕たちはそいつらを難なく撃破。
みんな和を乱すことなく、連携をとって戦ってくれていた。
「レイ……どうした?」
「ううん……レイファー兄様の目的が、いまいち掴めなくて……」
「目的……? 次期国王の座を狙ってるんじゃないのか?」
そのために、レイファーはわざわざレイを王家から遠ざけたのだ。
国王から気に入られているうえに頭の良いレイは、レイファーにとって間違いなく邪魔だったはず。
「私も最初はそう思ってたけど……だけど、お兄様は第一王子よ? 頭もキレるし、度胸もあるし……このまま順当にいけば国王になれたはず。むしろテロ行為をするほうがリスキーだと思わない?」
「そうか……たしかにそうだな……」
レイの言う通りだ。
いくら国王の座を狙っているとはいえ、レイファーは明らかにやりすぎだ。フォムスを使ってエアリアル第一王女を暗殺させるなど、どう見ても常軌を逸している。
この暗躍が明るみに出れば、それはもはや犯罪者。次期国王どころの話ではない。
「それと……お兄ちゃん。あと、全人類奴隷化計画もよくわからないです」
エムが僕の腕を掴みながら会話に入ってきた。
「レイファーさんは王子ですよね? 元々、人を従えている立場の方が……なんでそんな計画を……」
「エム……」
元奴隷としての疑問点だろうか。
レイの発言はかなり胸に来るものがあった。
「はっ、関係ねえよそんなの」
ダドリーが強気に笑いながら言う。
「俺は、俺を陥れたレイファーを許せねえ。だからぶっ飛ばす。それだけだ」
実にダドリーらしい、単純明快な答えだ。
だが、たしかにこれは考えてもしょうがないのかもしれない。正直なところ、本人にでも聞かないとわからないからな。
それから、探索をするうちに収穫がひとつあった。
この施設名が判明したのだ。
――アウト・アヴニール。
それがこの施設の名前らしい。
なにやら荘厳なネーミングだが、たしかに普通じゃない場所だからな。等間隔でホムンクルスの入ったポッドが置かれている光景は、見ているだけで気が狂ってしまいそうだ。
だがそれでも、僕たちが立ち止まることはない。
敵を着実に倒しながら、僕たちはついに、最奥部と思われる場所に到着したのだった。
本作におきまして、書籍化&コミカライズが決定しました!
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